星詠みの塔にて sideアリーチェ
「ここが星詠みの塔だ。ひとまず今日はここで一室を借りるとしよう」
ラーシャーさんはそう言って、大きい門の横にある小さなドアに向かっていく。
私たちは8日ほどで獣人の国『コーカトリア』へとたどり着いた。幸い晴れが続いていた事、身体強化込みでの移動だったから、かなりの速度を出せたこと。そして道中に魔物とあまり遭遇しなかった。
エルナーとの距離が、だいぶ近くなっている。どうしてエルナーの方からも近づいて来てくれていないのか、ちょっと不満もあるけど……離れたり近づいたりしているから、たぶんまた何かやっているんだと思う。
カッシュさんに促されて私たちも星詠みの塔って呼ばれている、とても高い建物へとはいっていく。
そこでクゥさんが、白くてもこもこしたお髭の獣人さんと話をしているのが見えた。
「ふむん? あの子が使徒様が守護する子じゃな?」
という声が聞こえてきて、クゥさんと一緒にこっちへと近づいてくる。
「はじめまして。ワシはこの星詠みの塔の所長を務めておる、アズルという者じゃ」
「は、はじめまして。私はアリーチェといいます。それでこちらが」
『聖鳥クーデリカですの』
くーちゃんが自己紹介をした途端、アズルさんが跪いた! 遠巻きに見ていたヒトたちも同じように跪いてる……こういうとき、どうすればいいんだろう? エルナーはどうしていたっけ……?
『立ってほしいですの。私に対し、必要以上に畏まる必要はないですの』
「はっ、承知しました」
立ち上がったアズルさんの後ろで、ラーシャーさんとクゥさんが頷いている。
たぶんだけど、これも必要な事だったのかな。
アズルさんの案内で、内装が整った部屋に入る。
「それで、どうされましたかな?」
「実はな……」
ラーシャーさんが主導して話をしてくれたおかげで、スムーズに進んでいく。
こうして見ていると、ほんとうにエルナーって色んなことができたんだなって思う。私も少しずつ覚えて行って、隣にいて恥ずかしくないように頑張らないといけない。
「なるほどのぅ……それで北西へと向かう途中という訳じゃな。となると、『赤の森』あたりになるのかのぅ」
「『赤の森』? なるほど、そんな時期か」
ふと、外が騒がしくなっていることに気づいた。耳を澄ませてみると、近くの村で魔物の被害が出たらしい。
腰が浮きそうになったけど、肩のくーちゃんが翼で窘めてくれたおかげで、どうにか落ち着けた。
「騒がしいな、何かあったのか?」
「そう言えばぁ、町でもみんな表情が暗かったわねぇ?」
「お主らが旅立った後、色々とあったんじゃよ。海は今危険な状態で漁はできず、オークをはじめとした魔物の異常発生があったりとな」
「それはまた、タイミングが悪いな。レグナントのやつ、今は試練なんだろう?」
「そうじゃな。じゃが、お主が言うようにタイミングが最悪でのぅ……人手が足りずに、一人で行っているんじゃよ」
「はぁっ!?」
そのレグナントさんという人が、試練って呼ばれていることをしている話を聞いて、私とくーちゃんはピンときたよ。思わず目を合わせて、エルナーらしいねって笑い合った。
「ん? アリーチェどうしたの?」
隣に座っていたメローネに聞かれて、もたれかかるようにくっつく。突然で驚かせちゃったかな、でも笑いながら許してくれたから、そのまま答えることにするよ。
「たぶんね、エルナーは今そのレグナントさんって人と一緒に居るんだと思う。伝わってくる位置と似た動きだし、エルナーなら出会ったら放っておかないかなって」
「あ、あー。うん、なんか私もそんな気がしてきたよ」
アルトたちも、エルナーならそうかもなー、と言って笑っているよ。どこかマイペースなところがあるから、あまりにもエルナーらしい行動だなってみんなが笑うんだ。それがちょっと嬉しくて……それでいて凄く寂しい。
「うんうん、そうだよねぇ。寂しいよねー。大好きなエルナー君が一人でそんな面白そうなことをしてるなんて、悲しいよねー?」
「……メローネ、からかってる? 見えなくても分かるよ、今絶対ニヤニヤしてる……まあ、その通りなんだけど」
「あはは、バレちゃってた」
ふと、ラーシャーさんたちの声が聞こえないことに気づいて、そっちを見ると私を見ていた視線とぶつかる。
「そうか、位置的にはそうなるのか。それだと非常にありがたいな。エルナーなら余程の相手じゃなければ、後れは取らないだろうし」
「のう、ラーシャーよ。そのエルナーという少年は、それほどなのかの?」
「ああ、誇張無しにエルナーは強いよ。魔法に至っては俺の知る誰よりも、な。だよな、クゥ?」
「そうだね、ボクも同意見かな。というか、ボク自身もエルナー君のお陰で成長できたところはあるからねー」
アズルさんは目を丸くして驚いていたよ。表情を崩して大笑いして、すごいのー、とエルナーを褒めてくれた時は、私の事のように嬉しかった。
星詠みの塔で泊めてもらい、翌朝にはエルナーと合流するために北西に向けて出発した。それなりに距離はあるけれど、ちょうどエルナーも南下している所だからもうすぐ会える。
けど、これまでと違って魔物との遭遇が増えてきた。コカトリスって呼ばれる魔物がよく現れて、倒し方や相手の危険な攻撃を教えてもらいつつ、経験を積んでいった。
「――シィッ!」
行く手を阻むように現れたコカトリスの集団の端に、『風錬』を纏った状態で斬り掛かる。
魔鉄によって強化された私の剣は、一切の抵抗を感じさせずにコカトリスを両断した。
両手に剣をもって踊るよ。首を、足を、蛇の尻尾を切り落としていく。ルルゥさんやシューゲルの放つ矢も、クゥさんやラムダの魔法も。
みんなの攻撃は、必殺となってコカトリスの群れを僅かな時間で倒しきった。
可能な限り距離を縮めたけれど、やっぱりエルナーの元には届かなかった。
けれど、もうすぐ会えるんだと思うと心が弾むよ。たった9日……夜を明かしたら10日になるんだね。それだけなのに、エルナーのいない日がもう何年も続いたかのような、そんな気分になる。
野営のテントの下で、そわそわして眠れない私に気づいたクゥさんとメローネが、両側で横になって手を握ってくれる。逸っていた気持ちが落ち着いて、気づけば眠ることができていた。
「今日で合流できそう!」
「おー、アリーチェがすっごく元気になった!」
「愛かなー? 愛だよねー?」
「もー! クゥさん、そんな風に茶化すなら、カッシュさんに抱きしめさせるよっ!」
「ぶっ! んなっ、ちょ、アリ……」
メローネが笑いかけて、クゥさんに茶化されて、慌てるカッシュさんを見てみんなで笑って。
みんなもその時を楽しみにしているのがよく分かる。笑顔なんだよね。
お昼を少し過ぎた頃には、走れば夕方くらいには、という距離まできた。
「ふむ、それなら一気に行くか?」
というラーシャーさんの提案にみんなが乗った――瞬間だった。
ぞわりと、悪寒が全身を貫いた。
感じたのは私だけじゃない。一斉に北西へと鋭い視線を向けている……!
まってよ、ようやく、ようやくエルナーに会えるのに! 何があったのかはわからないけど! お願いだから邪魔をしないでッ!




