聖鳥クーデリカ
案内役のおじさんと父さんが先頭を歩き、僕とアリーチェを囲むように陣形を組んで進む。
とはいえ、ちゃんとした道があるわけではなく所々に打ち付けてある目印に沿って道なき道を歩く。
あれだけ陽気だったおじさん達が真剣な面持ちで周囲を警戒している様子に僕は心弾む。
「ねぇ、父さん。さっき使徒に凄い反応してたけどなにかあったの?」
「あー、まぁ、な。昔冒険者時代でちょっと、な」
「母さんは知ってる?」
「おう、知ってるぞ」
「そっかぁ、ねぇ父さん。全部吐いちゃおうか。僕は使徒関連の事なら聞いておいた方がいいと思うんだよね」
「……エルナー、お前楽しんでないか?」
当たり前じゃないですかお父様。動揺以外に苦い顔をしていたのを僕は見逃していませんよ?
それに使徒に関連する厄介ごとなら全力で対処したい。僕とアリーチェ、そしてなによりくーちゃんの為にもね。
「獣人国コーカトリア。そこの出身の冒険者と関りがあってな? 彼らは使徒の末裔だと主張し信仰しているんだ」
うわぁ、信仰関連だったよ。かなりデリケートな問題になってきた。
もし獣人国コーカトリアが使徒の顕現を察知できたとして、考えられるのは使徒の保護かな。
でも保護って言うとなんか傲慢な感じになっちゃうかな? 普通に考えれば使徒って上位存在だもんね。
というか、まって? 獣人だって?
「父さん、獣人って……?」
「あぁ、エルナーは獣人を見たことはなかったか。獣の要素が強いタイプ、人の要素が強いタイプのどちらかの見た目で、共通してるのは二足歩行と言葉を介する事だな。身体能力が総じて高くて敵に回すとかなり厄介だ」
思いっきり顔をしかめていらっしゃる。昔何かあったんだろうね。
「ふぅん、ねぇアリーチェは獣人のこと知ってた?」
「ううん、知らなかった。会ってみたいね!」
やめて、それ漫画にあったフラグってやつだよ! 厄介ごと連れてきちゃう!
「他の人種っているの?」
話を逸らしつつ今最も気になることを聞いてみた。気になるよね、エルフとかドワーフとか!
「いるぞ。森人、洞人、小人、巨人、鬼人、魔人だな」
「色々いるんだね……」
鬼人とか魔人って漫画だと敵対してるよね?この世界でもそうなのかな?
「敵対してる人種は?」
「うん? 特に敵対とかはしてないぞ?」
「え、そうなんだ。いがみ合ってたりしてるものだとばかり思ってたよ」
「その過激な考えは本当にレナにそっくりだなぁ」
「あはは、伝えておくね?」
「やめろっ!?」
父さんを除いた全員が笑い声をあげている。警戒は必要だけど緊張しっぱなしはよくないよね。
アリーチェなんて目がキラキラしてるし。この娘もなんだかんだ冒険が好きだよね。
「ねぇエルナー? 冒険に出られるようになったらいろんな人に会えるんだよね?」
「……うん? アリーチェも冒険者になるの?」
「……え? 何言ってるの? 当たり前でしょ」
当たり前なの? 知らなかった。
「えっと、おじさんとおばさんは知ってるの?」
「え? 言ってないから知らないと思う」
「……ちゃんと伝えないと駄目だよ」
「だってエルナー冒険者になるんでしょ? だったら私もなるの! その為におじさんに剣を教えてもらってるんだもん!」
え、そんな前から決めてたの!? どういうことなの父さん!
……なんで父さんもびっくりしてるの?
「父さん、アリーチェも冒険者になりたいって知ってた?」
「いや、知らなかった……。エルナーは知ってたんじゃなかったのか?」
「知らないよっ! 初めて聞いた! どういうことなのアリーチェー!」
「どういうことなのって、まさかエルナー一人で行こうとしてたの? ずるい!」
「えー!?」
どうしてこうなった!?
