巨大甲冑との戦い
爆発が連鎖して激しい音と振動が耳朶を打つ。これで倒せたなどとは欠片ほど思っちゃいないけれど、数秒程度の時間が稼げればいい。
それだけあれば、揺れで竦んだ足が回復するには充分だからね。
「エルナー! 一体は俺たちが引き受けるッ!」
「わかりましたッ! アルトッ!! 僕たちは急いでもう片方を倒すよッ!!」
「おうッ!!」
ラーシャーさんたち『雷牙』が一体の巨大甲冑を受け持つ。ベテランである『雷牙』であればそうそう後れを取ることはないって信頼があるよ。
あえて欠点を言うなら決定打だろうか。先ほどからラムダが魔力ジャックを試しているみたいだけど、まるで通用している様子はない。それに魔法自体もさほど効果は見込めそうにないのは、巨大甲冑の周りに漂う酷く濃い魔力が、場をかき乱していることから理解させられた。
加えて、あの甲冑を構成しているのは魔鉄だろう。であれば剣や矢もそうとう効きづらいのは目に見えている。
「ゾーイ!」
「心得ておりますッ!」
唯一、効果的な攻撃を行えるのはおそらくゾーイのみだ。魔鉄製のハルバードで『雷牙』を支援してもらうべく声がけすると、即応して駆けていく。
左右に散開し、ルルゥさんとシューゲルが魔技で貫通力を高めた矢を放ち、片方ずつ巨大甲冑に突き刺さる。それが叶っただけでも充分に凄い事ではあるけれど、相手が悪すぎる。
けど注意を向けさせるという事は出来たらしく、それぞれが地鳴りを挙げて駆けよってくる。
「なるべく回避優先ッ! 重量差がありすぎるから受けないようにッ!」
「わかったッ! はあッ!!」
広さはある。遠慮なしの『雷迅』を纏ったアリーチェが奔り、足元を斬り抜ける。その剣には『浄魔の焔刃』を宿し、斬りつけた部分が黄金の焔が揺らめいている。
ああなるほど、さすがアリーチェ。ファインプレーだよ。淀んだ魔力ではないけれど、濃すぎる魔力は僕たちには害だから、そいつに作用させるようイメージを固めていたようだね。
僕たち魔法使いよりもずっと、想像力が柔軟なんじゃないかな?
「うらああああああッッ!!」
「はあッ!」
アルトは『岩杭』で掬いあげた地面を疑似的な槌として固定して、思いっきり足首辺りに叩き付けている。その後にジンが続き、同じ個所に爆発するシールドバッシュを浴びせていたよ。
巨体が揺れてバランスを崩したね。明確な隙ができた。
前衛が長く時間を稼いでくれたお陰で、僕とラムダの準備も整った。ラムダが『スチームショット』の準備を整え、シューゲルには鉄球を転送して渡し、照準とタイミングを計る目となっている。
アリーチェがさらにバランスを崩すよう、回り込んで跳躍し、『風錬』に切り替えた剣を巨大甲冑の頭部に叩き込む。
未だ空中にいるアリーチェを、倒れ込みながらも殴り飛ばそうとしているのか、体格に見合った大きな腕が振るわれるが――させはしない。
「動くなッ!」
地図魔法のピンポイント魔技行使さ。急停止させられた肩の部分が悲鳴を上げて、バキリと圧し折れる。
「今ッ!!」
「いけええええええええええッッ!!」
ドガアアアアアアアアアアアアアッッ!!
