地下大迷宮へ
洞人族のみなさんには悪いけれど、今ばかりはゴーレムの事を集中して考えておきたい。
ラムダの様子を見つつ、僕の姿をかたどったゴーレムに色々訊いてみると、どうやら活動限界が割と近いらしく、維持するためには核となる部分に定期的な魔力供給が必要なようだ。
ゴーレムの僕に供給するかを尋ねると、笑顔で断られてしまったよ。
『土くれだからね。ちょっとした衝撃で損壊するし、それなら地下大迷宮に潜っていけるところまで行ってみようかなって。妖精の祝福がこの体にも少し繋がりを感じるからね、可能な限り地図を埋めたり、気づきを残してみるよ』
「そっか、助かるよ」
早速行くと言うから、入り口前に転移してあげた。
気づけば既に遅い時間となっていて、宴の終わりが近づいていた。グラントさんが一人の女性を連れて近づいてきて、どうやら彼女が僕たちを部屋に案内してくれるのだとか。
戦士たち、特にグスタフさんに挨拶をして、グラントさんに一言お礼を言って部屋に向かうことにしたよ。
三部屋を準備してくれていたらしく、アリーチェ、メローネ、クゥナリアさん、ルルゥさんの女性陣で一部屋。
残り二部屋を、僕、ゾーイ、ラーシャーさんにカッシュさんの四人と、『金の足跡』の男性陣の四人で分けた。
ゾーイの恋人であるイーリアさんから、『ティータラース』入りしたら、ゾーイを戻さずに行動を共にしてほしいと言われていてね。寝食を共にして、より連携の密度を深めてほしいという願いがあるそうだ。
ゴルトーさんはと言えば、顔なじみである戦士たちが使っている宿舎があるらしく、そこで泊まるらしい。
巨大鉄ゴーレムとの戦闘と、戦士たちとの模擬戦で疲れた上に、満腹感も重なって、雑談する余裕すら無いままに眠りに落ちていたよ。
ゴーン、ゴーンと聞こえてくる鐘の音で目を覚ました。というよりも、ゾーイが飛び起きたために、それにつられて目が覚めたといったほうが正しいかな。
「あ……、みなさま、申し訳ございません……」
「いや、仕方ないさ。ゾーイ殿にとって鐘の音とは、戦いの合図であったのだから」
反射的に大剣に手をかけていたラーシャーさんが言うには、ゾーイの戦意を感じて一瞬で覚醒したのだという。カッシュさんも頷いていて、暢気にあくびをしていたのは僕だけであるという。
僕たちが泊まった部屋は、横並びに準備された三部屋の真ん中である。残念ながら僕とラムダ以外の全員が気配に鋭いため、ほぼ同時に皆目を覚ましているらしい。申し訳なさそうにゾーイがそう言っていたよ。
身だしなみを整えて部屋を出ると、ちょうど皆も出てくるところだったらしく、ゾーイがひたすら謝っていた。誰一人として嫌な顔せずに、気にしないでいいと笑っていたよ。
僕とラムダだけは蚊帳の外だったけどね。
とりあえず昨夜の宴の会場に足を向け、中に入ると鉄ゴーレムの残骸の前にグラントさんが立っていた。僕たちに気づいて片手をあげて招いてくれた。
「よう。よく眠れたか?」
「おかげさまで、ゆっくりできました。さっきの鐘は朝を告げるものですか?」
「ん? ああ、あれか。ここ『ティータラース』は山に囲まれているから、朝日は見えない。訓練場から見て、空が色づき始めた頃に合図をよこして、鐘を鳴らすのさ」
そうすることで、なるべく不規則にならないようにしているらしい。同じように太陽が中天に位置した時には昼の鐘、空の色が闇に飲まれたら夜の鐘と、時間を示すために鳴らすんだとか。
模擬戦をしているときにも鳴っていたそうだけど、まるで気づかなかったね。
「それで、だ。エルナーよ、こいつをどうするかは決めたか?」
グラントさんの背後にある鉄ゴーレムの残骸を、親指で示しながら聞いてきた。それについては相談してはいないけれど、好きにしろっていう雰囲気が伝わってくるからね。
「売ります。気兼ねなく使ってください」
「ふっ、そうなったか。分かった、ありがたく買わせていただこう。連中も喜ぶことだろうよ」
顎で入り口を示すと、そこには宴で見た鍛冶職人たちが覗いていた。こちらの声は聞こえていないようで、声は上がっていないみたい。
