歓迎の宴
模擬戦であるからね。ジンのタワーシールドに纏う火の魔力はそう多くはない。
それでも、ぶつかるタイミングで発生する爆発は、たとえ小さなものだろうともヒトを跳ね飛ばすには充分なのさ。
想定よりも重く入ったシールドバッシュは、戦士の厚い筋肉の鎧を軋ませながら足を浮かせていたね。他の戦士を緩衝材にして、吹き飛ばされた戦士は軽傷で済んでいた。
惚れ惚れする手際だった。カッシュさんが派手に立ち回って危険度を示し、視線を集めていた。その意識の外側からのジンの強襲。たった二人の連携で、脱落した戦士は半数を数える。
「ぬううううう!! やるではないかッ!」
グスタフさんが二人を連れてこっちにに駆けてくる。
戦士たちの体に巡る魔力が活性していてね、身体強化によく似た状態にあることが見て取れる。
だからこそ。
多対一は避けるべきだ。戦士たちの隊列をかき乱すべく黒い風となっていたアリーチェと目が合うよ。ゾーイとも視線を交わして訴えかけるのさ。小さく浮かんだ笑みを了承と受け取り、二人を転移で呼び出す。
突然現れた二人に動揺しているね。妖精が戦士の驚きを知覚して伝えてくれる。
ちょうど同数となったからね、僕たちからも駆け寄り、グスタフさんと勢いよく鋼を交差させる!
ギイイイイイイイイィィィィンッッ!!
最初のぶつかり合いは力で劣る僕たちが競り負けた。弾き返された勢いを活かしてステップを踏み、技で応酬していくよ。
『風錬』を纏って円を起点とした動きを意識する。横薙ぎから回転して逆袈裟、その構えから踏み込んで胴薙ぎをする。その全てを防がれたけど、それは想定内だ。背後に駆け抜けた僕を追いかけるように、グスタフさんは体をひねる。動き続けている僕に対し、静止状態だったグスタフさんは動きの出だしが遅いのさ。
ほんのコンマ数秒の世界だよ。けれどそれが致命的になり得るのが、この高速の世界での戦闘だ。
グスタフさんの体の動きに合わせて、死角へと駆ける。
振り返っても僕の姿を見つけられない、そんな一瞬の空白を故意に生み出すのさ。
そのまま追いかけるか、それとも勘で反対側を守るか。そんな選択肢も発生してね。迷うという事は、それだけ行動が遅れるという事でもある。
そういう状況をデザインするのさ。まともにぶつかり合えば負けるから、からめ手を使う。普段自分を魔法使いと言っている僕だけど、今この時だけは戦士としての力量を、グスタフさんに示しているんだよ。
肉迫する。振るったグラディウスが、グスタフさんの鎧に吸い寄せられるような軌道を描く。
それでも。長く守る為に戦ってきた戦士の勘は、もはや異能のレベルで昇華されているんだよ。
ガギイイイイイイイイイイイッ!
「巧いな、エルナー」
「……ははっ、すごいですね。入ったと思ったのに」
一歩引いて生まれた、ほんの僅かな距離。それを最大限に活かして間に合わせていたんだよ。
ベテランって言うのは、誰も彼もが凄まじい何かを持っているものなんだと知れた。憧れてしまうよ、グスタフさんからは一切の焦りを感じない。
「むぅ、不甲斐ないな。立っている戦士は俺だけじゃないか。いや、違うか。君たちが強いんだな。これでは模擬戦にならんか……。残念だがここまでにしよう」
そう言って戦意を霧散させると、満面の笑みを浮かべて僕の頭をガシガシと撫でてきた。
「エルナーは魔法使いと聞いていたんだがな! まさかここまで動けるとは思わなかったぞ! 護身のために身に着けた剣と思っていたが、とんでもない。そこらの剣士よりよほど強いじゃないか!」
「ありがとうございます! まあ、純粋な剣の腕は剣士に劣ります」
「ガハハハハハッ! そりゃそうだ、勝っていたら剣士の立つ瀬がないだろうッ!」
アリーチェたちが何度も頷いている。それを見たグスタフさんはさらに声を上げて笑っていたよ。
一方で、くーちゃんは白く輝く炎を発現させて、倒れた戦士たちに降り注いでいる。いきなりだったから戦士たちは慌てていたけれど、いざ燃やされると痛みが引いていくのが分かったのか、緊張はほぐれたようだった。
治癒の権能が解けると、一切の怪我が治っているから、戦士たちは笑顔となっているよ。
「……凄まじいな。なるほど、手紙に使徒様がいると書いてあったが、本当だったのだな」
