武具の完成
短剣と矢が出来上がってから三日経って、グラントさんから集会場に来てくれと、呼び出しがあった。
執務塔の横の大きな建物がそうらしく、知ったのはついさっきの事だった。その奥の一室にグラントさんの鍜治場があり、他のドアの先は倉庫になっているらしい。
で、その集会場に着くと職人さんたちが勢ぞろいしていた。彼らの前に置いてあるのは、僕たちのオーダーメイド品の剣と盾だ。
「ようやく仕上がった。すまんな、だいぶ待たせた」
「いえ、加工が非常に難しいと聞いていましたから、こうして完成品を見れて感動しています」
職人さんたちがやりきった笑みを浮かべてポージングを始めてね。この都市に泊まるようになってからなんとなく理解し始めた筋肉言語で、その表情と組み合わせると、おそらくは満足と言ったところだろうかね。
わくわくしながらそれぞれ担当してくれた職人さんたちの元へ行く。僕とアリーチェはグラントさんの所だね。
抜身の剣が三本立て掛けて並んでいるね。剣の隣には鞘が置いてある。
「二人とも、まずは手に取ってみてくれ」
「「わかりました」」
まずは利き手である右手側に立て掛けてあるグラディウスを手に取る。身体強化を使っていない状態だと、以前より少し重く感じるかな。
けれど手に馴染むというか、ちょうどいいと思える重さではあるよ。
魔力コーティングしてみれば一切の抵抗なく行き渡る。なるほど、短剣とは違って手に吸い付くような感じになるのか。
「少ない力でもしっかりと掴めますね。しかもこれ……重さが変えられる?」
「あ、本当だね。好みの重さで振れるんだ……」
「その辺は二人にしか分からんだろうな。俺にはお前さんらのようにはできないが、魔力との親和性が非常に高いってのは、魔鉄を打っててよく分かってはいたんだが。そいつがどう作用するかまではどうにもな……俺たちが理解したのは、魔力によって硬くなるってことだった」
魔力を通したり止めたりを繰り返していると、なんとなく分かってくることもある。
これ、重さ自体は全く変わっていないみたいだ。ゾーイがハルバードを試していた時にも見たけれど、武器とヒトとの魔力が循環している。滞ることなく流れているため、疑似的に肉体の延長として捉えているのかもしれない。
「……魔鉄の成り立ちを考えれば、ありえなくはないのかな」
「魔鉄の成り立ち? ……“生まれなかった命の成れ果て”だったっけ」
「そうだね。そこから仮説を立ててみたんだ。魔力体として生み出されるも魂と交じり合わず、鉄に宿ってできたのが魔鉄なら……個人の魔力を通じて、肉体に同調するんじゃないかなって」
「この剣だと、自分の腕みたいに感じるってこと?」
「そう考えると、僕はしっくりくるんだよ。まあこじつけかもしれないけれど」
いくら集会場が広いとはいえ、そこまで広く場所を取っている訳でも無いからね。僕の声はみんなにも届いているからか、手に取った武具に魔力を通して軽く動かしている。カッシュさんやジンのタワーシールドが普段より軽々と振り回されているのを見れば、仮説がそう間違いではないような気もする。
「ふぅむ、今後のために魔鉄の性質ってのをまとめておいた方が良さそうだな」
作り手としても知っておいた方が良い事は多いか。となれば僕たちはテスターとして使用感を伝えるべきだろうね。
ゾーイに視線を向けると目が合った。そうして頷いた後、ハルバードを作った職人さんに使用感を細かに話し始めたよ。
それにしても、綺麗な剣になったものだと思う。以前のグラディウスは無骨ではあったけど、実績の証である細かな傷がかえって信頼感をもたらしていた。それが今や鏡面仕立てみたいになっており、光が反射して虹色にさえ見える。
ひとまずグラディウスを鞘に納めて腰に提げる。さて、いよいよもう一振りの剣だ。
未熟であるばかりに大きく刃を毀してしまった、かつてグラントさんの子、レジンさんに捧げるために打たれた悼みの剣。
手に取って剣身を見やる。以前とは大きく変わっていて、ロングソードではなくサーベルだろうか。片刃の直刀であり、グラディウスと同じような仕上がりとなっている。芸術品と言われても違和感はないかもしれない。
「……すまんな、元の形にはしてやれそうもなくってな。刃毀れしていたとはいえ、剣身を見れば剣士の癖ってのは分かるんだ。諸刃ではあるが、より擦り減っていたのは片方だけ。ってことはエルナーは、片刃の方が扱いやすいんじゃないかと思ってな」
「ああ……そうかもしれません」
不覚にも感動してしまったよ。使い手の事をしっかりと考えて作られていることが知れたからね。
周りから聞こえてくる話し声には、確かな喜色が混じっていてね。みんな僕と同じような感動を覚えていると思うよ。
アルトやメローネなんかは満面の笑みだよ。
ラーシャーさんは両手で持ってどっしりと構え、目を閉じてしっかりと感触を確かめている。満足しているはずだよ。大きな犬歯が笑みからこぼれて見えているからね。
「そう嬉しそうな顔されると、鍛冶師冥利に尽きるんだがな? ただ問題もあってな……」
「問題ですか?」
「ああ……単純な事なんだがな、魔鉄を使いきれん」
あー、うん。なるほど。
地下大迷宮に入ってからほぼ毎日、それなりの量をこの集会場に転送してきたからね。
洞人族の義務を果たして加工して、僕たちの武具を作ってくれはしたけれど。量は全く釣り合っていないよね。
「あとは資金の問題ですか。買い取ってもらってばかりですしね……」
「まだ余裕はあるが、これが続くとまずいな」
「ん-、ならこうするのはどうでしょう――」
今後転送する魔鉄や普通の鉄は、ここで保管してもらう。依頼製造でそれらを使った場合、売り上げのうち材料費を分けてもらい、武具のメンテナンス費用に充ててもらう。
費用が足を出した場合は、材料から差し引いてもらうことで対応してほしいと提案してみたよ。
「ふぅむ、国としてではなくて友人として、その提案を飲みたい。そうでなけりゃ体裁が悪いってのもあるんだが……はあ、王になんてなるもんじゃねぇな……面倒くせぇ」
「あ、あはは……」
思いがけずメンテナンスの伝手を得れたのは大きい。しかも腕のいい最高の鍛冶師だ、お金よりも得難い繋がりというのは本当に嬉しいね。
グラントさんの愚痴は置いておき、ふと思いついたことも伝えておこう。
「グスタフさんたち、戦士のみなさんの武器を作ってはどうでしょう。材料の魔鉄は提供しますよ?」
「ありがたいが……いいのか?」
「ええ。『友人』としてお手伝いさせてください」
「く、はははっ! そうかよ、おいてめぇら、聞いたな!? 次の仕事だ、当然やるだろう!?」
豪快な笑い声が集会場の空気を震わせる。ポージングを僕に向けてキメた鍛冶職人さんたちと、一人を除いて仲間たちのサムズアップを貰ったよ。僕の提案はみんなに受けれてもらえたらしいね。
「ところでアルト、そのポージングだけど、筋肉が足りてないよ」
「知ってるよ! ノリだろうッ!?」
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