長い階段の先
それからはゾーイの時と同じように、実際の使用感を確かめつつ地下大迷宮を進む。
同じ魔鉄のはずなのに、すっと刃が通るのが不思議ではあるものの、そういうものだと考える事を放棄した。
「ん、このまま進むと縦穴に出ますね」
「みたいだな。今日もあの音が響いて聞こえている」
前を歩くラーシャーさんの狼耳がピクピク動いている。
縦穴までの距離としては、今の速度で進めば五分程度でたどり着くくらいだけど、前方からは絶えず魔鉄ゴーレムが向ってきている。それらの大半はルルゥさんとシューゲルが一矢で核を射抜いているよ。楽しそうで何よりだね。
戦利品である魔鉄を地図魔法で集会場に転送する作業も、地図魔法に生えた指定系を使って半ば自動化している。そのため道中に一瞬でも思考を別に移す事も無くなった。ただまあ、他にどんなことができるかなと考えてしまうから、むしろ注意力は落ちてしまったかもしれないけれど……。
「お、縦穴に出たな……みんな、底が近そうだぞ?」
「光が強くなっていますね。それに見える魔力量が尋常じゃないですよ……」
底をそっと覗けば、以前よりもはっきりとした光のようなものが見えていた。その周囲……かはここからでは判断できないけれど、『無垢の寄せ櫃』とは比べ物にならないほどの魔力の濃さだった。
身体強化で防げるのかはかなり怪しい。できれば直接あそこに行かないで済めばいいなあ……。
「っと、すぐに迷宮側の道だね。……いや階段だった。ここで階段って何気に初めてだね」
「ん-、ここにもゴーレムはいるのかなあ? 階段も曲がっているみたいだし、ちょっと危ないかも?」
「ではここは私が前を進みますね。何があってもこの盾なら守れますから」
「ジンの技量あってこそさ。エルナー、アリーチェ、二人もそれでいいな?」
ラーシャーさんの問いにアリーチェと首肯する。
しばらく階段を下りていると、アリーチェの懸念通り魔鉄のゴーレムは存在していたけれど、ジンがタワーシールドを前面に構えて押し込むと、バランスを崩した魔鉄ゴーレムは階段を転げ落ちて行った。
技量も何も関係ない結果に、ジンは苦笑いを浮かべていたよ。
「安全第一だよ、お兄ちゃん!」
「ええ、そうですね。そう思うことにしますよ」
ただ、この結果でひとつ分かったこともある。凄い音を立てて転げ落ちて行ったからね、その音が急に止まるでもなく小さくなっていったことから、この階段が結構な長さであることが窺えるんだよ。
「――ッ! カッシュ!」
「おうッ!」
突然のラーシャーさんの叫びに驚いて振り返ると、カッシュさんが後方に向けて盾を構えていた。
数秒ほどだろうか、そのくらい時間がかかってようやく理解したよ。階段の上の方から先ほど聞いた音がするのさ。 魔鉄ゴーレムが階段を転がり落ちる音が。
虎柄の尻尾がゆっくりと揺れている。姿勢は低く、前面に力が入るように構えていて、支えている足の筋肉が次第に膨れていく様子がしっかりと見える。
魔力が縦に巡った時、カッシュさんは踏み込みと共にタワーシールドを押し出した!
より硬度を増した盾はゴーレムとの接触部分を押し潰し、勢いそのままに核を破壊していたよ。
「……衝撃がまるでなかったぞ」
……改めて、魔鉄製の武具のポテンシャルに驚かされるね。技術的な強化を怠るつもりはないけれど、なんていうかこの武器だけで過剰戦力に思えてくる。
いやまあ、技術が無いと扱えるもんじゃないって言うのは理解しているんだけどね。自分の魔力を操作できなければ、これはただの重い武器でしかない訳だし。
納得するやら呆れるやらの結果を見届けて、僕たちは階段を下りていく。途中で魔鉄のゴーレムを見かける事も無く平穏な時間が続いているよ。たぶん最初のゴーレムに巻き込まれでもしたんだろうね……。
長い階段をひたすらに下りていく。少し前まではちょっとした雑談もあったけれど、今ではもう誰も口を開いていない。代り映えの無い階段を延々と下りているだけだからね、きっと誰かは、これなら戦いながらの方がましだった、なんて考えているかもしれない。
そんな退屈さを感じる時間はようやく終わるよ。階段の終わりが見えて、すぐ右に曲がるような通路がある。その通路を防ぐように、巻き込まれたゴーレムが一つの塊のように積み上がっていたよ。
「……積み重なった状態で迷宮による復元が行われて、余計に絡まったかあるいは同化してしまったか……なんかそんな感じですね」
「そうだねー……これはなんだか、憐憫さを感じるよ」
一体のゴーレムの腕が別のゴーレムの体と一体化していたり。関節をキメられているような形で固定されていたり。
そんな感じで身動きが取れなくなったまま、もぞもぞと蠢くゴーレムたちにクゥナリアさんと憐みの目を向けていたよ。ジンのせいではないんだけど、自分がやったようなものだからかね。その眉尻は下がっていてなんだか申し訳なさそうだった。
「これは私が対処すべきですね……」
ジンがそう言ってタワーシールドを構えて、力強く踏み出す。
迷宮の壁とジンの盾に挟まれ、かつ身体強化でより威力を増しているシールドバッシュにより、魔鉄ゴーレムとはいえその圧力には抗えないらしい。
ギシリと音を立てて、地図魔法上に表示されている個体数の数が減っていく。
ゴーレムそのものは多少の変形で済んでいるように見えるけど、どうやら核は体ほど硬くは無いようで、割れてしまっているようだ。
倒したそばから集会場へ転送されているから、ゴーレムの塊はすぐに小さくなっていった。
ある程度小さくなったところで、ジンはさらに踏み込んで盾を叩きつける。壁にめり込みつつも核を壊されたゴーレムの残骸が消え、何とも言えない雰囲気が僕たちを包み込んでいた。
「あー、ジンお疲れ様。その、あんまり気にしないようにね?」
「ええ、分かってますよエルナー。悲しい事故でした。……ああ、決して証拠隠滅ではありませんからね?」
「……ジンの冗談って初めて聞いたよ」
「ふふふっ」
朗らかな笑みを浮かべたジンが通路の方を見やり、表情をしかめた。僕たちも階段を下りきってその理由を悟ったよ。
「広い場所に出る訳か……何が出るやら」
「この先は縦穴の方面ですね。階段を下りる前の状況から、最下層かとおもいます」
「……ねえエルナー。ここにもアルシェーラ様やシャルナス様みたいな存在がいるのかな?」
アリーチェの問いにぎょっとした。そのことを全く考えていなかったという事もあるし、ここまでそのことを感じ取れる要素も無かった。
いると考えたほうが自然だろう。なにせここは秘境、世界線の保持機構たる『虚質の紡錘』だ。
地図魔法が無ければ踏破困難な場所であろうと、守護者を配置しないなんてことはないはずだ。
そんなことを考えていたからだろうか。この先の大部屋から、僕ですら感じ取れるほどの何かがこっちに向けられていることに気づいた。
殺意も敵意もない。敢えて言うのであれば、僕たちの何かを視られている感覚だ。
「……行きましょう」
戦意と覚悟。それらを携えて一歩を踏み出す。カッシュさんとジンが前に出ようとしていたけれど、あえて僕はそれを止めるよ。
見据えた大部屋の中央に、強大な魔力を放つ小さな獣がいてね。
その存在からは今や見知った、黄金の魔法の残滓が視えていたよ。
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