使いどころが難しい
コカトリスたちが同時に魔法を放ってくる。火球と氷柱だ。
それに対し、僕からは石弾を即座に放って相殺し、次の手を打たれる前に魔力を練り上げる。
まずは『ディグ』でコカトリスたちの足元を掘り下げるも、野性的な勘なのかな? 避けられてしまった。
「まあ、想定内」
落ちたならばそれまで、避けられたのであれば、次なる手を。
掘った際に出た土を操作して土槍を発現させ、相手の行動を操作しようと試みる。
突如眼前に出てきた土槍を、どうにか避けて見せたコカトリスたち。けれど僕は意地悪でね、あえて避けられる程度に距離をあけておいたんだ。
脚を奪うことを目的として、土槍の根本付近に鋭利な突起を作ってみた。
一羽は目論見通り片足を落とし、もう一羽は偶然にも蛇の尾が斬り落とされていた。
「……なんてえげつないことしやがる」
「戦略ですよ。か弱い魔法使いは、こうやってアドバンテージを作るんです」
「……は?」
まずは尾を切り落とされて、怒り狂ってる個体から狙うとしよう。
享楽鳥が使っていた、不可視の斬撃を模倣した『風刃』を放って首を狙う。
それなりの速度と威力を備えた魔法であり、意外と使い勝手がいいため、なかなかに気に入っている。
怒りで視野が狭くなっている相手ならばね、何の工夫も無く真っ直ぐ放っても問題とはならない。冷静であったなら、たとえ不可視であろうとも『ディグ』を躱せたのだ。『風刃』だって避けられただろう。
奇声を上げている最中のコカトリスの首が、僅かな斬撃の音と共に落ちるのを見た。そのコカトリスの足を絡めとるように土を魔法で動かして、高い位置で吊り下げる。晩御飯ゲットだね!
「残るは、片足を失った一羽のみ……」
「お前、そんな性格だったか??」
何故か首を傾げて不思議そうにしているレグナントさんはさておき、残る一羽を見やる。
その目を見てしまったのがいけなかった。
「あ……」
知っている目だった。妖精の祝福からも伝わってくる、その感情。
「怯えて、いる?」
あまり考えてこなかったけど、魔物も確かに生きてそこに在るんだ。仲間が殺されて怯える事だって、あるだろう。
命のやり取りをしている以上、そこに同情はないけれど。僅かに考えてしまったこの時間は、明確な油断となっていた。
「――ッ! おいバカ、エルナー!」
「――あっ」
気づけば、蛇の尾が僕をじぃっと見つめていた。
気持ちの悪い魔力が僕の肌を舐め回し、ちくりと左腕が痺れだす。
「チィッ! エルナー、これを使え! 特効薬だ!」
レグナントさんが差し出す特効薬をみて、ふと思いついたことがある。それを試してみたいという好奇心が、知らず表情に出ていたんだろう。
「エ、エルナー? おいどうした、何で笑ってるんだ?」
ああ、なるほどね。蛇の尾に見られ続けていると、石化の進行が早まるのか。
徐々に強まる痛みの中、既に僕の頭の中には特効薬の事は抜け落ちていた。
「だああああ! この馬鹿! おいこら、口を開け――ッ!?」
黄金の魔力を、石化が進んできた左腕に纏わせる。これが魔法による状態ならば、僕の魔法でも大丈夫だと、そんな気がするんだよ。
だから、試してみたい。
「『神々の寵愛の焔』」
金色の焔が左腕を焼く。正確には石化した部分だけど、端から見たらそうとは分からないからね。
レグナントさんは愕然とした表情をしたあと、次第に血の気が引いているようだ。
「レグナントさん、これは自傷じゃないですよ」
「だ、だが! おま、これ……」
「大丈夫です」
笑う。笑うことで示すのさ。左腕の感覚はすでに正常なものとなっていて、気持ちの悪い魔力も燃えてなくなっている。
それに、レグナントさんは気づいているかな? 僕の左腕で燃える黄金の焔が、何かを伝うように、一直線に空中を走っている。
「な……んなぁ……!?」
顎が外れるんじゃないかってくらい、驚いた表情を見たよ。思わず笑ってしまいたくなるけれど、今ばかりは抑えておこう。
『神々の寵愛の焔』の焔がとうとうコカトリスの蛇の尾へとたどり着き、慌てて暴れるコカトリスを他所に、その尾を燃やしだす。
憎々し気な目を僕によこしてきたよ。でもね、僕の腕が石化を始めた時に、嘲るような目を見せたのを、見逃していないんだよ?
綺麗に元通りとなった左腕を見せるのさ。動揺したね、分かるよ。
自信のあるはずの魔法を、簡単に破られてしまうショックは大きいものだ。
「思いもしなかった見せ場を、どうもありがとう。過剰な魔法ではあるけれど……せっかくだからね。僕も蛇を使うことにするよ。これで、最後」
初めはいきなりその形状で発現させることはできなかった。けれどそれから二年も研鑽を重ねて、研究をし続けて。さらに想像力も高めたことで、ようやく完成へと至った、雷の魔法。
本来なら手負いの魔物一体に使うような魔法じゃないし、なにより負担が大きいからね。滅多な事じゃ使わないんだけど……今は気分が乗っていてね。
皆とはぐれてからもう三日目だ。そのストレスは確かにあって、けれどそれをレグナントさんに発するのは違うから。
高まる雷の場に乗せて、僕の魔法を魅せるとしようッ!
「『雷蛇』ッ!」
空気を爆ぜさせながら、巨大な蛇が姿を現す。その口を大きく開き、震えるコカトリスへと一気に肉迫する。
ジュウウウウウウアアアアアアアアアッッ!!
肉が焼け、炭と化し、消え去るまで数秒もかからずに。
エネルギーの暴威が過ぎ去った後には、何ひとつ痕跡は残っていなかったよ。
「……は? ……え? ……はぁ?」
「うーん、やっぱり過剰すぎる……使いどころが本当に難しいんですよね、これ……」
「……いや、そういうことじゃ、ないと思うんだ……」
とりあえずレグナントさんが落ち着くまでは、ここで休憩になるね。
血抜きもまだかかりそうだしね。ちょっと横になろう。
「おー、草のクッションって、意外と悪くない……」
「……なぁ、色々訊きたいことはあるんだが、何よりもまず腕は大丈夫なのか?」
……おお、秒で復帰するとは。
「大丈夫です。ほら、この通り傷ひとつ無いでしょう? あ、でもちょっと赤くなってるな……」
「その程度で済んだのか……特効薬だと石化が止まって、皮膚がこそげ落ちるんだが……」
「え、何それ怖い……」
使わなくてよかった特効薬!
それからレグナントさんに『神々の寵愛の焔』の事を説明し、何とか納得してもらった。
同時に『雷蛇』の事についても説明を求められ、答え終わった時には既に辺りは暗くなっていた。
「よくわかった。エルナー、お前は規格外だ」
「か弱い魔法使いになんてことを」
「本当にか弱い魔法使いに失礼だろうが」
「なんて言い草……」
その後もアピールを続けたけど、結局認めてもらえなかった。残念……。




