決着
大きな鉄の杭に穿ち貫かれて活動を停止した巨大甲冑が、地下大迷宮の魔力に溶けて消滅していく。復活する懸念もあってね、小規模な地の場をラムダと共に作って、纏っていた濃い魔力を外へ外へと追いやっていく。
壁や地面なんかに触れさせなければ大丈夫と考えてはいたものの、よくよく考えてみればここは秘境の中だ。直接吸収しなくても、空気中に漂う魔力もまた秘境のモノであることに違いは無くて、それらに交じって巨大甲冑の体が魔力となって、ここ円形闘技場に満たされていく。
そうなるといやでも理解してしまうんだよ。そんな魔力が行きつく先は、今ラーシャーさんたちが受け持っているもう一体の巨大甲冑だ。
魔力視にうつる流れは、真っ直ぐそちらに向かっていてね。
強化されてはたまらないから、こちらも足掻かせてもらうとしよう。
「『火精』」
金色に燃える蝶を十体出現させて、魔力の向かう先に待機させるよ。
面白い事にね、魔力って実は純粋な物ってなかなか無いんだよ。少なからず想いを孕んでいたり、何者かの意図を含んでいたりする。そんな魔力だからこそ、金色の『火精』は喰らって質を清めてしまうんだ。
そうなれば。
ここ『虚質の紡錘』のもつ魔力とは違ってしまうんだ。そしてそれは今は僕の管理下にあってね。
たとえ巨大甲冑の元に辿り着いても、意図が介在しない魔力では強化にはつながらないだろうと踏んでいたよ。
「はあああああああああああああああッ!!」
雷鳴轟かせながらアリーチェが奔り、左手に氷の剣を握りしめつつ、右腕を大きく振りかぶる。
『炎舞』を宿した剣が振り下ろされて――『魔剣』となって巨大甲冑の左ひざ裏にぶつかったよ。
赤熱したその部分に氷の剣を叩き込み、急激な加熱と冷却によってダメージを加えているようだね。
視界の端に、赤い風が奔るのが見えた。メローネが『風錬』をまとって駆けて行き、狙いは恐らく右足だろうと判断した。援護として青い『火精』を、地図魔法で巨大甲冑の足首に転移し密着させ、魔鉄の硬度を和らがせるよ。
「さっすがエルナー君だね! ありがとっ! はあああああああああああああッ!」
体全体を覆っていた風が剣に集中し、斬撃と共にその暴風が青く燃える蝶ごと吹き飛ばす。『向上』に似た魔技も使っているのかね、木枯らしのような冷たさの風が、鋭さをもって足首を抉っていたよ。
両断するには浅すぎる。とはいえメローネは役目を果たしてはいるのさ。
連携は積み重ねるものだよ。ラーシャーさんがメローネの付けた傷口をその大剣で叩く。同時にカッシュさんが左足にシールドバッシュをしていたよ。爆音がなったことから、魔技を放ったようだ。
巨大甲冑の腹部より上、ラーシャーさんたちの反対側に立つクゥナリアさんが突風を放ち、ダメ押しとばかりにルルゥさんが頭部の中心に、鏃が平たくなった、衝撃を与える目的の矢を射る。
「エルナー、僕が右足を落とすよ!」
「わかった! ……三十センチくらいで!」
同時に『ディグ』を放って巨大甲冑の足元を陥没させる。僕の方は倍くらい深くしてみたよ。
ただでさえ仰け反った体勢になっていた巨大甲冑は、足元の踏ん張りが消え去ってバランスが殺されたはず。アリーチェとカッシュさんの連携でダメージを受けていた右足が、初めに地面に着く。けれど左足はさらに深いからね、意図せず重心が左足へと掛かってしまうんだよ。
メローネとラーシャーさんによって抉られた足首に、それは致命的だよね。
こうして残った一体足を奪われて、轟音を立てて地面に倒れたよ。
最後の一手。核のある部分に金色の『火精』をあてがうよ。
それだけで倒せるか? いいや、止めを刺すのは僕じゃない。金の蝶はあくまで目印さ。
「シィッッ!!」
魔技で貫通力を高め、さらに歯を食いしばりながら力を伝達させるために、強く短い息を吐く。魔鉄のハルバードを持ったゾーイが、裂帛の気合をもってこの戦いに幕を下ろしたよ。
油断はしない。未だ懸念は残っているからね。
出口付近の、似た造形を持つ二つの甲冑。これも動き出すんじゃないかと疑っているんだよ。
すぐに対応できるように、慎重に歩み寄っていく。途中ネズミ型ゴーレムを転送して走らせてみるも、像は動かない。
やがて真下から見上げる位置まできて、ようやく一息ついたよ。
「よかった、これは動かないみたいですね」
「そのようだが……早めに出ておこう。なんていうか、気が休まらん……」
ラーシャーさんの意見に全面的に同意だよ。というか、誰も否定はしないと思う。
短時間とはいえ全力を尽くしたから、誰もが疲れている。特に接近して戦っていたみんなの疲労は相当だろうね。
豪華な造りの扉、というか門だろうか。それに手を触れると、魔力が吸い取られるような感覚があった。
ここにきてトラップかと肝を冷やしていると、門が開くでも上がるでもなく、消失した。
「……どういう仕組みなんだろう」
「……気になるねぇ」
「ほらほら、エルナー君にラムダ君。気になるのはボクも同じだけど、今は進もうね?」
クゥナリアさんに窘められて、僕とラムダは歩き出すよ。でもやっぱり気になるんだよね、後ろを振り返って門のあった場所を見ていたら、アリーチェに背中を押されてしまった。ラムダはシューゲルに引っ張られている。
「ひとまず……お疲れさまでした。どうにか乗り越えることができてよかったです。今日はここまでにしましょうか……」
「課題も多いからな、その話し合いもしたいし賛成だ」
『その前に『治癒』するですの!』
白い炎が僕たちの前に揺らめいている。そっと触れると全身をあっという間に包み込み、じわじわと芯から温められている感じが体中からする。
やっぱり疲れも癒えているんじゃないだろうか。そんな感覚もするんだけど、自然治癒ってエネルギーを使うんじゃなかったっけか。だとすると錯覚の可能性が高いかな?
まあなんだっていいか。今はひとまず休息をとることが優先されるよ。
くーちゃんの権能が収まり、知らずに負っていた怪我も綺麗になった。
ひとまず地下大迷宮入り口に転移することに決まり、さくっと実行した。
「ああああああああ! 目がっ!」
「眩しいっ!!」
僕とアリーチェの叫びと同じような悲鳴が周りから聞こえてくる。いやまあ、薄暗い所からいきなり真昼の空の下に出たらこうなるよね。何気に今日一番のダメージじゃないだろうか。自然って怖い。
視界が回復するのを待つことしばらく、全員が問題ないレベルに落ち着いてから移動して都市へと入る。僕たちが向うのは大衆浴場だ。
ゆっくり浸かって溶け切って、一切の疲れを洗い出してからミーティングをする流れに決まった、というか勝手に決めた。まあ女性陣が賛成に回ってくれたから、誰も拒否できなくなったという点も無い事は無いんだけど。
魔鉄を叩くことで生じた穏やかな音が響く中、ようやく大衆浴場に辿り着いた。
脱衣所からでも祈りのこもった子守唄は聞こえてきてね。これは湯船に浸かったら眠ってしまいそうだなと思いつつも、ちょっと楽しみな気持ちもあるよ。
今はとりあえず。ゆっくりと体を休めることにしよう。
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