『移動要塞』の矜持
しばらく剣を捧げ持って祈りを込めた。僕にも声が聞こえないかと期待していたけど、そううまくはいかないみたいだね。
魔技を解いて黄金の魔力も鎮静させる。両手で丁寧に持ち、グラントさんに託したよ。
何を聞いたのか、グラントさんが獰猛な笑みを浮かべながら、なにやら豪華な装飾が施された箱に剣を収納していた。
「さて、もう日も落ちる。あの鉄ゴーレムを倒したのを確認してすぐ、宴の用意をさせている。是非とも参加してくれ。戦士たちも話をしたいだろうからな。ああ、それと宿の代わりと言っては何だが、ここの客室を使ってくれ。後で案内を寄こす」
「わかりました。お心遣いありがとうございます」
グラントさんの案内を受けて向かったのは、さきほど巨大鉄ゴーレムを運び入れた場所だった。
かなり広い部屋の中心に、真っ二つになった状態で鎮座している鉄ゴーレムの周りを、屈強さんたちが囲んでポーズをキメている。ちなみに人数は増えて十三人になっていた。
「ねえねえエルナー。あの格好って何か意味あるのかな?」
「あれはね、筋肉で語ってるんだよ。より筋肉を魅せるための、洗練されたポーズなんだ……たぶん」
「そのとおおおおおりッッッ!!」
うおおおおおお! びっくりした、いつの間にか隣に屈強さんの一人がいるんだけどっ!
「け、気配を感じなかった……!」
「いや、違う……、気配が強すぎて遠近感が取りづらいんだ……ッ!」
メローネとアルトもびっくりしていたようだ。というか驚いていないのはゴルトーさんだけで、僕たちの様子をゲラゲラ笑いながら見ていた。
「ようこそ『ティータラース』へ! 『鉄鬼』の子と弟子とその仲間ッ! 国の危機を救ってくれたことに感謝をッ! 我々は君たちの来訪をッ! 心から歓迎するッ!!」
言葉の節々でポージングを変えながら暑苦しく言う、より筋肉が盛り上がっている屈強さん。腰に提げてる剣が凄く小さく見えるぞ。この人たち、普通に殴ったほうが強いんじゃないの?
「俺は戦士長のグスタフと言う。レックスとレジンの二人とよく行動を共にしていた。先日アイツから手紙が届いてな、君の来訪を心待ちにしていたのだ」
「…………はっ。ええと、お初にお目にかかります、エルナーと申します」
いきなり落ち着いた態度になったからちょっと思考が追い付かなかった。
慌てて自己紹介をすると、釣られるように皆が続いた。
「ご丁寧にありがとう。それでさっそくで申し訳ないが、我々と模擬戦しよう!」
「ごめんなさい意味が分かりません」
「はっはっは!」
いや笑ってないで説明してほしいんですが。グスタフさんの後ろに控える屈強さんたちも笑ってないで。
僕たちとの温度差がひどいんだよね、せめて目的だけでも分かれば、僕たちだって受け入れることが出来るんだけど。
ただでさえ疲れてるのに無意味な模擬戦は怪我の元でしかない。そのことを説明すると、何故か驚いたような表情を浮かべて見つめてくる。
「言ってなかったか?」
「聞いてませんね。ああ、もしかしてそのポージングですか? ごめんなさい、僕たち筋肉言語わからないです」
「マジか!」
マジです。
「ようするにだ。君たちは地下大迷宮に挑むのだろう? あそこはどれほどの広さで、どれほどの深さがあるのか全く分かっていない。極限状態での戦闘もありえることだろう。今みたいに疲れた状態で、どれだけ戦えるのかを知っておくのもいいのではないかと思ってな。我々を試金石代わりにしてみてはどうか、という訳だ」
……なるほど。それは確かにあり得ない話ではない。みんなも頷いてるし、納得しかない。
ただ、初めからちゃんと言葉にしてほしい所ではある。思慮深いのに行動のせいで脳筋に見えてしまうのは、なんていうか勿体ないよねえ……。
それはともかくとして、模擬戦をしてみてもいいかもしれない。長らく戦士として戦い続けてきた彼らの動きから、地下大迷宮での動きを学べるかもしれないしね。
