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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
鋼の子守唄を地の底へ
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伝わる魔王の言葉

 進路上の鉄塊を片付けて、魔力視で先を探る。膨大な魔力が壁を伝って流れているけど、空間というか空気にその魔力は流れ込んでいない。

 今の戦闘で地面も壁も多少なりとも抉れたり削れたりしていたはずだけど、その痕跡がまるで無いという、そんな異常だけは確認できていたよ。


 まあ、異常と感じるのは僕の常識の埒外であるからなんだろう。こうして洞窟型をかたどっているのだから、そこに何かしらの意味があって、それを維持するために復元でもしているのかもね。


 そういえば、ゴーレムの僕が残したメモ書きには魔力の流れを視るべしとあったね。

 ここまでも視てはいたけれど、特に不審な点は無かった。途切れることなく一定の向きに流れていて、僕たちはその流れに逆行するように進んできていた。


「……ああ、そういう事」

「うん? どうしたの?」

「ゴーレムが残したメモの意味を、ようやく理解したんだ」


 魔力視を行えるのが僕だけだから、みんなが気づけることはまずない事だ。だからだろうか、歩きながらも耳を向けて聞いてくれている。


「大迷宮の攻略法と言いますか、進むべき進路はある程度判別できそうです」


 驚き半分、納得半分と言ったところだろう。アルトたちなんかは、まあエルナーだしなと言って笑ってたりもする。もう何とでも言ってくれていいさ。


 この地下大迷宮たる『虚質の紡錘(ぼうすい)』を囲う壁や天井、地面を通る魔力には流れがある。その向きは全て“外”へ向けて流れており、奥に進むのであれば逆行すればいい。確定ではないけれど、地図魔法に記された通路と魔力の流れが一致している場所は、すべて行き止まりとなっているからね。


 進むべき道が分かっただけでも大収穫と言えるだろう。あとはここがどれ程の広さで、どれほどの深さがあるのかが問題となる。

 エリカお姉様も魔王時代はここを通ったはず。これまで見た過去の記憶と言うべきものでは、いつも一人だった。ここでもそうなのだとしたら、どれほど心細く感じた事だろう。そんな事を考えていると、僕の環境というものはとても恵まれたことなんだと実感するね。


 ゴーレムの僕はおそらく、すぐに気づいたことなんだと思う。それでも、地図を埋めてヒントを増やしながらも楽しんでいたに違いない。僕ならば確実にそうするからね。そうして、こんな中途半端なところで活動が停止してしまったのだろう。

 盛り上がった土くれに手を合わせて祈りを捧げるよ。僕の魂のコピーとはいえ、明確な意思を持った一つの存在だったんだ。


「ねえ、エルナー……」

「この土を、だね?」


 アリーチェの言いたいことと僕の考えていたことが一致していたようで、頷きと共に笑顔を零していた。

 ゴーレムの残骸を自宅に転送して、後日改めて供養することにした。


 迷宮と呼ばれるだけあって、分岐点が非常に多い。

 そのたびにネズミ型のゴーレムを作って、確認のために反対側へと走らせている。

 その結果として、魔力の流れに逆行して進むのが正解というのが分かったよ。ただ、作り出すたびにラムダのほうから羨望じみた感情が伝わってくる。


 散発的に鉄ゴーレムと戦い、戦利品を回収して進みを繰り返していると、地図魔法が明滅し始めた。

 不具合とかではなく、時間感覚が分かりづらい『無垢の寄せ(びつ)』での経験から、分かるようになればいいなと考えていたら生えた機能の一つで、言うなればアラームだ。さすがに音は出せないらしく、明滅することでアピールしている。


「今日はここまで、ですね」


 頷くことで同意を貰い、地下大迷宮の外に転移する。辺りを見渡し、暗くなりかけている空を見上げてようやく緊張感を解き、みんなが普段の様子に戻っていく。


「思ったよりも消耗したな。ああも限定的な空間だと、知らないうちに体が強張っていたようだ」


 腕をほぐしながら言うラーシャーさんに皆が頷き、前衛組は同じようにストレッチをしていく。

 対照的なのはクゥナリアさんとラムダの二人。ラムダの行った魔力ジャックをクゥナリアさんと共有し、二人合わせて乗っ取れたゴーレムの数は四体。この戦力が凄まじく、同士討ちの迫力や強制自壊などを、すごくいい笑みを浮かべて行う二人にドン引きである。


