魔王の呪い
ゴブリン、オーク、ウルフ。そんなよく戦ってきた魔物の姿を模したゴーレムが多数生み出されていた。
他にも爬虫類系や虫系を模したモノもいる。この大部屋を埋め尽くさんと次々と現れて、ファルハース様の姿は隠れてしまう。
「モンスターハウス……ッ!」
「土くれじゃねぇな……見た目の材質からして、石か!?」
真っ黒な石らしきもので生み出されたそれらのうち、ウルフ型のゴーレムが突出してきた。
斬った感触はかなり硬い。とはいえ魔鉄製のゴーレムよりは格段に劣るけど、なにより数がひどい。
「止まるなッ! 少しでも数を減らすぞッ!」
「大きい魔法いくよー! 射線開けてーっ!」
ラーシャーさんの指示が飛ぶ中、クゥナリアさんの魔法が発現手前までになっていた。
カッシュさんとジンが左右に爆発するシールドバッシュで無理矢理にスペースを開け、どうにか射線を確保した。その瞬間に渦巻く炎が線上に放たれた。
暴風と爆炎。その二つを交えた魔法は着弾地点で轟音と共に爆ぜた。
近くにいるゴーレムほど、その衝撃は強かったらしいね。弾け飛び、その体躯の重さをもって他のゴーレムへの弾丸となっていたよ。
それなりの被害を与えていたよ。視界にはまだまだ多くの敵は残っているけれどね。
「む……はあああああああああああああああああッ!!」
アリーチェが僕の背後を斬りつけた?
慌てて振り返ればそこにファルハース様の姿があった。ああくそ、そういう事か。
「ありがとうアリーチェ! ファルハース様、目くらましにしてはやり過ぎじゃないですか……ねぇッ!」
『炎舞』を纏って斬り掛かるも、その小さな体躯と素早さに掠らせることもできなかった。
『殺してでも止める、そう言ったであります』
ゴーレムで造られた疑似的なモンスターハウスは、ウルフより小さなファルハース様にとって絶好の隠れ蓑となっていた。
そうして僕の背後へと迫って暗殺をしようって事だったのだろう。本当に気づいてくれたアリーチェには感謝しかないね。
「ちぃッ! エルナー! アリーチェ! 無事かッ!」
「無事ですッ! 僕たちのことより、ゴーレムたちを――」
『無駄であります』
そう言うなりこの大部屋に、また多くのゴーレムが作られていてね。少なくない舌打ちが、この喧噪の中でも聞こえてきたよ。
『お前たちに倣い、周りから排除するであります』
「させ、るかああああああああああああああッ!!」
赤い『火精』を大量に呼び出し、地図魔法で皆のマーカーを指定して部屋の隅へと転移をする。真っ赤に燃える蝶を落として爆発させ、再度生み出してまた落とす。途中に青い『火精』も混ぜ、僕たちの前方に黒い蝶を発現させる。
一気に温度が上がり、空気が揺らめく大部屋の中、唯一無事なのは黒い『火精』に護られた僕たちの一角のみ。熱に強いであろうゴーレムならまだしも、使徒とはいえ肉体のあるファルハース様には効くだろう。
『甘いであります』
声と同時に鋼同士がぶつかり合う音が響き渡る。
対応したのはまたしてもアリーチェだった。咄嗟に黒い『火精』を大部屋に拡散させて急冷させ、転がるようにして場を離れる。
また背後を取られていた。瞬間移動か転移かを使えるんだろうか。
「――ッ! エルナー、このファルハース様、ゴーレムだッ!」
鋭く伸びた黒い爪が、アリーチェの新たな剣と交わって甲高い悲鳴を上げている。そのまま斬り上げて爪を斬り裂き、返す刃で胴体を真っ二つにした。
その体は大部屋に吸収されていく。魔力の流れの向きを確認すると同時にその先を見やれば、そこにはまた多くのゴーレムが並んでいたよ。
最悪な事にその全てがファルハース様の姿だった。
「……他の魔物の姿のゴーレムなら、能力もそれに見合ったものだった分対応できたけどよ。使徒様の姿ってのはちょっと、冗談きついと思うんだ」
「同感だ。だがやるしかないだろう。だからカッシュ、諦めろ」
