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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
鋼の子守唄を地の底へ
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疑問の答え

 考察タイムはここまでだ。カッシュさんたちがゴーレムを倒しきって戻ってきたからね。

 頭を切り替えていこう。魔力視を使って壁を流れる魔力を見やり、進むべき道が合っているかを確認する。

 進行方向に対して逆向きに流れているから、合っているはず。


 散発的にゴーレムと遭遇し、戦っているために進行は遅々としているけれど、それでも確実に進んでいる。

 分岐路もかなりの数存在していて、もし魔力視ができなかったらと思うとぞっとするね。地図を埋めるために、ネズミ型ゴーレムを違う道に走らせてできた、ここまでの全体像を確認してみる。


「……うわぁ」

「どうしたの? あ、地図……えぇ……?」


 平面の地図だと、描かれた道でもはや真っ黒だった。これじゃ地図の体を成さないから、立体地図に切り替える。

 横から、斜めからと確認できる立体地図で、ようやくここまでの状態を把握できた。

 それは地下大迷宮と呼ぶにふさわしいほどに、無秩序に入り組んだ形になっていた。場所によっては上がっていたり、左右の分岐で上り下りに分かれていたりと、通常のマッピングではまず迷うこと必至だと思う。


 なにせ、一部の分岐を平面で見ると道が繋がっているからね。大きな弧を描いて上層と下層に分かれていたりする。厄介な事に、緩やかな弧を描いているうえに、そうと気づかれない程度の坂になっているのだ。

 平面地図で合流する部分までの距離が五キロメートルほどあり、上下層でだいたい五メートルの差である。


 そんな部分があちこちにあり、その途中にも更に似た分岐があるのだ。


 地図魔法があって、魔力視ができて、転移によるリスタートも可能という僕たちは、相当恵まれているんだろう。


「ずっと似た通路が続いてて、分岐路の先も似た感じで、その上ゴーレムと戦闘があって。方向感覚もそうだけど、平衡感覚も鈍くなってスタミナを殺しにかかってる。敢えて迷いやすくしているデザインだね」

「疲れたら判断力も鈍るし、本当は凄く怖い所だったんだね……」


 アリーチェとドン引きしながら立体地図を見ていると、気になったのかラーシャーさんも覗き込んで、同じように「うわぁ……」と言っていた。


 今もなお更新されていく立体地図だけど、行き止まりに着いたネズミ型ゴーレムはマーカーが点滅し、一つ前の分岐へ転移させている。そのお陰で、今も順調に地下大迷宮の立体地図は複雑さを増していっている。


「エ、エルナー……すまんが、今日はここで引き揚げないか……?」

「僕は構いませんけど……今日ばかりは女性陣に裁決を仰いでください……」


 カッシュさんとアルトの表情が絶望に染まった。それでもカッシュさんはクゥナリアさんに近づいて、いくらかやり取りをした後に、両手をあげて喜びをあらわにしていたよ。

 アルトもメローネに頼み込み、ジンにも頭を下げて許しを得たようだった。


「「エルナー!」」

「はいはい。ともあれ、二人ともお疲れ様!」


 さすがに疲労の色が濃い二人に、これ以上無理をさせては体を壊してしまうしね。限界まで酷使させたからか、女性陣の留飲はいくらか下がったようだ。まあ、クゥナリアさんはそれどころではないみたいだけど。

 ラムダもそうだけど、あれからずっと考えているようで、口数が非常に少なかった。


 外に転移すると、全員が一斉に伸びをした。通路が広いとはいえ、洞窟のような迷宮内にずっといると、やはりどこか圧迫感を感じてしまっていた。光量もそれなりにあったとはいえ、やはり慣れ親しんだ空の下とは比べ物にもならないね。


 都市に入るために門をくぐると、途端に鳴り響く音に思わず肩が揺れた。

 門を出てみると、その音は全く聞こえてこない。門を境にして内側でのみ、先ほど縦穴で聞いた音が鉱山都市中に反響していた。


 キィン、キィンと鉄を叩く音にしては高く、それなのに懐かしさが感情を、いや、魂を撫でてくるような感覚。不思議なほどにその音は穏やかさを孕み、目を閉じて聴き入ってみれば柔らかく包み込んでくれる。


「……もしかして、洞人族の義務ってやつなのかな?」

「かもしれないな。見に行ってみるか?」

「行きましょう!」


 執務塔横に建っている、巨大鉄ゴーレムが運ばれた建物。その奥にあるらしいグラントさんの鍜治場へと向かう。

 その間もあちこちから祈りの唄が響き渡っている。

 妖精の祝福が感じ取る限り、この音に宿っているのは純粋な祈りなんだよ。そうだ、覚えがあるぞ。まだ赤ん坊だったころ、母さんが歌っていた子守唄。その感じに似ているんだ。


