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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
冒険のための準備
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初戦闘

 その日は朝から外が騒がしかった。


「おはよう、どうしたの?」

「おはようエルナー。ごめんなさいね、今ちょっと危ないから外には出ないでね?」


 急いで準備したのか、少し服がずれているけど気にした様子もなく母さんが僕を見る。

 今朝早くに村の自警団から連絡があり、なんでも少し離れたところでゴブリンを見かけたのだとか。

 念のために父さんと母さんが周囲を警戒して回る為、今日は外に出ないようにと釘を刺される。


 急に一人になったため、手持無沙汰となった僕はふと、昨日のことを思い出す。


 母さんが、急変したのだ。僕を溺愛する方向に。


 母さんの愛情は確かに感じ取れるほどには大きかった。それが膨れ上がって破裂して、抑えが一切なくなった感じだ。


 そうなった原因は、今僕の頭の上で休んでいるよ……。



  △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



「使徒様……ですか……。信じがたいけど、この圧倒的なまでの魔力は……。あぁ、クゥナリアが聞いたら狂喜乱舞するわね」


 くーちゃんが自己紹介して、エリカお姉様が言った愛し子の下りで母さんの目からハイライトが消えた。

 その様子を僕と父さんはビクビクしながら眺めるしかなかったけど、くーちゃんがエリカお姉様の代弁と自身の想いを語るやニッコニコし始めた。


 変わらずビクビクしていると、母さんたちは『女子会』なるものを開くそうで、僕と父さんを部屋から追い出した。年齢? 聞いちゃいけない。僕も言わない。それで誰も不幸にならない。いいね?


「ねぇ父さん、さっき母さんが言った『クゥナリア』って誰?」

「あー、うん。雷牙っていう冒険者パーティーの魔法使いだな。彼女とレナは特に仲がいいんだ」

「冒険者パーティー! 雷牙っていうのはパーティーの名前なの?」

「そうだ。昔ちょっと事件があってな。そのとき獣人国側から送られてきたのが雷牙だったんだ」


 雷牙は獣人国で上位のパーティーで、とてもバランスの取れた構成のようだった。


(タンク・近接・中距離・後衛。素晴らしい……)


「事件で他国からって、相当ひどい事件だったの?」

「あぁ、ラーナスタの南にある秘境のエリアが広がったんだよ」

「秘境?」


 聞くところによると、秘境とは魔力異常によって自然そのものが変異した場所のようだ。

 人類が生存するためにはその秘境を開拓しなければいけないのだが、その開拓が地獄を見るような過酷さを誇るのだとか。

 そんな地獄を乗り越えて勝ち得たのが熱砂の地にある『巨人国グランオルム』と険しい山脈に国がある『洞人国ティータラース』。


(グランオルムにティータラース……巨人と洞人……行ってみたい……!)


「で、南の秘境だが。ここの村が昔秘境の開拓をしたときの名残の場所でな」

「あれ?でも南から行商の人来てたよね?」

「そうだな。それから開拓が進んでもう少し南にも村ができているんだが……丁度十五、いや十六年前か。急にその秘境が拡大してな? 押し込むのと、安全のために開拓を進めるのとで各国に協力を求めたんだ。その時に来たのが『雷牙』だったんだ」


 その時にパーティーリーダーのラーシャーという狼の獣人さんと父さんが意気投合したらしい。


『共に生きる仲間が苦境に立たされているんだ。助けに向かわないなんて選択はなかったさ』


 そういったらしい。格好いいね! 昔は随分蔑まれていたらしいけどこんな義に篤い獣人ばかりみたい。そんな彼らを蔑むとか昔の人は馬鹿ばかりだったのかな?


「昔の人は馬鹿ばかりだったんだね」

「お、おぉ? 随分怒ってるんだな、エルナー?」

「当たり前だよ。自分たちと違うのは蔑んでいい理由にならないもん。それにしてもラーシャーさん、とても格好いいね! 会えたらお話いっぱいしたいなぁ……」

「息子の目が凄くキラキラしてる……」


 気持ちのいい人たちだったから、父さんたちは雷牙の方々と仲良くなったんだって。

 特にクゥナリアさんと母さんは同じ属性を扱う魔法使い同士意気投合したみたい。


「五年間一緒に戦い続けたよ。そうしてやっと、今の状況になった。その時に使徒様の話を延々と聞かされて、つい、な」

「あー、なるほどね。それなら確かに母さんも知ってるよね。なんだ……」

「なんだって、なんだ」


 苦笑い浮かべながら頭をぐりぐり押さないでぇ!



△ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



 いやぁ、頭が割れるかと思った。そんなこと思いながらふと窓の外を見やると、なんとそこには見慣れた黒髪が近づいて……え?


「ちょ、ちょっとアリーチェ!? 外に出たら危ないって言われてないの!?」

「言われてたけど、エルナーの家近いしくーちゃんにも会いたいし……」


 やめて、上目遣いやめて。レスター兄様になっちゃう。


「とりあえず、急いで家の中に……っっっ!!!」

「きゃっ!?「グギャアアアアァァァ!?」……え?」


 咄嗟に右手を伸ばして土の場を作りゴブリンの足を穿った!

 声を聞きつけたのか仲間のゴブリンが三体姿を見せる!!


「そんなお代わりはいらないよっっ!!」


 まずは足止めしないと……! 土じゃ速度が足りない、水じゃ抜けられる、火だと村に被害が出る……!

 風は……出来ないとか言ってる場合じゃないんだけど……!


 お手本は見たじゃないか、赤ちゃんの時! 弟子入りに来た青年が吹き飛んだアレ!


 急遽周囲の場が流れ風に作り替えられた。強風が発現してひとまず押し退け時間を稼げる。その間にやるべきことはたくさんあるけど……明らかに、手が足りない!


「おじさん! おばさん! 急いで家の中に入って! 近くに人がいたら! 声かけて安全な場所に!!」


 優先順位は周囲の安全。一人だって欠かしちゃいけない。

 すると異変に気付いたくーちゃんが強風から何とか抜け出したゴブリンの一匹を丸焼きにした!


『ごめんですの! 村に被害が出ないように魔力でコーティングしてたら遅れたですの!』

「大丈夫! ありがとうくーちゃん!!」


 残りは三匹だ! 一匹は足を怪我して動きが鈍い。何とかして残り二匹を倒さないといけない!


(今は風で押してるけど……っ! 決定打が、足りない! どうする、考えろ考えろ考えろっ!!)


 漫画、そう、漫画だ! 風に刃を付ける……だめだ、そんなイメージこの状況で成功しない! あ、そうだ!


「トーチ!!」


 左手にトーチを灯し、強風にくべる。

 するとどうだろう。イメージも手伝ってか炎を纏った風がゴブリンを焼き尽くす……おかしくない?


『ごめん、応援に力入れすぎてつい……』


 エリカお姉様……でもありがとうございます。助かりました。


「グギャアアア!!」

「……え?」


 ゴブリンは倒した、はず?

 ゆっくりと見える。そのゴブリンは足を引きずりながらも意外と俊敏に僕に近づいて、手に持つ棒を振りかざしていた。

 体は、動かない―――。



「てやぁぁぁぁ!」


 僕とゴブリンの死角から飛び出した黒い風がゴブリンを打つ。

 ゴキリ、と鈍い音とバキリ、という聞きなれた音が同時に聞こえた。


「ハァハァハァハァハァ……エルナー、えるなぁ……よかったよぉ……」

「……あ。あぁ、アリーチェ……。う、うぅ……」


 アリーチェが助けてくれた。油断した僕を。何て情けないんだろうか。

 そしてなんてありがたいんだろうか。怖かっただろうに、勇気を出して僕のために頑張ってくれた。


 僕とアリーチェは抱き合って泣きじゃくっていたよ。優しくて愛おしくて、とても強くてか弱い女の子。この子が無事で本当に良かった……。


 だからこそ。あぁやっぱり漫画は正しいんだと思ったよ。『勝って兜の緒を締めよ』だったっけ、勝ったときほど油断しちゃいけないっていう教え。

 パキリと枝を踏み折る音がした。新手のゴブリンが現れてしまった……!


 けどね? 僕もアリーチェも不安何て何一つとしてなかったんだ。だって今僕たちは暖かい橙色の光に包まれて護られている。


 そしてなにより、くーちゃんがね?



 ブチギレているんだよね……。



『この、クソゴミが……? エルナーを、アリーチェを、害そう、などと? 許されるはずが、無い、よなぁ?』


 くーちゃん、いつものですの口調はどこに行っちゃったの……?


『この子たちに、与えた分以上の恐怖を、くれてやるわ。覚悟、しろ?』


 煌々と輝くくーちゃんの周りの光が、その本能に危機を教えたのか。ゴブリンは背を向けて逃げる。

 しかしくーちゃんはそれを許さなかった。


『   く   た   ば   れ   』


 瞬間、ゴブリンの足が溶け落ちた。次に腕が。次に反対側が。けれどゴブリンの絶叫が止まらない……!


 お願いくーちゃんもうやめて!? ゴブリンのHぴ―――。

お読みいただきありがとうございます!

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