大部屋の中の魔力がその濃さを増し、それらがファルハース様のゴーレムに吸い込まれていく。
変質というよりは、変容というべきだろうね。いくつかのゴーレムは体積を増してもはや別物になっていった。
『先に行きたいのであれば、自分を殺すであります。できないのであれば、死ぬであります』
一斉に動き出すゴーレムに対し、迎え撃つ格好となってしまった。ルルゥさんとシューゲルが放つ矢によって数体ほどが吸収されていったけど、またすぐに発生してしまう。
無限沸きするゴーレムたちの物量に、いずれは押し潰されてしまいそうだ。魔鉄製の武器が優秀で、いつもより少ない力で戦えるのだとしても。やっぱち体力は有限だから、近く破綻してしまうだろう。
「ああ、なんか腹立ってきたなあ」
「……エルナー?」
「使徒って境遇には同情するよ? けどさあ、なんもかんも諦めて、死にたがって」
僕の中の妖精たちがね、沸々と湧き上がる怒りに驚いてしまっていたよ。ごめんね、今だけだから許してほしい。
「かつての僕は、やりたいことも碌にできず、たった十年程度じゃ生き足りなかった」
その怒りを魔力に込める。赤黒い色となった魔力を大部屋の地面にゆっくり降ろしていく。
『不穏な魔力であります』
「いかせないよ?」
黒きお姫様が両手に持つ火と氷の剣と共に踊るのを見つつ、不穏な色に染まった地面に想いを注ぐ。
「それでも愛情を貰っていたから幸せだった。再び生まれてからも、多くの優しさを受けて生きてきた」
感謝の念があった。時には申し訳なさもあった。未だ短い人生の中に、多くの“好き”を手に入れた。
「かつてできなかったことを、今はできる。かつで渇望したことを、受け入れてくれたヒトがいる」
過去を話して受け入れられた。共に背負ってくれると言ってくれた。そんなヒトを、好きになっていた。
「これからなんだよ。僕が、僕たちが生きていくのは、今から先の時間なんだよ」
『勝手であります。すでに限界な世界にとって、害悪であります』
「分かってるよ。理解してしまったからね。だからこそ言うよ。僕は魔王だ。好き勝手の体現者だよ。僕は僕が望んだものが欲しい。この世界を歩き回って、いろんな出会いをして。そうしてもっと好きになって、救って見せるよ。たとえそれが、多くの犠牲の上に立つような間違った方法であろうとも」
かつてエリカお姉様がここに『誓約』と共においていった感情。それはきっと怒りだろう。
この世界線の作られた意味を知ったんだ。使い捨ての実験世界だなんて聞いて、あの人が怒らない訳が無い。その怒りが今後邪魔になるだろうから、ここに置いていったんだ。
『勝手で、あります』
「いずれ捨てるはずの世界に、命を作ったあなたの主よりはマシでしょう」
『…………』
「そして今はかつての魔王様が管理者だ。あなたの主はもういない。あなた方使徒を残して、そいつは消えた。ああ、本当に腹が立つ」
生きたいという感情。大事なヒトたちがいる世界を守りたいという願い。そしてその子らの先の未来を残したいという想い。そういうあって然るべきものを否定するような、そんな創造主が不在の世界なのだから。
「僕たちがこの世界線を、勝手に作り替えたところで文句はないでしょう?」
赤黒い地面に、なじみ深い黄金の魔力を混じらせる。厳かなはずのその魔法の在り方を変えるのさ。だってこれは決して優しいものじゃないのだから。
「『魔王の呪い』」
この部屋の中央から、秘境の中枢であるこの先へ続く魔力の導線を見つけていてね。
それがエリカお姉様の『誓約』の残滓であると分かったから、利用させてもらったよ。
さあ、これで後には引けない。軽率な創造主の尻拭いを始めよう。
お読みいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたなら、『いいね』を押していただけると励みになります!




