魔鉄の性質
その後は宴を存分に楽しんで、ゆっくりと部屋で体を休めた。
そうして一週間を過ごし、その間に縦穴に二度行き当たった。洞人族に課せられた義務によって、下降している橙色の魔力と音色は、滝のような魔力の流れの一割にも満たないけれど、それでも圧倒的にその存在感を感じ取れていた。
だからこそだろう。その周りの魔力が追従するように真っ直ぐの軌道を描いて、色彩豊かなその様をこうして見れるのは、魔力視ができる僕だけの特権と言えるだろう。
すごく羨ましがられたけどね。こればかりは共有できないだろうと思ってはいたんだけど。地図魔法にまた機能が生えてね、指定した場所を条件を付けて映し出せるようになった。そこに魔力を指定しておけば、僕の魔力視と同じような事が出来るようになったのだ。
僕が視ていた世界に、みんなが圧倒されていた。僕ですら感動するような、縦穴を落ちる魔力の奔流を初めに視ることになったみんなは、呆然と口を開いたまま言葉を失っていたよ。
それとは別に、地上ではオーダーメイド品の一つの完成を知らされた。初めに手にすることが出来たのはゾーイだったよ。
「これは見事ですね……。重心は先に寄っていますが、石突に使われている魔鉄の量が絶妙です。振り回されず、けれど重さをもって力を伝達できるようですね……」
その形状は、戦斧と槍を一緒にしたようなものだった。記憶通りならハルバードに近いと思う。
ゾーイが一通りの型を舞い、重厚感あふれる見た目からは、想像できないほどに軽い風切り音が聞こえてくるよ。
「ゾーイ、せっかくだからオークで使用感を試してみる?」
「いいですね、お願いできますか?」
「もちろん!」
ということで本日の地下大迷宮アタックは中止だ。連日挑んでいたから、ちょうどいいし休息日の提案をすると、すんなり受け入れてもらえたよ。
ただ、みんなゾーイのハルバードが気になるようで、結局全員で街道へ転移することになった。
三匹のオークのマーカー付近に出るや、ゾーイが即座に駆けだして一閃。体格に劣る小人族ではあるけれど、扱う得物は自身の三倍はあろう長物だ。普通であれば武器に振り回されてしまうはずなのに、ゾーイは苦も無くオークの首を斬り落として見せた。
そのまま持ち手を変えて、体のひねりを使ってもう一体を斬り伏せると、ハルバードを引いてゾーイに怒りの咆哮を挙げたオークの頭蓋を突き刺した。
「……軽いですね。それに魔力の通りが良いようで、自分の一部のように動かせるような感じがします」
魔力体が抜けた魔鉄の特性なのだろう。変質した鉄がゆえの魔力の通りの良さが、身体強化や魔力コーティングを通して、自身の一部と認識させたのだと思う。
あながち間違いでもないはずだよ。魔力視で視ていたけれど、一切の淀みなく循環していたからね。
そう、循環なのだ。これまでの使いきりではなく、巡ることで更新し続けるという部分を最適化していた。
「グラントさんが言っていたのは、このことなんだろうね。使い手の魔力に順応することで、ゾーイが言ったように自分の一部みたいに手に馴染むんじゃないかな」
「確かにそんな感じですね。魔力コーティングをやめると途端に重くなります」
型があるのか、決まった動きを何度か繰り返しながら、ゾーイは槍の感触を確かめている。その口元には笑みが浮かんでいて、よほどにいい槍なんだということが伝わってくるよ。
当然ながら僕たちも期待が膨らんでいてね。出来上がる武具に想いを馳せながらゾーイの演武を見ていた。
魔鉄の槍の感触を確かめた後は、ゾーイをイーリアさんの元に送り届けたよ。折角の休息日だからね、ゾーイにも恋人との時間を楽しんでもらいたい。
僕とアリーチェはとある目的のため、生まれ育った南の村に行くことにした。『雷牙』と『金の足跡』は都市を見て回りたいということで、転移で送っている。
