地図魔法にまた生えた
「ま、まあ魔技の研究をするのは良いと思うよ。剣や盾も近いうちに仕上がると思うし、そんなに時間は取れないと思うけど。幸いと言うか、地下大迷宮では色々試せるし、やれることはやっていこうか」
思わぬところから精神ダメージを貰いつつ、アルトの発言に同意する。とはいえ既知の魔技を改良するのが限界だとは思うけどね。まっさらな状態から組み上げて、使えるところまで発明するには、とてもじゃないけど時間が足りない。というか知識も経験も足りちゃいないんだよ。
何がどこまでできるのか。そういった点を突き詰めていくことで、それらの魔技の事を深く理解していく。それがアルトや僕の考える研究であり、これはラーシャーさんたち『雷牙』やゾーイも賛同してくれている。
「それじゃ頼んだ武器類が出来上がるまでは、それぞれの研鑽といこうか……うん?」
ラーシャーさんの狼耳がピクリと入り口に向く。視線をそっちに向かわせると同時に、ガタイのいい洞人族の職人さんが一人、木箱を両腕に二つ抱えて酒場へと入ってくるところだった。
「おお、ここに居たかっ! お前さんらの短剣が出来上がったぞ!」
「本当ですか!」
職人さんは隣のテーブルに木箱を置いて中身を丁寧に取り出した。
僕たちの座るテーブルにはまだ、空いた皿とか果実水の入った、木製のジョッキが置いたままだからね。
「あ、でもここで見ても大丈夫……のようですね」
洞人族だから、でいいのか分からないけれども、店に居合わせた人たちからは、好奇心に満ちた視線が向けられていてね。店員からしてそんな感じだったもんだから、早々に考える事を放棄したよ。
実際に手に取ってみると、まず小さいにも関わらずしっかりとした重みを感じる。けれど軽く身体強化をかけてみれば、その重量が嘘のように軽くなった。魔力が短剣の全体にスムーズに行き渡り、思わず感嘆の息が漏れてしまったよ。
「凄いですね。ゾーイも言っていたけれど、まるで自分の一部みたいです。それに柄尻に掘られてある羽のマークもいいですね……」
「ああ、なんていうか本当にしっくりくる。バカみてーだけど、凄いとしか言えねーわ」
「こればっかりはアルトをバカって言えないかなー……」
「おいメローネ、いつもはそう思ってるって事かよ?」
メローネが短剣から視線を外してアルトに向けて、小首を傾げながら頷いて見せた。その何をいまさらと言うような表情に、アルトは項垂れてしまった。
まあそれはさておき、もう一つの木箱である。記憶が確かならこの職人さんは短剣の担当だったはずで、それ以外は請け負っていなかったはずだ。
僕の視線に気づいたのか、職人さんはニヤリと笑う。こういっては何だけど、強面なのもあって凶悪でした。
「こっちはまあ、余った魔鉄を使ったやつでな。魔鉄製の矢を作ってみたんだよ」
また随分と豪勢な事だね。この世界線でも例に漏れず、矢というのは消耗品である。だからと言って射たらおしまいではなく、回収を行うことがほとんどだ。矢も無料ではないからね、使い捨てだとそれだけ出費がかさむんだよ。
そして回収できるのは通常の矢だから、という点もある。
獲物に刺されば鏃だけでも回収できる。けれどこれは魔鉄製だ。たぶんその辺の魔物や動物、木々に射ると貫通するんじゃないかな? そうなってしまえばどこまで飛んでいったかもわからず、泣く泣く手放すことになりかねない。
「……使いどころにはぁ、充分に注意しないとねぇ……」
「……です、ね。あ、でもこの矢結構重量ありますね」
それはそうだと思うよ。だってこれ、明らかに全体が魔鉄でできてるからねぇ……重くて当然だよ。
シャフトもノック……弦をつがえるところだね、そこですら一貫して魔鉄製だ。射るには難儀するだろうけど、その威力は計り知れないものがある。……ってああ、そうか。
「魔鉄の性質を利用してこそ、ですか」
「そういうこった。ただなあ、もしかしたら本当に使い捨てになっちまう可能性もあるんだよな」
「場合によっては、地面深くまで刺さることも考えられますね……」
想像して溜息が出る。飛び道具にすることで扱いが難しくなるとは思いもしなかった。
「作ってるときは画期的な考えだと思ってたんだがな!」
とは職人さんの言である。ちなみにこの魔鉄製の矢だけど、ノックの部分に小さく羽のマークが掘られている。本数にして二十本あり、それら全てが同じ出来上がりとなっている。短剣と言い矢と言い、ここまで同じように作れる職人がどれほどいるのだろう。
「試し撃ちしてみたいけど、無くすの怖いね……」
「確かにね。放った矢が矢筒に戻ってくるならともかく、想定より威力が高いとどこに行くか分かったものじゃないもんね」
「エルナーなら矢筒に戻せるんじゃない? ほら、地図魔法でさ」
「いやいやシューゲル? さすがに僕の地図魔法でもそんなことは……」
……おっと? なんか生えてるな?