「はー、笑った笑った。賑やかだったせいか獣たちは遠退いていったみたいだな。そろそろ目的の場所に着くぞー」
先頭でげらげら笑ってたおじさん……いや、もうちゃんと名前で呼ぼう。ガイルさんが言う。
こっそり見た地図でもマーカーの位置にほぼ重なっている。いよいよくーちゃんと再開できるんだね。
アリーチェもそのことを理解したのか少し緊張しているようだ。
「見えてきた、あれだ」
「思ってたより綺麗な状態だな」
「だな。それにこの辺り、なんだか……」
そう、放棄された祠の周辺は妙に空気が澄んでいる。確実に何かあると、そう思わせるのだ。
「アリーチェ。僕かアリーチェが呼びかけないと起きないみたいだからやってみる?」
「一緒に呼びかけよう?」
「あはは、そうだね。そうしよっか。くーちゃんの今の名前はクーデリカだよ」
「いい名前だね!」
そうだね、くーちゃんとも呼べるしエリカお姉様に感謝だね。
祠の観音戸を開くとそこには白い何かが丸まっていた。状況から見てくーちゃんだろう。
アリーチェと横並びになってしばし見つめる。白く、大きい。丸まった状態で僕が両手で抱えるくらいはある。
「おはよう」
「会いたかったよ」
まずは僕が語り掛け、続いてアリーチェが。僕たちは見合わせて一つ頷く。
「「起きて、クーデリカ」」
くーちゃんの周りに橙色の光が現れると、その色合いが徐々に濃くなっていく。
やがてその光はくーちゃんに溶けるように沈み込んでいく。
ぴくり、と身動ぎし、ゆっくりとその身を持ち上げる。あぁ、いつか見た凛々しい顔に感じるのは僕だけじゃないみたい。
「くーちゃん、久しぶりだね?小さくなっちゃったね?」
「あはは、確かにソウドリよりずっと小さいね」
「クー」
いけない、涙が溢れてきた。あぁ、でもいいや。そんなのは些細なことだよね。
アリーチェが差し出した手にくーちゃんが身を寄せる。
「あ、はは、暖かい……ふわふわ……うぅ、くーちゃぁん……」
ぽろぽろと零れる涙がそのままアリーチェの想いを代弁している。
『願わくば少しでも長くくーちゃんと過ごせますように』
以前、そう願ったことがあった。けれどそれは1日と掛からず叶わぬものとなってしまった。
それでも今日、今この瞬間。あの日の続きが始まるのだ。そう思うと非常に感慨深い。
「あはは、あはははは。エルナー、エルナー! くーちゃんだよ、あははは」
感情が溢れてるんだろうね、泣きながら嬉しさが爆発している感じ。
うんうん分かるよ。僕もとっても嬉しいもん。だからねアリーチェ、僕を開放して?
ほら、くーちゃんの視線が生温いんだ。父さんたちも……いやびっくりしてるだけだね。
落ち着いたのかアリーチェの顔は真っ赤に茹で上がっている。
さもありなん。アリーチェは僕に抱き着いて頬ずりまでしていたんだから。恥ずかしいに決まってる。
僕は恥ずかしかった。
「あー、クーデリカ……様? でいいのか?いや、ですか? 確認なんですが使徒様で在らせられますか?」
「え、父さん何その口調気持ち悪い」
「気持ち悪い言うな!? 使徒様なら敬うべき存在なんだよ。神の代行者と言われているんだから」
「くーちゃん、そうなの?」
まぁ、そうなんだよね。エリカお姉様が言ってたし。目的が僕の守護というのが身内びいきな気がしないでもないけども。
『えぇ、神の代わりに愛し子を守護する役目を仰せつかってますの』
喋った!?
「愛し子?」
『エルナーの事ですの。そして愛し子と特に関り深いアリーチェの守護もワタクシの役目ですの』
「「「え?」」」
僕、アリーチェ、父さんの声が被った。
僕は単純にそんなことを言っちゃっていいのかということだけど、父さんたちは?
「まってくれ、じゃなくて、待ってください。愛し子ってどういうことですか?」
「エルナーと関り深い……関り深い……つまり……わ、わぁー!」
なるほど。父さんも純粋な疑問か。アリーチェはバグったんだ……。
『神は愛し子を慮っておられますの。この子は特別ですの』
「なんという……」
「エルナーと……エルナー……え? ちょっとまって? 神様ってもしかして金髪の美人っていう夢に出てきたって人?」
夢云々は出まかせだし美人ではないよ。エリカお姉様は美少女だよ。
だからアリーチェ、そんな刺すような目で僕を睨まないで……。
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