村に父さんたちがいることは確認済みだ。ただ、その前にアリーチェのご実家に行くことにする。
おばさんたちにもアリーチェの無事を教えてあげないといけないからね。溺愛していたし、本当は冒険者にさせたくなかったらしいけど、ならば出ていくという宣言に面食らったご両親が、慌てて認めたって言う経歴がある。おばさんたちがこっそりと、僕に時々でいいから近況を教えてくれと頼んでいた。
手紙はこれまで何度も出していた。それが届くかどうかは運次第ではあるけれど、それでも実際に会うとではまるで違うんだというのは、今目の前でアリーチェが両側から抱きしめられていることが証明している。
「エルナー君も無事で何よりだよ。レックスさんたちの所にはまだ行っていないのかい?」
「ええ、まずはおじさんたちを安心させようかなって。今日は村に泊まる予定ですので、よろしくお願いします」
「そうかっ!」
おじさんもおばさんも、本当に嬉しそうにしてくれた。僕の中にある幾許かの申し訳なさを、取り払ってくれるかのような思いだった。
しばらくアリーチェの家でくつろいだ後、僕の生家に向かう。
この時間だと、父さんは自警団か狩りのどちらかに行っているはずなんだけど、なぜか家にいる。不思議に思いつつもドアに手をかけようとして、空を切った。
「ほら、エルナーたちが帰って来たでしょう?」
「……女の勘って、未来見えるのか?」
父さんたちのやり取りで大体把握した。仕事に行こうとした父さんを、母さんが引き留めたんだろう。僕が帰ってくるからって。
意味が分からないけどね? けど母さんだから何でもありだと思えば、なんとなく納得する。妙に勘が鋭いし、きっとなにか固有魔法みたいなのがあるんじゃないかなあと、密かに考えていたりするよ。
「ただいま、父さん母さん」
「お久しぶりです、レナさんにレックスさん!」
「おかえりなさい二人とも。ふふっ、アリーチェちゃんはまた可愛くなったわね」
「おう、おかえり。……なあエルナー、その何か言いたげな顔はなんだ?」
父さんの顔を見た途端に、いろいろな感情が込み上げてね。自分でもどう表情を作ればいいのか分からなくなった。ただ、一つだけ言っておきたいことがある。良い事も悲しい事もあるけれど、どうしても言っておかないといけないことが。
「父さん他国でいきなりなにしてんの……? いきなり喧嘩して、剣ボロボロにして」
「あら、この人ったら色街にも行ったのよ?」
「聞いたよ。もう、どれだけ恥ずかしかったか……」
「やめろ……やめてくれ……」
項垂れた父さんを見て、我慢できなくなって笑ってしまう。つられてアリーチェも小さく笑っていたよ。
収まった頃に『ティータラース』に着いてからの事を教えたよ。土くれゴーレムの大発生や巨大鉄ゴーレムを倒したこと、父さんの二つ名の由来に、友人だったレジンさんに捧げた剣の事。
その一本を、今グラントさんが魔鉄を用いて打ち直してくれているという事も。
父さんは静かに笑いながら聞いてくれていた。終始穏やかに聞いていた両親だけど、僕はどうも不用意な事を言ってしまうらしい。
「あ、そういえばゴルトーさんに聞いたけど、二人とも昔はそうとうやんちゃしてたんだね。ハルトギルマスさんの苦労が目に浮かぶ……ん、だけど……」
おっと、笑顔の質が変わったぞ。微笑みから深い笑みに変わった。僕に宿る妖精が怯えているね、伝わってくる『許すまじ』という感情が、視てもいないのにどす黒いって分かってしまう。
どうしたものかと思考を巡らせつつ、隣で困り顔になっているアリーチェと目が合った。
安心させるために笑顔を浮かべてね、どうにでもなれと考えるのを放棄したよ。
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