 ああ、そうか。これはエリカお姉様の『誓約』のひとつか。グスタフさんが言っていた、魔王の加護。おそらくエリカお姉様は、この地と世界線の保持機構を紐づけて、なんらかの思惑をもって魔鉄を叩くことを義務付けた。


 だからだろうか。

 魔力視に映るこの鉱山都市いっぱいに、黄金色の魔法がかかっているんだよ。

 魔鉄を叩く音が響くたびに、その魔法は無色の魔力を温かく色づけて、縦穴へと続く地面の下へと沈みゆく。


 建物に入り、鍜治場へと向かうと洞人族の男性に引き留められた。


「申し訳ありませんが、今はお控えくださいませ。我々にとって何よりも優先される、大切な儀式でもあります」

「わかりました。ここでお待ちします」

「ありがとうございます」


 豪放磊落(ごうほうらいらく)なイメージを持つ洞人族だけど、この義務を果たす際にはこれほどに畏まるらしい。真摯であるということであり、それもまた彼らのもつ印象の一つなんだと納得したよ。


 じっと耳を澄ませて都市全体から鳴り響く唄を聴く。通常であればうるさいくらいの音量であるのに、誰一人として嫌な顔はしていない。むしろ微笑みを浮かべてしまうほどに、心落ち着く音色となっている。


 エリカお姉様はこの地で何を見たのだろう。何を想って魔鉄を叩くことを望んだのかな。

 周囲に漂う黄金色の魔法。ほとんど無意識にそれに手を伸ばし、指先に宿した黄金の魔力で触れる。


 ――叩いて響く歌に乗り、母たる光へ還り眠れますよう。


 耳に馴染んだ大好きなお姉様の声で、そんな祈りの言葉が聞こえてきた。同時に、『誓約』に込められた想いと、それに付随する理由が頭に流れ込んでくる。

 ああ……そういうことだったんだ。


 あらゆる疑問が解消した。タイミングの良さに苦笑いが浮かんでしまったけれど、お陰でやるべき事の方針がしっかりと練れる。


「エルナー、何か視た?」

「視たというか、聞いたかな」


 隣に座るアリーチェの問いに答えると、みんなの視線が集まるのが分かる。待ってる間に話しておくのもいいだろう。


「魔王が課した義務……魔鉄を叩くということ。これが契機となって、一つ魔法が実行されています。魔鉄に宿る魔力を、ずっと真下にある『虚質の紡錘(ぼうすい)』に送り届けるというものです」


 理解半分、疑問半分と言ったところだろうか。まあそれは仕方ない。明らかに言葉が足りていないからね。


「魔鉄とは何か。その答えは、魂が宿らなかった魔力体が、鉄に憑いて変質した存在。地下大迷宮に存在している魔鉄のゴーレムは、“生まれなかった命の成れ果て”です」

「――ッ!」


 クゥナリアさんとラムダの肩が揺れたね。それはそうだ、さっき僕が投げかけた、魔物とは何かという疑問の答えに近づいたのだから。


「ここ『虚質の紡錘(ぼうすい)』は、魔力を()り合わせて魔力体とし、魂を宿す事で生命を発生させるための機構。様々な要因や環境によって、その生命の形は変わるみたいですね」

「……エルナー君、それはつまり、魔物もボクたちヒトも、原点は同じって事?」

「そのようです。生命として発生し、母体に宿るのが僕たちヒトや動物で、環境……その場の魔力的エントロピーによって変化し、発生するのが魔物のようです。魂が宿ることで、濃縮した魔力が肉体を模してるんです」


 アリーチェとメローネが、自分の体を触って首をひねっている。


「濃すぎる魔力で体が崩壊するのは、基礎が魔力体だから。例えるなら、土で作った球体が僕たちヒトで、外から加わる力が魔力だとしようか」


 適当な場所から土を転送し、簡単に土の玉を作って見せる。二人が頷いて続きを促してくるので、説明を続けよう。


「思いっきり押したら、壊れるよね? これを防ぐために僕たちは身体強化を行って、体の表面から反発していた。でなければ、こうなっていたから」


 両手で握りつぶした土の玉は、ぼろぼろと砕けて僕の手からこぼれ落ちていく。


「話が逸れたね。洞人族に課せられたこの義務は、かつて魔王様が“生まれなかった命の成れ果て”に悲しみ、地下深くの機構の元へ送り届けるための魔法なんです」

お読みいただきありがとうございます!

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