洞人族製のお酒の効果
『誓約』についてはぼかして話す。この魔法の凄まじい所は、普段は一切その痕跡が現れないことだ。
魔鉄を叩いた瞬間に、宿る魔力体があふれ出していき、それに感応して黄金色の魔法が発現される。
魔鉄を叩くのは洞人族でなくてはいけない。他人種が叩けば、たちまちその魔力体に吞まれてしまうからだ。
違法採掘をしたヒトが発狂するのは、魔力が原因なのではなく、知らずに魔力体をその身に宿してしまうがためなのだ。そうなってしまえば、そのヒトの魂が襲われ、乖離してしまう。その苦しみは誰よりもよく知っているだけに、是非とも違法採掘をする人がいなくなってほしいものだ。
そこまで話すと、やはりというか当然のように、とある疑問が浮かんでくるものだ。
「長い年月を経ても持続可能な魔法も凄いんだけど、その原理を詳しく知りたい所なんだけど! ……それよりも身近な疑問として、どうして洞人族は魔鉄を叩いても無事なのか、それも分かるのかな?」
「ええ、分かりましたよクゥナリアさん。本当にびっくりなんですけど、お酒が答えのようです」
きっと疑問符が大量に浮かんでいることだろう。それもそのはずで、お酒にそんな効能は決してない。ないのだけど、ここ『ティータラース』で作られたお酒に限って言えば在り得てしまう。
かつて開拓していた頃から、洞人族はこの山脈で酒造りをしていた。この地で造られるお酒には、当然秘境の魔力が僅かに宿る。
そうして出来上がったお酒を当時の洞人族は好んで飲み、次第にその体には秘境の魔力が馴染んでいった。
代を重ねるごとに、その身に巡る魔力は秘境のモノと近くなり、結果としてエリカお姉様が『誓約』を施す頃には、完全に適応してしまっていたらしい。
「現地の環境に慣れるには、現地の物を口にするのが一番いいらしいですから……」
「あ、あはは……」
まさしく命の水という訳だ。加えて言えば、鉄と真摯に向き合い、語らうまでに至った彼らに託すのが、一番理に適った方法だったんだろう。
「はー、いろいろとんでもないな、この国は。秘境の真っただ中に住むために、進化したって事だろ?」
進化とは違うような気もするけど、概ねカッシュさんと同意見だ。
「ほかにも『虚質の紡錘』に関連することはあるみたいですけど、さすがに軽く触れただけだと分かりませんでした。なので、ここまでが今把握した全てです」
未だ聞こえてくる魔鉄を叩く音が響くたびに、魔力体がほどけて魔力となって拡散し、エリカお姉様の想いによって橙色に色づきながら、地下へと向かうそれらを見ながら思う。
あの縦穴で見た滝のような魔力量からは明らかに足りていない。ほんの一部分でしかないのは目にしていたから分かっていたけど、それならばあれらの魔力は一体どこから来たのだろうか。
ひとつ分かってもまた別の疑問が生まれてしまう。嫌ではないけど、キリが無いなと笑ってしまうね。
それすらも楽しんでいこうじゃないか。考えが合っていた時の高揚感とか、世界の秘密だとか。そういった事を考えたり知ったりしてね、どんどん増えていく知識に喜びを感じているよ。
「まあ、それでも。僕たちのやることは変わりませんけどね。秘境を踏破して、深奥の光景をこの目に焼き付けて。未知を既知に変えていくための冒険を続けるだけですからね!」
少しばかり高揚した気分のままに宣言すると、何故か生暖かい視線が集まった。
「エルナーの原点がそこだったからなあ。初めは何を言ってるのかいまいち分からなかったが、妖精の棲まう泉を見てから、少しだけ理解できたってもんだ」
「え、カッシュさん少ししか理解してくれなかったんですか」
「あの時は、それどころじゃなかったんでなあ?」
あー、はい。責めていましたね。しかもその後アルシェーラ様の協力の下、安心安全な虚像による殺し合いをしましたね。その度は本当に申し訳ありませんでした?
