魔技の発動原理
エルナー視点に戻ります。
なんとかアリーチェを宥めて、さてどうしたものかと考える。
「ねぇ、くーちゃん。神様は、僕のことを愛し子って言ったんだよね? 大丈夫なの? 僕変な人に狙われたりしない?」
『……安心してほしいですの。怪しい輩は焼き尽くすから……』
「やめてねっ!?」
『冗談ですの。ただ、私はあなたと、アリーチェに会いたくて神様と約束したの。また会えて嬉しい……』
「「くーちゃん!!」」
小さくなったとはいえ、くーちゃんは子どもの僕たちが同時に抱き着けるくらいには大きい。軽く大型犬くらいはあるんじゃないかな?
そんなくーちゃんに僕とアリーチェは思うがままに抱き着いたよ。あぁ、暖かい。ふわふわ。懐かしい……。
「「すぅ……」」
「いや寝るなよ!?」
「あっはっはっはっは!!」
はっ!? 思わず寝落ちしちゃた……? 父さんの叫びとガイルさんの笑い声で目が覚めたよ。
『ふふっ、懐かしいですの。前も私に抱き着いて気持ちよさそうに眠っていましたの』
「くーちゃんに抱き着くと安心するもんね!」
『アリーチェは、随分と大人びたですの。……その羽、私のですの?』
「うん、そうだよ? これがあったから、くーちゃんとずっと一緒に居られたんだ……」
「あと、くーちゃんの骨のアクセサリーだね、ほら、これ」
そう、くーちゃんの骨をペンダントトップに嵌めたシンプルな首飾りが贈られた。
やっつけ仕事、と思われたがどうにも違ったようで、ペンダントトップの縁に小さくデフォルメされたソウドリが彫刻されていたのだ!
その職人技と気遣いに貰ってしばらくはアリーチェと泣き続けていたよ。
『とても、優しい想いが詰まってるですの』
「当然だよ。くーちゃんは僕たちの大切な友達なんだから」
くーちゃんの周りに橙色の光が浮かぶ。その数は四つ。
『想いがこれだけ溢れているならば……』
その光が、僕たちの羽ピンとペンダントトップに吸い込まれていく。
『二人に、私の想いを託せるですの!』
この感じ、覚えがある。魔法を使う感じだ、って熱い!
「「あ、熱っ!?」」
『あ。わぁぁぁごめんですのぉぉぉ!?』
ばっさばっさと翼を動かして風を送ってくる。くーちゃんちょっとドジっちゃったのかな?
そういうドジまでエリカお姉様に似なくていいのに……。
「はぁ、びっくりした。大丈夫だよ! 今のって魔法だよね? どんな魔法だったの?」
『首飾りには温度調整ですの。体温はもちろん、体感、周辺、あとは物の温度ですの。二人の、私に対する想いの熱量を誘導して発現しましたの。ありがとう二人とも、とても嬉しいですの!』
「私たちのくーちゃんへの想いはあんな熱じゃ足りないけどね!」
「あはは、そうだね。あんな一瞬で消えるようなぬるい熱は持ってないね」
僕らは笑い合いながらいちゃいちゃしていたよ。くーちゃんを中心にして。
「あー、クーデリカ様。続きは下山しながらでもよろしいですかね?」
「あ、そろそろ日が傾くんだね。下りないと暗くなっちゃう」
『でしたら下山するですの』
アリーチェたっての希望でくーちゃんを抱きかかえて山を下りていく。
見た目が大型犬ほどもあるのに重くはないのだろうか。
「アリーチェ、くーちゃん重くないの?」
『重くないですの』
「え、でも」
『重くないですの』
「……アリーチェ?」
「うん、全然重くないよ? というか、重さがない?」
『だから言ってますの! 重くっ! ないですのっ!』
「あ、ごめんなさい……」
ガイルさん、ぷるぷる震えてるけど笑いこらえきれてないですよ?