グラントさんは僕の返事を予想していたのか、査定額が書かれた紙を差し出してきた。
金貨五枚。これが高いのか安いのかよく分からないけど、グラントさんの事は短い付き合いだけど信じられる。くわえて、妖精の祝福が悪感情を伝えてきていないから、妥当な金額なんだと判断できた。
金銭のやり取りが交わされたことで、鍛冶職人の人たちの感情が爆発していたね。それでも過去の教訓からか、落ち着いた行動をとってグラントさんの分配を待っていた。
急に忙しくなったグラントさんはため息をついていたね。邪魔しては悪いから、お辞儀をして退室するよ。
そのまま門へと向かい、既に開かれていたから、門兵に地下大迷宮に挑むと一言伝えておいた。
通路と地下大迷宮の分かれ道に、見知った武装を身に着けたゴルトーさんが、山肌に背中を預けて立っていた。
「よう。待ってたぜ」
「あれ、ゴルトーさんも一緒に行きます?」
「いやいや。俺は冒険者じゃないからなー。傭兵のお仕事があるんだよ。と言っても単なるお使いなんだがな」
傭兵ギルドでは念のために装備一式をある程度常備しておくらしく、今回の『ティータラース』行きは丁度いいタイミングでもあったのだとか。ここであらかじめ商談をまとめておいて、後日商隊を組んで取りに来る。
さすがに一人で持ち帰れる量ではないからな、と苦笑い交じりに教えてくれたよ。
「それなら、帰りは僕の転移で一緒に行きます?」
「……化け物。いやまて、何でもないすまなかった!」
……おっと、口の端がつり上がったのが分かったぞ。いけないいけない。
「そうしてくれるなら俺もありがたいからな、助かるわ。邪魔して悪かったな、気を付けて行って来いよ?」
「ええ、さくっと踏破してきますので、商談は早めにまとめてくださいね?」
「言いやがったな? 口が減らねえのは親譲りかよ?」
お互いにニヤリと笑ってね。気負いはない事を伝えておくのさ。
心配を掛けさせる必要は無いからね。実力を示し余裕を見せておけば、ゴルトーさんも腰を据えて商談に臨めるだろうから。
ゴルトーさんと別れ、とうとう地下大迷宮の入り口に辿り着いた。ここで改めて地図魔法を確認してみれば、ゴーレムの僕が進んだであろう道筋が、予想以上に追加されていたよ。
それだけではなくてね。地図魔法に記された、地下大迷宮の正式名称。
『虚質の紡錘』
それがこの場所に存在する、世界線の保持機構たる秘境の名。
どんな意味を持っているのか、それはまだ分からないけれど、目の前に広がる地下への入り口から見える魔力には、どこか懐かしいものを感じていてね。
足を踏み入れる。外からだと暗く視界は悪いかと思っていたけれど、昨夜訓練場でみた山肌が光る現象。それが地下大迷宮内を照らしていたよ。広さもラーシャーさんが大剣を振るうのに問題はない。なんなら馬車も通れるんじゃないかってくらいの広さがあるよ。
壁や地面の全体に魔力が流れているのがわかる。ゴーレムが挑み、地図魔法に書き記した所感には、『魔力の流れを見るべし』とだけ書かれている。僕らしいというか、考える楽しみを分かっているね。
魔力に流れがあることは見てすぐにわかっていた。その向きを確認するのも当然の事ではあるね。
敵影は未だなく、このまま進むと最初の分かれ道がある。そこに辿り着いて地図魔法を確認すれば、右側は行き止まりになっている。
「ここは左ですね。先行したゴーレムによる地図はまだ続いてますが、あと二つ分岐したところで途切れてます」
「ここまでは何もなかったね。油断するつもりはないけど、この流れはあまり良くないかなぁ……」
アリーチェの懸念もよく分かるのさ。秘境という特殊な土地で、敵性の存在がまるで現れていない。それはあとあと困ることになりそうっていうのはあるんだよ。
だからこそ、土くれであろうと居てくれると良かったんだけどね。そう上手くいかないか。
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