ちょうど頭を下げようとしたところに、奥の鍜治場のドアが開き、グラントさんが姿を現した。その手にはそれなりに厚みのある魔鉄のインゴットがあり、うっすらと笑みを浮かべながら僕たちの方へと歩み寄ってくる。
「おう、ちょうどいい所に。預かった剣だが、こいつで打ち直すことにした」
「それはお任せしますが……やっぱり違いますか?」
「とある点において、優秀だな。まあそいつは、実際に振って確かめてみるといい」
楽しげに笑うものだから、凄く興味が引かれてしまうよ。それは剣を扱う全員が共通していて、羨まし気な視線を向けてくる。
そんな視線を受け取って、グラントさんに向き直りじっと見つめて訴えてみる。笑みを吊り上げ獰猛な表情となりながらも、僕たちを見回しながら一つ頷いた。
「また魔鉄が増えてるみたいだからなあ。剣と盾、それと全員分の短剣を用意させてもらおう。腕のいい職人どもを紹介するから、それぞれ要望を伝えてくれや」
「「やったぁー!」」
アリーチェとメローネが喜びを体全体で表現していたね。全員分の短剣も造ってもらえるようだから、魔法使い組も弓術士組も嬉しそうだ。
気づけば黄金の魔法は鳴りを潜めて、都市中に響いていた心地よい魔鉄を叩く音は聞こえなくなっていた。
代わりに興奮しきりの洞人族の鍛冶職人たちが一斉にここへと集まってくる。そうなってしまえばなし崩し的に宴が始まってしまい、食事の準備やら酒の準備やらで多くの人が慌ただしく会場を行ったり来たりするようになった。
「おーう、聞けえッ! これから呼ぶ奴ぁこっちにきやがれッ! まずは――」
重く響くような怒声でグラントさんが職人を七名呼びつけると、睨むようにしながら近寄ってくる。まあグラントさんの呼びかけの仕方が悪かったとは思うけど、それでも呼び出された理由を聞いた職人たちは、一斉に満面の笑みを浮かべて僕たちにすり寄ってきた。
何とも贅沢な事に、ラーシャーさん、ゾーイ、カッシュさん、アルト、メローネ、ジンの剣や盾をそれぞれオーダーメイドで造ってもらえるらしい。僕とアリーチェはグラントさんがやるらしく、残る一人はというと短剣の担当になっていた。
全員共通の短剣という事で、一つ要望を出すことにしたよ。
「柄尻に、この羽ピンを掘ってもらえますか?」
「おう、そのくらいなら問題ねえ!」
「ならよお、いっそ全部に同じ彫刻するか?」
ラーシャーさんと打ち合わせしていた職人がそう言うと、僕を含めて全員の表情が緩んだ。それを見て取った職人たちはニヤリと笑い、それぞれが僕とアリーチェが身に着けている羽ピンのスケッチを取っていた。ちらと見てみたけれど、さっと描いたわりには物凄く上手い。
それを職人同士でさらに話し合い、羽ピンの意匠が決まったようだ。見せて貰うと、簡略化されてはいるものの、一目見て羽と分かるよう特徴を残してある。最終的には羽ピンである必要はないために、真上から見た羽の構図で決まった。
それからは現在使っている得物を参考にして、それぞれ職人たちと打ち合わせをしていく。
「私はこの剣に近い感じがいいかな。いま手に馴染んでるし、重心も慣れすぎちゃってるから調整に苦労しそう」
「僕はあの剣が復活してくれるならそれでいいです。欲を言えば、このグラディウスも手を入れてほしくはありますけど……」
「ふむ……エルナーは魔法使いだったな、地下大迷宮で剣を使う予定がないならば、預けるか?」
「そうですね……お願いしてもいいですか?」
アリーチェの剣を採寸し、重さを確かめているグラントさんの横にそっとグラディウスを置く。
一通り確認し終えたグラントさんはアリーチェに剣を返すと、グラディウスを丁寧に持ち、鍜治場に持って行くもすぐに出てくる。その手にグラディウスは無く、聞けば預けた剣の横に保管したとのことだ。
普段提げていた腰が軽い。それがなんとも心許無く感じるのは、それだけ僕の一部となっていたという事なんだろうね。
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