「模擬戦の申し出、受けさせていただきます。よろしくお願いします!」
さすがにここでは出来ないという事で、訓練場に移動することになった、
案内についていくと何故か門の横に設置されている扉に入り、長い階段を上っていく。体力的には問題は無いけど、普段使わない動きだから足に少し違和感を感じるね。
階段の先にある扉を開けると、開けた場所に出た。振り返ってみれば、ここは来るときに両側にあった崖の上のようだ。
「普段ここで訓練をしている。一応、あそこに見える鉄柵までは魔王の加護によって、秘境の魔力が抑えられているから安心してくれ」
かつての『誓約』に関連する事なのだろうかね。その辺りの事も知っておきたいところだ。
ただ今は置いておく。ピリピリとした何かが肌を刺激していてね。その発生源は十三人の屈強さん、もとい戦士たち。言葉にするなら、それは闘気になるのかな。
僕もみんなも、自然と戦闘態勢を整えていてね。何かのきっかけがあれば、すぐにでも始まることだろう。
この緊張感はたまらない。対峙して改めて分かるよ、彼らは強い。
ポージングをキメていない彼らの手には一振りの剣。殴ったほうが強いなんて考えていた僕がバカだった。
一切の違和感なく、一部の隙も無い。どこまでも自然で、どこまでも雄大。
山と対峙しているような錯覚だよ。本気なんだと理解する。
僅かに体を沈み込ませて、力を蓄えておくよ。いつでも動けるように準備しておくのさ。
契機となったのは、ひときわ強く吹いた風だった。
攻撃側は僕たち、身体強化を使って一気に距離を詰めていく。
「「『風錬』ッ!」」
アリーチェとメローネによる黒と赤の風が奔る。左右に大きく回り込んで側面から叩くんだ。
戦士たちは油断なく僕たちを注視しているね。二人に対応する戦士だけが動いていたけど、それでも僅かに視線は動いてしまうのさ。
その一瞬は致命的でね。ルルゥさんとシューゲルの放った鏃の無い矢が戦士二人の足首を射る!
「「ぐぅっ!?」」
タイミングは完璧だ。接敵する瞬間に二人にダメージを与えられたからね。そのまま全体の動揺を誘えていたならなおよかったけれど。
そうはいかないよね。守る為に戦い続けてきた熟練の戦士たちは、些細な事だとして敵を見ているのだから。
「シィッッ!!」
「――ッ!」
ガギャアアアアアアアアアアアアッッ!!
速く重い剣をどうにか防いだけれど、手がしびれている。これは打ち合うだけ僕が不利になっていくな。
周りでもそれぞれ戦闘が始まっている。こちらは前衛が少ないけれど、それはさほど問題ではないよ。
鉄壁の盾が二人も居るからね。カッシュさんの二つ名である『移動要塞』はだてじゃない。
その二つ名の由来は、機動力を兼ね備えた守備力の高さにあった。加えてシールドバッシュの威力もあるために、多くの盾士が参考にしていたけど、盾がぶれるわ腰が入らないわで散々な結果に。
多くの攻撃を止め、多くの敵を沈めるその姿から、『難攻不落』と『移動要塞』の二つ候補が上がったそうで。クゥナリアさんが後者の方がいいと言ったからそうなったんだとか。
戦士たちの表情が驚愕に染まったよ。三方向から攻撃を仕掛けていたのに、往なされ、弾かれ、気づけば正面にまとめられていた。虎の獣人が故にその牙を剥けば、本能が危険を察知するものでね。戦士たちは思わず後ずさってしまっていたよ。
ドガアアアアアアアアアアッッ!
真正面から崩す、攻撃の性能を持つその要塞は。危なげなくベテランとしての矜持を示して見せた。
その背中を妹を持つ優しい盾士が見ているのさ。師の尊敬と憧憬をその笑みに乗せて、魔力を練り上げているね。爆発するシールドバッシュ。そいつを師に斬り掛かろうとしている戦士に向かって放つのさッ!
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