魔力ジャック
嫌な予想って言うのはよく当たるものだ。
先行したゴーレムの僕によって表示されていた地図の終点、そこには土くれの山ができていた。
「……お出まし、だね」
ゴーレムの残骸を悲しげに見ていたアリーチェが、進行方向を睨みつけながら腰に提げた剣を抜く。
重く硬質的なものが地面を踏みしめる音が、一定の感覚で近づいてきている。やがて地下大迷宮の魔力による明かりに照らされたのは、一メートルほどの鉄ゴーレムだ。
ただ、外で戦った鉄ゴーレムと違うような違和感を感じた。魔力視をしてようやくその違いを認識したよ。
「内包する魔力が異様に高い……」
「――はあッ!」
大気が爆ぜる音がアリーチェの踏み込みと同時に聞こえ、次の瞬間には剣と鉄が擦れ合う甲高い音が迷宮内に大きく響いた。
昨日の戦闘で経験した、黄金の羽ピンから伝わる『向上』の魔力の動き。そいつをアドリブで再現した黒きお姫様の斬撃は、ヒト型の鉄ゴーレムの頭を斬り飛ばしていた。
だからこそ、カッシュさんは鉄ゴーレムに起きた現象に、警戒心をあらわにしていたよ。
「――おいおい、そんなのありかよ?」
「ゴーレムの魔力が、迷宮と繋がっているようです……斬り飛ばされた頭部の魔力が迷宮に還り、元の位置で復元されている……そう“視えました”」
壁にぶつかった鉄ゴーレムの頭部は、溶けるように迷宮に吸収されていてね。ほぼ同時に鉄ゴーレムは斬られる前の姿に戻っていたのさ。
ゴーレムには核がある。そこを潰さない限り、この地下大迷宮のゴーレムは不滅と言っても過言ではないのだろう。
「再生するだけじゃないみたい。私とエルナーで倒した鉄ゴーレムより、ずっと硬い」
「防御力が異様に高く、核以外では復元されて、その弱点の位置が最も装甲の厚い場所で。いやになるね、本当に」
こんな相手がこの先ずっと出てくるのだとして。それは剣士にとっては厄介な相手であり、下手をしたら折れないまでも、歪んでしまうからね。
比べて魔法使いはと言えば、少なくとも火魔法は使いづらい。場合によっては酸欠になってしまうからね。風では決定打に欠けるし水や土魔法はすぐに思いつけない。
弓はもちろん通らないだろう。槍も厳しいかもしれないね。
唯一攻撃が安定しているのは、本来は守りの要である盾士のカッシュさんとジンだろう。
言葉に出していたけど、本当にいやになる。
「……その割には楽しそうじゃないか?」
「それは、そうでしょう? だってさ……」
「「成長する、絶好の場所だもん!」」
アリーチェも僕の意図に気づいたようで、楽しげに笑いながら同時に言い放ったよ。
もしもこの鉄ゴーレムを安定して倒せるようになったなら、それは確実に成長しているという証左だ。
そしてここは世界線の保持機構のひとつ、『虚質の紡錘』という名の秘境だ。こういった相手がこの先たくさんいるのなら、その分検証なり実践なりをたくさんできるという訳で。
楽しみでしかないよ。今は困難でも、対策して適応し、そうやって実力を磨いていけるのだから。
加えて言うのであれば、ここが地下大迷宮と呼ばれている場所であることも、僕の冒険心をくすぐってきていてね。探索をしているという現状が、まるで漫画の中に入り込んだようでとても嬉しいんだよ。
いつの間にか増えていた鉄ゴーレム、見える位置には五体いる。奥にもまだ数体分の魔力が動いているから、目の前のゴーレムを早急に倒さないと危ないだろう。
「――ハアッ!」
横合いから飛び出したゾーイの裂帛の突きが、鉄ゴーレムの核を穿っている。穂先に纏う魔力の質は『向上』に近く、僕が使った魔技との違いは“線”と“点”であろう。
ゾーイの魔技は貫通力に特化していると見た。
この応用力はさすがの一言だよ。ゾーイ自身が持つ知識を上手く活用し、自分に合う方法で運用している。
