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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
王太子の試練と眠れる災厄
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レグナント・コーカトリア

「え……」


 みんなはどこに、いやそれよりも無事だろうか。心臓の鼓動がうるさすぎて思考がいまいちまとまらない。

 状況確認のために地図魔法で位置を確かめよう――


「嘘でしょ……地図魔法が、使えない?」


 本当にこの状況が分からない。何が起きた? ここはどこ?

 分からないことだらけだ。さすがの僕でもこの状況で未知を楽しんでなどいられない。

 とりあえず魔力は操作できるし視ることも出来る。魔鉄の剣とグラディウスも無事だし、やっぱりこれ、僕だけが転移に失敗したと考えるべきなんだろうか。


 不安だ。平時であれば聞こえてくる波の音でテンションが上がると思うのに、今はただ不安が募るだけ……って冷たっ!


「へ? うわわわっ! ……しょっぱッ!」


 波が足元の砂を奪い去り、バランスを崩して海に倒れてしまった。異世界の海もしょっぱいようです。じゃなくて!


 急いで起き上がって砂浜へと避難。水の魔法で水を飛ばして服を乾かすと、何やら白い粉が付着していた。

 海とイコールで結びつけるなら、これは塩かな?


「ぺろ……しょっぱっ!」


 水分だけを飛ばしたから塩が残った? いやいやそんな都合のいい事……空き瓶とかないかなあ。

 地図魔法が便利すぎてバッグパックは家に置いたままだし、腰に提げてる水筒はバウ茶が……あ、飲み切ってるなこれ。

 けどなあ、これに塩を入れるのはなんていうか嫌だ。うーん、ハンカチに包むかな?


 漫画で塩と水だけあれば生きられるとかあったし、包めるだけ包もうか。


「これでよし。あとは……どうしよう?」


 ひとまずみんなと合流したいところだけど、なにもかもが分からないことだらけだ。思ってた以上に地図魔法に依存していたらしい。

 とにかく今は海から離れよう。幸いまだ日は高いから、進めるだけ進んで野営する場所を確保しないといけ無さそうだ。


 日が傾きかけた頃、僕は見晴らしのいい草原にいます。ええ、周囲一帯になんもありません。遠目に森とか山らしいのが見える程度ですね!

 所持している物は、剣と衣服、空の水筒にハンカチで包んだ塩。これで野営をしないといけない訳ですね!

 ああ、短剣もあったね。魔鉄製の凄くいい短剣が。動物でも狩れればこれで解体できそうだね。


 ここまでゴブリンやウルフしか遭遇していなかったけど、冒険者ギルドでは耳とかキバしか引き取っていなかったから、食べられないんだろうと判断して燃やしていた。

 いちおう食べられそうなものを探しつつ移動していたけど、魔物以外の動物はおろか、木の実や果実なんかは全く見つからなかった。この辺の草って食べられるのかな……これは最後の手段にしておこう。


「おい」


 しかし困った。普段からしっかり野営の経験を積んでおくべきだったかな。地図魔法に頼りすぎてて一般的な冒険者の在り方を疎かにしたことが、まさかこんなところで牙を剥いてくるなんて思いもしなかった。


「おい!」


 ひとまず魔法で簡易的なトラップを周囲に作って、安全を確保しようかな。『ディグ』で深い穴を掘って、その土でテント代わりのものを作るか。簡単に飛び越えられないように穴の幅も広めにしようかな。


「おいッ! 聞こえていないのか!?」

「え? ……誰?」


 いつのまにか背後にいたのは、ラーシャーさんと同じような狼耳と尻尾を備えた、よりヒトに近い姿の獣人の青年だった。野生のトンガを狩ったのか、足を持って引きずってきたようだ。首元がざっくりと斬られ血抜きの跡が見受けられる。