指向性を持たせた水蒸気爆発のエネルギーが、殺意を乗せて鉄球を吹き飛ばす。ソレは巨大甲冑の頭部にぶつかって、轟音が闘技場のようなこの部屋を満たしていたよ。
次いで相手の倒れた音が響き、その余韻が小さくなるころには反対側で戦っている音が聞こえてくる。
激しく入れ替わりながらも、リーダーであるラーシャーさんの指示が飛び、ゾーイの攻撃を最大限に活かしているように見える。
さすがだなと思ってみていると、途端に背筋が冷える感覚があった。
慌てて巨大甲冑を見てみれば、鉄球の直撃で弾かれた頭部と圧し折れた腕が地面に溶けているように見える。
「ああ、くそッ! 忘れてたよッ! みんな離れて! 復活する!」
全員が飛び退いたのと同時に、巨大甲冑が腕を振り払う。
ほんの僅かな時間にも拘らずに、完全に復元された巨大甲冑は立ち上がり、その手には三メートルはあろう剣を握っていた。
勘弁してほしい。ただでさえ厄介な相手だったのに、余計に脅威度が上がるのはどうかと思う。
「エルナー、どうするッ!?」
「本当にどうしようねぇ!? 巨大で硬くて再生するってあんまりじゃないかなあ!?」
散開して逃げ回るよ。一緒に逃げているアリーチェと散々愚痴を言い合いながら、それでも打開策を考え続けている。
可能性を考えるならば、纏っている濃すぎる魔力をどうにかすれば、再生は止められそうではあるんだけど……現状ではアリーチェの『浄魔の焔刃』と、僕の金の『火精』だけか。
魔力ジャックが通用するならどれほどよかったか……あ。
「ラムダッ! 巨大甲冑の周りにある濃い魔力! 散らすよッ!!」
「――ッ! そう、か! 霧の場の制圧の要領で……ッ!」
ラムダと並んで立ち止まる。僕たち目掛けて巨大甲冑が剣を横に振るってくるけど大丈夫。ジンがタワーシールドを構えていてね、ちらりと見えた横顔は自信に満ちた笑みを浮かべているんだ。ジンの大きな背中に、僕たちは命を委ねるよ。
「すぅ……、があああああああああああああッッ!!」
角度を付けたタワーシールドを、迫る大剣が接触する瞬間に体ごと沈ませ――咆哮と共に剣の腹を全身のばねを使って跳ね上げた。
上体の軸がぶれて巨大甲冑がたたらを踏む。バランスをとるために左足に重心がかかったね、狙い目はここだ!
「ラムダ、左足の周囲をお願いッ! 『火精』ッ!」
「わかったッ!!」
青い『火精』を発現して巨大甲冑の足首辺りを強制的に加熱する。ほぼ同時にラムダが地の場を作りだして、その周囲の魔力を外側へと追いやっていく。
急激に熱が高まったせいか、青い『火精』が密着している部分が赤くなるのを確認した。
ジンはすでに退避済み。巨大甲冑を挟んだ向こう側には、雷光を迸らせながら紅蓮に燃える剣を構えるアリーチェがいる。空気が爆ぜる音が響いた音と、赤熱した巨大甲冑の左足首を斬る金属音が重なって聞こえてね。半ばほどの深さを斬ることに成功したようだ。
ラムダもそれを視認していたよ。そうしてニヤリと笑って魔法の名前を愉快気に紡ぐのさ。
「『ディグ』」
奇跡的なバランスで支えていたであろう左足首は、突如として窪んだ地面に吸い込まれてね。斬られた深さと自重による衝撃で、巨大甲冑の左足首が音を立てて圧し折れたよ。
当然ながら立つことは困難さ。真横に倒れたことで地面が盛大に揺れ、敵の左足首から先は無くなっていたよ。地下大迷宮に取り込まれる事も無く、再生される兆しもない。
それで安心するつもりはないよ。地図魔法で即座に分かたれた部分を円形闘技場の空中に転送する。壁や天井、地面に触れないように高度固定を使って隔離してしまうのさ。
「『火精』」
再度青い『火精』を呼び出して、巨大甲冑の右肩――大剣を封じるために密着させる。
その状態で動かそうとしていたからね、肩の関節部分が歪んでしまったようだよ? 大変だねぇ?
起き上がることもままならず、武器もまともに扱えなくなった巨大甲冑に、終わりをもたらすために想像力を練り上げる。
質量には質量を。買い取ってもらっていない分の鉄をまとめて転送して、地の場で覆いつくす。想い描くのは大きな鉄の杭。鋭く太く、密度を高めて硬度を尽くす。
イメージに沿って魔力が動いて形が出来上がっていくのは、見ていてなかなか面白い。鉄が粘度みたいに見えるのだから、魔法って言うのはとんでもなくでたらめで、とてつもなく興味深いよね。
そうして出来上がった無骨で大きな鉄の杭を、地図魔法で巨大甲冑の真上にセット。後はただ落とすだけのお仕事さ。
……巨大甲冑にも意思ってあるのかな? なんだか慌ててもがいているような……。大剣を手放してるし、って、あー……。
重く響く音が円形闘技場を支配した。その発生源では巨大甲冑の一体が力なく横たわっている。その体内にあった魔力の流れはすでになく、倒せたことを物語っていたよ。
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