そしてそれに感化されたのは僕だけではなくてね。ルルゥさんとシューゲルが、ゾーイの動きをじっと見ているのさ。助言したい所ではあるけど、今はその時間を取れないのがもどかしくもある。
負けてはいられない。僕も戦いに貢献するべく動くとしよう。
「『火精』」
金色の蝶が迷宮内に舞う。この『火精』は少々特殊で、厳密に言ってしまえば本来の火の場より生み出したわけではない。『浄魔の焔刃』の黄金の焔をイメージし、そこから派生させた退魔の蝶。
対象の魔力を乱す。そんな特性を持つ蝶は、対魔法の用途を考えていた。
そこにゴーレムという魔法生物が目の前にいるのだから、及ぼす影響というものを知っておきたくてね。有効であるならば、この上なく最高の援護になるだろう。
前線をアリーチェとゾーイ、ジンが維持し、次いでラーシャーさんとカッシュさんがサポートに入っている。
その合間を縫って、金色の蝶が未だ無傷の鉄ゴーレムの頭に止まる。
「――ッ!? エルナーくぅん?」
……魔力視ができなければ、今起きた現象を説明することはできなかっただろうね。
鉄ゴーレムが内包している魔力が、黄金の焔に飲まれて拡散した。それにより鉄ゴーレムはその体を維持できず、鉄塊へとなり果てた訳だけど、魔力を視ることが出来なければ、鉄ゴーレムがいきなり崩れたようにしか見えない。
「ずるいなあ、エルナーばかり……僕も考えてたことをしてみようかなあ」
「お、ラムダも何かやるの!?」
ラムダに意識を向けたのは、決してクゥナリアさんの圧に負けたわけではない。未だ猛禽類の眼を向けてくることに屈したわけではないのだ。
ラムダが自分の魔力を少しだけ放出し、鉄ゴーレムに触れさせる。その魔力を取り込んだゴーレムは、一見して何も変わったようには見えない。それにかまわずラムダは放出を続け――ニヤリと笑う。
「あ、は……! んふふふふ、できた、できたよ……ふふふふふふっ」
「「……うわぁ」」
クゥナリアさんと一緒に引いています。ただその理由は僕と違っていて、クゥナリアさんはラムダの様子に引いている訳だ。
対して僕はというと、ラムダが放った魔力で鉄ゴーレムの核を“乗っ取った”のだ。魔力ジャックである。
僕とは違うアプローチで、魔法を殺しに来たのだ。これを効率化したら、ラムダに敵は居なくなるんじゃないかと冷や冷やしております。
「えげつない……」
「何言ってるのさ。エルナーが場を奪わせたりするから思いついちゃったんじゃないか。くふふ」
クゥナリアさんは未だ僕たちの会話が分かっておらず、鉄ゴーレムを指さすとそちらを見やり、ああ、と納得の声を上げていた。
鉄ゴーレムが鉄ゴーレムをぶん殴っていてね。近くで見てたアリーチェとゾーイがびっくりしているのが分かるよ。
ラムダの魔力ジャックは留まることを知らず、感染するように三体の核を乗っ取ったところで、小さくうめき声をあげた。
「ぐ、うぅ……二体が限界かな……。これ以上はちょっと、キツイ」
そう言うやすぐに三体目の核を手放し――違った。霧散させてたわ。崩れて鉄塊となり果てた鉄ゴーレムを他所に、ガンガンと鉄ゴーレム同士で殴り合う音が響き、アリーチェとゾーイの尽力もあって倒しつくすことに成功した。
ラムダも魔力的には問題ないけれど、操るとなると精神的に厳しかったらしく、戦闘が終了した際に鉄ゴーレムをバラバラにしていた。
それにしても、この鉄塊に宿る魔力、本当に濃度が高いな。違法採掘したヒトたちも、こんな感じのを採っていたんだろうかね。
一応戦利品という事で、倒した鉄ゴーレムの残骸をいったん自宅の金庫に転送しておく。あとでグラントさん経由で鍛冶職人たちに配布してもらおう。
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