「俺のセリフだッ! 怪しい奴め、何しにここへ来た!」

「失礼な! 僕は冒険者のエルナー、気づいたら海にいて、帰るためにとりあえず歩いてたんだよ!」

「お、おう? なんだお前、迷子か」

「ぐっ……言い返せない……」


 その目は不憫なものを見るような感じになっていて、妖精の祝福も似たような感情を伝えてくる。


「あー、なんだ、エルナーと言ったか。エルナーさえよければ俺のテントがこの先にあるから、泊っていくか?」

「いいんですか? 意外ですね、あなたはもっといけ好かない失礼な奴だと思っていました」

「お前な……そういうのは思っても口にするなよ……」


 ファーストコンタクトって大事だよね。


「まあいい。こっちだ」

「はい。ああ、トンガ運ぶの手伝います」

「助かる……ん? 器用な魔法の使い方をするんだな」

「魔法使いですから!」

「いや、俺の知る魔法使いはみんな攻撃一辺倒なんだが」


 風をトンガの下から吹き上げさせ、小さい力で引けるよう魔法を使う。

 魔法を便利使いするのは珍しいらしく、他に出来ることをいろいろと聞かれつつ歩いていると、不意に左手の方を睨みつける狼獣人青年が舌打ちをした。


「チッ、ウルフが三体か。エルナー悪い、こいつを預かっててくれ」

「あ、僕が行ってきますよ」

「大丈夫か?」

「任せてください。一宿のお礼です。『風錬』」


 風にサポートされた加速をもって、一息の間にウルフに肉迫する。二振りの剣を抜き放ち、アリーチェの見様見真似のなんちゃって双剣術で相手だ。


 急に目の前に現れた僕に怯んだウルフを、右手のグラディウスで斬り上げる。左手の剣を僕から見て左側のウルフの口に突き刺し、右手側のウルフの首に断頭台よろしく、体をひねってグラディウスを振り下ろす。その勢いで左手の剣はウルフの頭蓋を斬って、その生命を終わらせた。


 血を払って鞘に納め、狼獣人青年の元へと戻ると胡乱な目を向けられる。


「お前魔法使いじゃなかったのかよ?」

「剣も使えるタイプの魔法使いですね」

「聞いたことないんだが?」

「見識が甘いですね! ええと……すいません、差し支えなければ名前を教えてください」


 びっくりしたような目で見られても困るんだけど……そんなに変な事を言った覚えはないぞ。


「すまん、そういえば自己紹介していなかったな。俺はレグナント・コーカトリア。ここ獣人国『コーカトリア』の王太子候補だ」

「…………は?」


 何にやにやしてやがるんですかこのヒト。いやまってよ、王太子? 冗談きついんですけど?

 確かに狼系の獣人が王族っていうのは、昔父さんから教えてもらったような記憶があるけど、だからって、ねぇ?

 そもそもさ、なんで王太子なんて立場の人がこんなところにいて、狩りをしてテントで暮らしてるのさ?


「ふ、くくっ! 言いたいことは分かる。先に答えておこう。王太子になるための試練みたいなのがあってな、この先の森の奥にある、父キアラの墓碑に祈りを捧げるんだ。その時に現王がかつて訪れた際に捧げた証のナイフを、預かったナイフと交換してくる。それが証明になるんだよ」

「……魔物に打ち勝つ強さ、キアラ様への敬意、それらの達成を示す証明ということで合ってます?」

「合ってるな。ちなみに試練などと言ってはいるが、いずれ王位を継ぐという意思表明のための儀式みたいなものだ」


 うーん、それぞれの文化があるし僕は良いと思うんだけど、ナイフの盗難とか大丈夫なんだろうか。


「キアラ様の墓碑って、野ざらしなんです?」

「そんなわけないだろう。聞いた話だと石造りの三角錐の建造物があって、その地下にあるらしいぞ」


 ピラミッドかな?


「はー、なるほど。それと興味本位で聞きたいんですが、背負ってるのは大剣ですよね。それで戦うんだと思うんですが、『雷牙』のラーシャーさんと何か関係があるんです?」

「従兄殿を知っているのか。俺は従兄殿にこいつを教わったんだよ。それに『雷牙』は俺たちにとっての英雄でもある。なにせ、使徒様に仕えることが叶ったらしいからな!」


 えーと、はい。その使徒様の守護対象ですなんかごめんなさい。

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