「『聖鳥・クーデリカ』です。僕とアリーチェの、大切な友達ですよ」
戦士たちにポーズ付きでお礼を言われて、ですのー! と翼を広げて応じるくーちゃん。馴染んでるなあ。
『金の足跡』全員がポーズを真似して、それを見た戦士たちが笑いながら筋肉が足らん! と言ってポーズを変えている。盛り上がった筋肉を見てアルトが崩れ落ちた。なにしてんの。
ふと、空を見上げると真っ暗になっている。けれど今の今まで模擬戦をしていて、視界ははっきりとしている。
山全体が、うっすらと光っているのが分かる。これも秘境の魔力が成している事なのだろう。なんとなくだけど、現在の『夜行の眼』の前身である『夜目』を思い出してしまった。
それがいけなかったのかね。無意識に使っていたらしく、屈強さんたちを含めた全員が不意を突かれて爆笑していた。
宴会の会場に戻ることになったから、転移で建物の前に移動をすると、驚きつつも感動してくれた。
なんていうか洞人族って、良くも悪くも真っ直ぐな感情を持っているように感じる。
会場に入ると、先ほどよりも人が増えていた。グラントさんが僕たちを見つけて近づいてきたので、訊いてみるとしよう。
「戻りました。貴重な経験をいただきましてありがとうございます。それで、集まっているヒトは主にどういった方々なのでしょう?」
「あー、畏まらんでいいぞ。宴の場では個人を尊ぶ。役職なんてクソくらえってな。代々そんな感じだからそれに倣ってくれるとありがたい」
右手にお酒が並々と入った木製のジョッキを、左手に焼けたなにかの肉塊を持ってそんなことを言う。この国のトップからしてこんな感じならば、僕たちも羽を伸ばしてもよさそうだね。
「ここに居るのは多くが鍛冶職人だな。ぶっちゃけるならこの鉄ゴーレム目当てだ。どうするかはお前が決めていいぞ、エルナー」
「そう言われても……少し考えてもいいですか?」
「おう、決まったら俺に言ってくれ。面倒だが王なんでなあ……あー、面倒くせぇ」
洞人族でも酔うのかな? グラントさんは特にストレス抱えてそうだし、仕方ないと言えばそこまでだね。
それにしても使い道かー、何も思いつかないんだよねえ。無難に売ってしまうのがいいかもしれない。
「まあ、今は宴を楽しんでくれ。酒が苦手なら向こうに果実水がある。『エストハレン』から取り寄せてるから、味は保証するぞ。改めて、よく来たな! 歓迎するぞッ!」
周りからも声が上がった。ジョッキを掲げてグラントさんの声に同調し、叫んだ後に一気に煽る。そうして飲み干せば、誰もが満面の笑みを浮かべているんだよ。
この国のヒトたちは距離が近い。秘境という場所にあるからか、はたまたそれが種族性なのかは分からないけれど。嫌いじゃないよ。むしろ好ましいとさえ感じる。
アリーチェも、みんなも同じようでね。自然と笑顔が溢れるのさ。ラーシャーさんとカッシュさんは早速お酒と肉を楽しんでいる。負けてられないね、僕も全力で楽しむことにしよう。
「このお肉、何の肉だろうね?」
「このタイミングだとオークじゃないかな?」
アリーチェと串に刺された肉の塊に齧り付くと、熱い肉汁がこぼれ落ちる。慌てたけれどそこかしこで床に染みを生み出しているのを見て、これが当たり前なのかと戦慄を覚えたよ。
隣を見ると、アリーチェは僕と違って小さく齧り、零れるのを最小限にとどめていた。こういうところは女の子だなあと思います。
それにしても美味しい。ここに入ってから感じていたんだけど、懐かしい匂いがするんだよね。その正体をこの串肉を食べてようやく思い出した。
これ、醤油だよ。火で焦がされた匂いが会場を満たして、そこに肉の焼ける匂いまで加わって、空腹感を加速させてくるのだ。
そして串肉に噛みつけば醤油の風味が口いっぱいに広がって、さらさらとした肉汁と一緒に咀嚼した肉を飲み込めば、鼻から抜ける暴力的なまでの香りが次の一口を促してくる。
たまらない。果実水で一度口の中をさっぱりさせようと飲んでみれば、柑橘系の風味がふわりと広がる。
これはいけないな。飲んで、食べての無限ループにはまりそうだ。
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