模擬戦の感想
結構なボリュームのあった串肉を三つも食べきってしまった。それだけ美味しかったのだけど、別の料理も楽しんでおくべきだったと後悔している。
夢中になって食べていたからか、気づけば先ほど模擬戦した戦士たちが、串肉を両手に持って囲むように立っていたことに気づいた。
そういえば取りに行ってないのに串肉が手元にあったなと思い出して、改めて戦士たちの表情を見やれば、実に楽し気な笑みを浮かべていたよ。
そうして無言で僕たちに串肉を差し出してきてね。なるほど、こうして知らずに食べさせられていたのかと理解したよ。
「……すいません。もう食べられないです」
「なんと……小食すぎないか?」
握りこぶしより少し大きめのを三つだよ? 結構な量を食べたと思うんだけど、洞人族の屈強さんにとってはそうでもないらしい。
あろうことか、片方の串肉をたった三口で食べきってしまい、残る方もあっという間に胃袋に収まっていた。そして木製のジョッキに入った酒を一気に煽って、更に三本の串肉を片手に持ってきた。当然空いた手にはお酒である。
「君たちの強さには驚かされた。よければ俺たちと戦った感想とか聞かせてくれるかい?」
「ええ、もちろん!」
基本的に立ちながら飲み食いするスタイルの宴だけど、一息つくためのテーブル席もある。そこに促されて腰を落ち着けると、二人の戦士の方が果実水となにやら小皿を持ってきてくれた。
見た感じだと小さな木の実に塩を振っただけの簡単なものだったけど、噛むとカリカリと耳に楽しい音が響き、塩味の中に感じる、仄かな甘みが舌を楽しませてくれる。
アリーチェも気に入ったようで、音を楽しみながら嚙み締めるように味わっているのが微笑ましい。
「感想ですが、なんとなく感じたのは、速い相手は不慣れなのかなとは思いましたね」
「あ、それは私も思ったよ。メローネと動いたときも、目では追えていたけど体が対応しきれていない感じだったかな」
基本的には土くれゴーレムを相手にしているであろう戦士たちだからか、陽動するように動いたアリーチェとメローネの動きに、完全には対応しきれていなかった。ただ、戦士としての経験値があるために、本能と呼ぶべき部分で応じているように感じたんだよね。
「よく見ている。確かに俺たちは土くれどもや、ときおり発生する鉄ゴーレムを相手にすることが多くてな。そいつらの動きに慣れてしまっている部分はある。たまに賊を相手にすることもあるが、これまでは常識的な速さだったから問題は無かったがなあ……」
「環境に適した戦い方がありますから。洞人の皆さんにとって、重さのある攻撃が最も適しているんでしょう」
納得したかのように頷いてくれていてね。僕の意見に理解をいただけたようでなによりだよ。
常識的でない動きをしたらしいという言外の言葉には、アリーチェと一緒に苦笑いで対応するしかなかったけどね。
「あと、剣の扱いにもなんだか不慣れに感じたかな? 軽さに遊ばれているような、そんな印象だったよ」
「あ、確かに。普段は鉄槌を使っているって話を聞いたから、それでかな?」
「本当によく見ているな……。俺たちが剣を使うのは賊を相手にするときと、ゴーレム以外の魔物が発生した時のみだ。戦士たちの筋肉は、普段使う鉄槌をより高い水準で扱うためのもの。棒切れを振り回しているようで、心許無いって言うのは確かにあるな」
周りの屈強さんたちも口々に同様の事を言いながら頷いている。やはりというか、軽さがむしろ怖いみたいだ。
普段使っているという鉄槌はというと、会場入り口に立て掛けられている、持ち手が一メートルほどで僕だと片手で握り切れないくらいの太さがある。その鉄の棒の先端に、鉄塊をそれっぽく成形して飾り付けましたと言わんばかりの、重厚感しかない代物だった。