 ごめんなさい、嘘です。

 僕も楽しくなっていたので同じ笑顔を浮かべていたかもしれません。懺悔終了。


 都市に入るなり、洞人族の門兵がサムズアップを向けて門を降ろし、お疲れさんと一声かけてくれてね。僕も足りない筋肉でポージングして返礼しておいた。


 僕とアリーチェがそんなことをしていたからか、次第に皆も悪ノリし始めて、泊めてもらっている執務塔と呼ばれているらしい、大きな建物に着いた頃には、疲れを他所に皆で笑い合っていた。


「あ、グラントさん。ただいま戻りました」

「ん? ああ、帰ったか。どうだった? 初の地下大迷宮は」

「ええ、土くれゴーレムはあらかじめ倒していたんでしょうかね、まったくいませんでしたが、代わりにやたら硬い鉄ゴーレムがたくさんいましたね」

「……なんだと?」


 僕も報告してて違和感を感じていた。間引きが必要なくらい土くれゴーレムはいたんじゃなかったか?

 やっぱりここでも、何らかの異常は起きているのかもしれない。


「そのゴーレムの残骸、持ってるか?」

「はい。こちらです」


 手元に転送させた、手のひらサイズの鉄塊。思った以上に重くて落としそうになったけど、どうにか堪えた。

 グラントさんは目を大きく見開き、食い入るようにその鉄塊を観察している。手渡してみればより近くに持っていき、何かしらの結論が出たのか、眉間に皺を寄せつつ口を開いた。


「エルナー。こいつを譲ってはくれんか」

「……グラント王よ。それは些か道理が立たないのでは?」


 僅かばかり威圧感が増したラーシャーさんを一瞥し、それでもグラントさんの表情は変わらない。


「義務なのだ。こいつを、魔鉄となったこいつを叩く。それが、俺たち洞人族に与えられた義務なんだよ」

「それは、訊いてもいい事ですか?」

「ああ。遠い遠いずっと昔、この地はもっとずっと多くのゴーレムがいた。土くれも、鉄ゴーレムも普通の鉄剣や鉄槌じゃ弾かれるほどに、恐ろしく硬いゴーレムだったそうだ」


 そうして始まった、洞人族の昔話。

 開拓当初は魔力にあてられた者や、ゴーレムたちによって亡くなるヒトが数多くいた。

 それでもここを、新天地と見ていた彼ら洞人族は、勇敢に挑み続けてようやくこの地を得た。それでもゴーレムたちは洞人族を襲い続け、彼らも応戦するが、スタミナの違いから徐々に劣勢になっていったという。


 そこにふらっと現れたのは、燃えるような赤い髪をした魔族の少女。自らを魔王と名乗り、瞬く間にゴーレムを一掃したという。


「けれど、その時の魔王はとても悲しそうな表情をしていたそうでな。崩れた鉄ゴーレムの残骸を一つ手に取り、言ったそうだ」


 ――この魔鉄は、得られなかったモノの成れの果て。


 その意味を、今も分かってはいないらしい。けれども、救ってくれた恩人の言葉だからと今にも伝わっているらしく、エリカお姉様の言葉は他にもあるという。


 ――本来あるべき場所に至れぬ、憐れな子らに安らぎを。


 ――祈りを捧げて叩きなさい。この地に住まうというのなら、あなた達にはそうする義務がある。


 ――それがこの子らに対する、唯一の子守唄になるでしょう。


「そう言い残して、魔王は地下大迷宮に潜っていったそうでな。爺さん連中は言われた通り、この魔鉄に祈りを捧げながら打ったそうだ」


 結果論ではあるのだろうけど、その義務を果たしていると、不思議とゴーレムたちは弱体化したそうだ。

 洞人族はそれに喜び、そして地下大迷宮から出てきた魔王の姿に、さらに沸き立ったのだとか。


 ――この地はもはや、祝福された。義務を果たす限り、この秘境はあなた達を守るでしょう。


 それがエリカお姉様が洞人族に残した、最後の言葉なのだそうで。

 地下大迷宮の最奥、『虚質の紡錘(ぼうすい)』の中心核。そこで『誓約』を行ったのだと理解したよ。

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