「…………」
「……エルナー?」
対象物指定とか、位置指定とかはまあ分かる。思考や手動で散々やってきたことだから、そんな項目が生えてきても不思議じゃない。
けどさ、これはどうかと思うんだよ。条件指定とか指定保存なんていうものまで生えていて、ついさっきまでは確かに無かったものだ。シューゲルとの会話がきっかけで生えてきたとしか思えないよね。
名前を呼ばれたけどごめん、今それどころじゃなくってさ。試しに条件を思念で入力してみよう。
放った矢を矢筒に転送……あれ、ダメみたいだ。それならば、魔鉄製の矢とシューゲルが腰に付けている矢筒を対象物指定で選び、それぞれを対象物A・対象物Bとして保存。
対象物Aを弓で射た後、停止後対象物Bへと転送。位置指定で矢筒の中に指定も忘れずにしておこう。
条件指定が完了したよ! と軽いノリのメッセージが表示された。ああ、今日も地図魔法がたのしいなー。
「エルナー、おーい」
「……ああ、ごめんシューゲル。うん、できたかもしれない」
「じゃあ試してみようよ!」
「えっと、アリーチェ? 驚かないの?」
「だってエルナーのすることだもん、今更だよ?」
「えっ」
みんなもそんな頷かなくても。都合がいいなーとか便利だなーとは自分でも思うけどさ。元がレスター兄様からのプレゼントだから、そういうものなんだという認識だったけど、考えてみればそんなことはみんな知らないんだよねえ。
うん、確かに今更だった。転移したり空で停止したり、地図って何だっけって思うけど今更だ。
「じゃあ試し撃ち行こうか!」
「切り替えはえーな……」
「だって僕自身も今更だって結論になりましたから。あ、短剣と矢ありがとうございます。大切に使わせていただきますね!」
「ん、おう。よく分からんが役立ててくれよな!」
カッシュさんに答えた後、職人さんにお礼を述べて店員さんを呼んで支払いを済ませる。外に出て試し撃ちのために『ティータラース』へ続く街道へと転移する。
遠目に見えるのはオークである。鋭い牙を持つトンガという豚が、二足歩行になっただけのように見える悲しい魔物である。
折よく二匹のオークが僕たちに気づき、こちらへと走ってきている所だ。まあ二匹いる場所に転移したんだけどね。
「「しッ!」」
短くも力強い呼気を吐き、弓につがえた魔鉄製の矢を放つ。ルルゥさんとシューゲルに十本ずつ魔鉄製の矢を指定保存し、二人の矢筒にも指定保存し直してある。
条件通りであれば、矢を放ってしばらくした後、停止すれば矢筒に転送されてくるはずだ。
オーク二匹が一矢で絶命してしばらく、全員の視線が集中していた矢筒に、音もなく魔鉄製の矢が転送されてきた。
ルルゥさんとシューゲルの喜びの声と、みんなの興奮気味な賞賛を聞きながら思うよ。
これ、もしかしてとんでもない戦力が生み出されたんじゃない?
いやだってさ、遠距離から貫通力の高い攻撃が、ほぼ無限に放てるんだよ?
飛距離だってかなり伸びてるみたいだし……うん、素直に喜んで、あとは気にしないことにしよう!
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