どれほど重いのだろうか。純粋に気になって聞いてみれば、僕とアリーチェ二人分よりは重いんじゃないかとのことで、行儀が悪いけど二人でテーブルに乗って、戦士の一人に持ち上げてもらった。
「軽いなぁ!」
とのこと。いやはや、そんな得物を普段使っていれば、そりゃ剣の軽さは不安になるというものだ。
身のこなしだって相当に変わる。腰を据えて得物を振るうのが洞人族の戦士なら、僕たちはしなやかな動きをもって技術で振るう。重さと速さでは戦い方が違って当然ではある訳だ。
「みなさんが鉄槌を使って模擬戦をしていたら、結果は違っていたかもしれませんね」
「それはいろんな意味で危険だからな! まかり間違って君らをミンチにしたとあったら俺たちも殺されちまうよ!」
ガッハッハと戦士たちが笑う。確かに避けずに受け止めようとしたら、間違いなく潰れると思う。
かすりでもしたら大怪我は間違いない。避け続けるのと当てるだけで良いのでは、心の持ちようも変わるしね。
「ん? ああ、そうか。同じ理由で魔法は使わなかったんだな。配慮したつもりだったが、全然足りてなかったなあ」
「疲労があっても魔法は使えますからね。模擬戦のコンセプトとはかみ合わない部分もあります」
「でも、クゥさんやラムダが魔法を使ったら、それこそ一方的になったんじゃない?」
「そうだねぇ……もし皆さんが鉄槌を使っていたら、的になっていたかもしれないですね……」
ルルゥさんやシューゲルは、鏃を外した矢を使う事で殺傷力を無くし、戦いに参加していた。その二人にしても、動きが遅い相手なら狙い放題打ち放題といったところだろう。
逆にカッシュさんとジンは危なかったかもしれない。いくら魔技によって強化されていたとしても限度はある。それこそまかり間違ってミンチになる、という危険があるわけだ。
「そう言えば君も魔法使いなんだよな? 訓練場から一瞬でここまで連れてきてくれたから、すごいってのは分かってたんだが」
さすが『魔女』の子でもあるな、と言われたよ。デモンストレーションというわけではないけれど、僕の代表的な魔法をお披露目と行こうか。
「『火精混交』」
今では赤・青・緑・黒そして金の五色に増えた、色とりどりの燃える蝶が会場を飛び回る。全てその能力を制限しており、見た目通り綺麗なだけの存在だ。
僕が指を曲げながら腕を上げると、そこに金色の『火精』が止まってね。それを見たアリーチェも真似してみると、黒い『火精』がその細い指に止まったよ。
奇しくも僕とアリーチェの髪色と同じでね、それがなんだか可笑しくて笑みが零れた。
戦士たちに視線を戻してみれば、驚いてくれているようだ。彼らにこの魔法を説明するよ。
「この魔法で発生した蝶は、『火精』と言います。攻撃性の赤い蝶は触れたら爆発し、青い蝶は対象を燃やします。簒奪系として緑の蝶は内燃していて、対象の周りの空気を奪い、黒の蝶は熱を奪います。金色の蝶は少し特殊で、不浄の魔力を燃やします」
手を伸ばして『火精』に触れようとしていたヒトたちが、突然止まって静まり返った。
不思議に思っていると、ラムダが『火精』を指さし、クゥナリアさんが笑みを堪えながら腕を交差してバッテンにしている。ああ、そういう事か!
「ごめんなさい、今言った効果は排除しているので、触っても平気です! 言葉が足りませんでした!」
慌てて謝ると、会場を満たしていた緊張が一気に弛緩するのを感じる。危ない所だった、もう少しでこの国で危険人物扱いされるところじゃなかったか?
「エルナー、面白エピソードがひとつできたな?」
「さすが、『鉄鬼』と『魔女』の子だよなあ?」
この旅でとても仲良くなった、カッシュさんとゴルトーさんがいい笑顔でそんなことを言うもんだから。
笑顔を返し、二人を連れて夜の大空に案内したら、声を上げて喜んでくれたよ。
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