二度あることは
北東に位置する石碑へ向けて歩く事、ほぼ2日。コカトリスとの遭遇が非常に多くて、移動にやたらと時間がかかってしまったよ。
食べるぶんだけ確保して、他の倒したコカトリスは魔法で燃やして処理した。なんとなくこの地では、放置することを憚れる気がするからね。
「どうにか着いたな。ここで祈りを捧げたら野営の準備をするとしよう」
「そうですね。まだ明るいですが、すでに日はだいぶ傾いてますし……何より魔法をずっと使っていたので疲れました……」
「俺も腕が張ってるな……」
あまりにもコカトリスとの戦闘が続くものだから、常時『火精』を5体引き連れつていた。困ったことにゴブリンやウルフなんかとも出くわすものだから、剣に魔法にと大忙し。
レグナントさんも大剣を振り続けていたからね。揉み解しながら苦笑いを浮かべていたよ。
レグナントさんの腕に冷やした空気を纏わせるよ。確かアイシングっていったかな? 知識元は野球漫画。
僕だって冒険ものばかりを見ていた訳じゃなくてね、時々スポーツものや恋愛物を読んだりもしていたんだよ。
意外な事に、そういったジャンルから得た知識も、意外なところでそういえば~ってなるものだと実感している所だ。
「お、これ気持ちいいな。ありがとう」
「疲れを残すのは危険ですからね。にわか知識かもしれませんが、こうするといいと思いまして」
そうこうしている間に石碑の元へとたどり着き、レグナントさんは片膝をついて両手を組み、祈りの態勢へと入った。
「“歴史に学び、知を結べ。隣人を尊び、勇敢を得よ。苦境の時代は終わり、子らの未来を言祝ぐ”」
今回で三度目ということで、祈りの様子をじっと見ることにする。なんというか、考え事ばかりしてちゃんと見てなかったなと反省していることろです。
証のナイフから魔力が溢れるのはここでも同じ。レグナントさん自身からもほんの少し、魔力が石碑へと注がれているのも見て分かる。
石碑を注視していたからか、ふと刻まれた文字の色が、白から石碑と同じ色に変わったように感じる。
黒い石碑にただ文字を掘っただけに見えるため、本来なら間近じゃないと文字は見えづらいはずだよね?
けど祈りの間はしっかりと文字が見えていたような……いや、今はレグナントさんの儀式に注目しよう。
「よし、3番目の石碑への祈りも済んだ」
「……あれ? もうですか?」
「前2つも、このくらいの時間だったぞ?」
「考え事してたので、正直時間の感覚無かったです」
「あ、うん。そうだったな」
まあ終わってしまったのならいいかなと、改めて文字を見る。
念のため魔力視を使って見てみるも、特に変わった様子は見られなかった。
「意識を向けていなかったから詳細には覚えていないけど……うん。レグナントさんが祈りの態勢になった時から、僕は掘られた文字を見ていたはず。レグナントさんが石碑に刻まれた教えを口にしたとき、確かに文字を目で追っていたから、間違いないよね……」
「なんだ、今度は何を気にしているんだ?」
うん、だめだね。気になって仕方がない!
レグナントさんに一言断りをいれて、僕も祈りの態勢をとってみることにする。
「……変わらないね。“歴史に学び、知を結べ。隣人を尊び、勇敢を得よ。苦境の時代は終わり、子らの未来を言祝ぐ”……教えでも反応しない。やっぱり証のナイフが鍵なのかな?」
「……父キアラへの信仰心じゃないのか? それか獣人族であるかとか。真面目に祈る意思とかも関係していたりな?」
「……盲点でした」
考えてみれば、だいぶ不純な動機で教えの言葉を口にしちゃったんだよね。ちょっと、いやかなりまずい事をしたような気がするぞ。
うーん、今からでも真面目にお祈りしますので、キアラ様。どうかお許しをいただけると嬉しいです。
「…………」
「ッ!」
「“歴史に学び、知を結べ。隣人を尊び、勇敢を得よ。苦境の時代は終わり、子らの未来を言祝ぐ”」
深く、深く。その言葉の意味を想像しながら、教えの音を紡ぎだす。
彼ら獣人族は、同族の繋がりというのか、情に篤いところがある。かつては迫害された歴史を持ち、しかしながらその生き様をもって克服して見せた。そして知識の坩堝たる星詠みの塔なんかは、この世界で一番賢者が集まっているといっても過言じゃない。
キアラ様の教えを、ひとつひとつ実践していったんだろうね。なんとも彼ららしく、なんて尊敬できる人々なんだろうか。
もちろん今まで関わった小人族や洞人族も、それぞれ違った強さというのかな。確固たる“自分”というものを持っているんだよね。それに比べると僕たちヒト族は揺らいでいる部分が多いような気がする。
それはさておき、ヒト族であるぼくですら、獣人族のみなさんが築いてきた歴史が、この教えを遵守しているということを理解できている。
代々の指導者はもちろん、全ての獣人族のみなさんが協力してきたからこそ、可能となったことなんだろう。
凄いヒトたちだよね。いまだたった5人としか知り合っていないというのに、これだけ圧倒させてくれるんだから。きっとキアラ様も……今はシャルナス様となってしまっているけれど、誇りに想っているんじゃないかな。
……気づけばだいぶ深く祈っていたみたいでね。目を開いたときには既に日が傾いていて、薄らと空が赤みを帯びていた。
「ずいぶん熱心に祈ってくれていたんだな。エルナーの周りに、金色の光が溢れていて、なんていうかすごかった」
どうやら無意識に魔力を練っていたようだ。
「それと、エルナーの疑問も解消できたかもしれないぞ?」
「どういうことです?」
「エルナーが教えを口にしたとき、文字が光ったんだよ。祈りの姿勢を解いたときに光は消えたから、真剣な祈りであるかどうか、だったんだろうな」
となると、また別の疑問が浮かんできてしまう。
いや違うか、これは好奇心のほうだね。どうやって判定して、どうやって光らせているのか。魔法なのは違いないんだけど手段というか、手法というのが非常に気になる所だ。
「魔法は想い。祈りもまた同じように起用できるとして、その判定をどこで行っているのか……」
「また始まったな……俺は野営の準備をしてくるから、好きなだけ考えていてくれ……」
結局、ここでも僕は思考の海に潜ってしまっていたらしい。
石碑から少し離れた場所で、ほとんど準備を済ませたレグナントさんに、生暖かい目を向けられてしまったよ……。
お読みいただきありがとうございます。
実はいま、全部大幅に改稿しようかと考えています。
というのも、過去の話でどういう設定にしたか確認したところ、独りよがりな進み方しているなぁと感じてしまいまして……。
物凄く中途半端なため、今章終わるまでは現行で更新しますが、終わり次第作業に入ろうと考えています。
話数が話数なため、改稿版を新規に投稿する形を取ろうかなと考えています。その際はまた見つけていただけると嬉しいです……。
私の自己満足でご迷惑をおかけしますが、何卒ご了解いただけたらと思います。