くーちゃんが言うには、純粋な生物ではなくて魔力体なんだそう。エリカお姉様が創造し、固定した魔力にくーちゃんの魂を定着させたのが『聖鳥クーデリカ』だそうだ。
だからくーちゃん自体には重さはほとんどないんだって。
「僕が悪かったよ、もう許して? 痛くないけど精神的に辛い……」
くーちゃんの翼で頬をぺちぺちされています。ちょっと癒されてるのは口には出さないけど。
そんなこんなで無事下山した僕らは気づいた。
「あ、首飾りは分かったけど羽ピンのほうは?」
「『―――あっ』」
お姉様、くーちゃんがお姉様の影響を受けてます。凛々しいくーちゃんを返してっ。
あ、でも少し抜けてるところが可愛いとも思うし……悩みどころだね。
『羽ピンには身体強化ですの』
「「え!?」」
さっきはアリーチェとくーちゃんが被ったけど、今度は僕と父さんか。でも仕方ないよ?
だって身体強化って言えば……ねぇ?
「えぇと、クーデリカ様? 身体強化というのはつまり、魔技を……?」
『魔技、ですの? それは分からないけど、魔法を内包することで扱えるようになるですの』
さらっととんでもない事を言った!
確かに魔技は魔法の一種だって話だったけど、その原理は明かされていなかった。
魔法の内包、つまり魔法を内側で発現させ続けるということ。
「えっと、失敗したらどうなるの?」
『弾け飛びますの!』
「「「うぇぇぇぇ!?」」」
怖い怖い、魔技怖い! そんな危ないものが羽ピンに? いや、くーちゃんだもん、そんなドジは……ドジ? あぁ、エリカお姉様のせいで信用が一瞬で消えた……。
『なんでよっ!?』
(だってエリカお姉様、僕が赤ちゃんの時やらかしたじゃないですかー!)
『うっ!?』
(でも、エリカお姉様? くーちゃんの件は本当にありがとうございます。次にお会いするときはいっぱい甘えさせてください!)
『本当? それならよかったわ。レスターが来るめどがついたら教えるから、早めに眠ってね?』
(はい、待ってますね!)
不安を張り付けた表情で、僕と父さんを見ていたアリーチェと目が合った。
僕の様子が変じたのを察知したのか、じっと見てくるので視線を一瞬、くーちゃんに移した。
それで理解したみたい。くーちゃんが危険なままにしておくはずがないもんね。
安全なのか父さんが訪ねると、さらに事実を教えられたよ。
魔法使い以外が魔法を十全に扱えないから魔技が編み出され、けれどその成功率は決して高くはなかった。
理由として、危険すぎたからだ。当然だ。魔法が内部で発現していたならば怪我では済まない事例もあっただろうし。
では魔技が使える人は? 答えは『熟練の』冒険者である。いや、冒険者でなくても魔物と命のやり取りを続けてきたベテラン達は割と使えている。
そのために魔技とは熟練の証ともいえたそうだ。
ベテランとそうでない者の違いとは何か。分かり切っている。経験だね。
ベテランはどんな動きをすれば体のどこの部分がどう動くのか、それらを経験で知っている。
どこを補強すればいいのかを経験則で知っている。
だからこそ、『無意識下』でその保護の魔法を行使し、『意識的』に魔技を扱っているのだ。
『無意識下』と『意識的』の両立を行うには思考速度がものをいう。
普段魔物と戦っていたのならば瞬間的な判断力は培われてきたのだろう。
父さんを例に挙げるなら、剣での極接近戦のため高速でのやり取りを経験しただろう。
無理な動きをして体を痛めたこともあっただろう。
その経験が、より速く、より硬く、そんな想いが発現したのが『向上』と『硬化』なのだ。
頭脳を中心とした魔法使いが魔技を扱えないのは、肉体的な部分の経験が不足しているんだ。
「私も、経験を積めばいいんだね……ねぇ、おじさん。もっと、経験を、積ませてください」
「すまないが、まだ駄目だな」
「なんでっ」
「無茶を言ったらだめだよ、アリーチェ。僕たちはまだ体が出来てないんだ。今無理をして綺麗な体型を崩すよりも基礎を繰り返して、今後に備えたほうがいいよ」
「綺麗っ!! あうぅ……」
「アリーチェ?」
「な、なんでもないよ! エルナーが言うなら、そうする」
赤くなったアリーチェが可愛い。けど、分かってもらえてよかったよ。
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