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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
王太子の試練と眠れる災厄
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転移直後 sideアリーチェ

 エルナーの魔法による、今となってはもう馴染みとなった転移の感覚。肌に感じる空気が一瞬で切り替わって、周囲の把握のために感覚を研ぎ澄まして気配を探る。

 ここは覚えがあるね。『首都ファウラ』の西門に繋がる街道から、少しだけ離れた場所だと思う。


 ふと、恐怖にも似た違和感を感じた。いつも私の右隣にいてくれるはずの場所から、大好きな気配を感じ取れない……っ!


「――ッ! エルナーはどこ!?」


 エルナーだけがここに居ない! イタズラならこのタイミングで出てきてくれるはずなのに、その様子が全く感じ取れない。

 怖い。心臓の鼓動が早く、大きく聞こえる。視界も何だか定まらない……。


『落ち着くですの。ゆっくり、息を吸って、深く吐いて。そうですの、ほらもう一度ですの……』


 肩に乗っていた小鳥サイズのくーちゃんの囁きにしたがって、いろいろ鮮明になってきた。

 おかげで周囲の様子を改めて確認する余裕が生まれて、本当にエルナーだけがここに居ない事実に震える。

 けど、さっきみたいにパニックになる事は無かった。くーちゃんもいるし、メローネもいつの間にか手を握ってくれていたから。

 クゥさんとルルゥさんも近くにいてくれている。だから、私は大丈夫……。


「落ち着いたようだな。まずは状況を整理するぞ」

「うん、ごめんなさい。不安で取り乱しました」

「謝る事は無いぞ、アリーチェ。俺たちもかなり動揺しているからな……」


 冷静に見えるラーシャーさんも、同じく困惑していたみたい。同意するようにみんなも頷いている。


「あー、なあ。こういうことは初めてなのか? エルナーの奴が魔法を失敗させることって珍しいのか?」

「エルナー君は魔法の開発以外では、失敗はしたことないねー。そもそも地図魔法による転移は、エルナー君の魂に根付いた魔法だから、まず失敗する事は無いはずだよ」

「つまりぃ、エルナー君が故意にこの状況を作ったのではなく事故だとしたらぁ、結構な非常事態ってことなのよぉ」


 今回だけ同行していたゴルトーさんの疑問にクゥさんとルルゥさんが答える。クゥさんの言う通りで、エルナーは地図魔法に関しては、失敗は無いんだよね。

 そもそもエルナーの話だと、地図魔法はエリカ様とは別の神様……管理者って言っていたかな。そのヒトからもらったと言っていた。キラキラした目で、とてもすごくて優しいお兄さんなんだよって教えてくれたっけ。


「あ……ねぇくーちゃん。エリカ様に聞く事って、できないかな?」

『……だめですの。なんでか、エリカ様との繋がりが途切れているですの……』


 使徒であるくーちゃんが、主人であるエリカ様と連絡が取れない。それはすごく異常な事なんじゃないかな。

 重さこそまるで感じないけれど、肩に乗っているからこそわかる。かすかに震えていて、落ち着きなく足を動かしている。


「……エルナーの事だから、きっと今頃慌てはしても、状況をどうにかしようと動いているかもしれない。なあラムダ、なんか都合よく探し出せる魔法とかをさ、エルナーと研究してないのか?」

「どんな魔法なのさ……してないし、たぶんそういう魔法はエルナーの地図魔法頼りなんじゃないかな。アルトこそ剣士の感覚で、エルナーの気配とか感じ取れないの?」

「んー……どんなに気配を探ろうとしても、エルナーは感じ取れないんだよな。向こうの木陰にゴブリンはいるみたいだけど」


 アルトが指をさすのと同時に、矢が木を貫通してゴブリンを射抜いた。カコン、と音が鳴りそちらを見れば、シューゲルが矢筒を見てなにか考え込んでいた。

 ジンとゾーイさんがそれを見て視線を交わし、頷いてから私たちの方へと近づいてくる。


「シューゲル、お手柄です。その矢が戻ってきたという事は、地図魔法はまだ健在だという事です」

「つまりエルナー様の無事は確認できた、ということですね。あとはどこにいるかですが……アリーチェ様」

「はい」

「その金色の羽ピン……エルナー様の魂の欠片。そこからなにか感じ取ることはできませんか?」

「――ッ!」


 そうだ、そうだった! 私とくーちゃん、そしてエルナーとの繋がりがここにあったんだ。

 そっと髪につけた、羽ピンに触れる。左手の中指に嵌めている特徴的な指輪が目に映り、とくん、と胸が大きく弾むのが分かった。


 ……ねぇ、エルナー。今どこにいるの? こんなに不安になるだなんて、私わからなかったよ。

 いつも隣にいるのが当たり前で、いつも楽しそうに笑いかけてくれるのが自然で。これからも隣を歩けるように、剣を必死に身に着けて。自信が持てるようになったのに、思いもしなかったこんな状況で、挫けそうだよ……。


 お願い、神様。


「……エルナー……」


 私の呟きに、想いに。

 応えてくれたかのように、羽ピンと指輪から熱が生まれていた。痛みを感じない優しい熱は、エルナーと手を繋いだ時に感じるものと一緒。


 そういえば、この指輪をくれた商人さんは言っていたね。


 『小人族の伝統的な意匠でね。遠く離れても二つで一つという意味で作られているんだ』

 

 素敵だと思った。だからこそ、この指輪を貰ったときは本当にうれしくて、すぐに指につけたんだ。

 その後すぐに指輪の意味を知って、凄く恥ずかしかったけどね。


 ああ、わかるよ。エルナーを感じる。


 数日程度歩いたところでは、到底たどり着けないほどに遠い場所。私もエルナーも行った事は無いはずの場所。

 地図魔法での転移は、実際に見た場所じゃないとできないって言っていたから、異常事態が確定したね。


「アリーチェ、その……大丈夫? 見ている分にはすっごく綺麗なんだけど、近くにいるのにアリーチェの気配が薄くなって怖いよ……?」

「……え?」


 いつの間にか閉じていた目を開いてみれば、羽ピンと指輪から金色の温かい光が雪のように零れていた。


「す、すごい事になってた……あはは、うん。大丈夫だよメローネ。えっとね、エルナーのいる大体の方角、わかったよ」


 少し離れた場所で話し合っていた大人組が、一斉に私へと視線を向けた。その様子がおかしくて、つい笑っちゃった。なんだかね、久しぶりに笑ったような気分だったよ。

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