『鉄鬼』秘話と悼みの剣
「初めは商隊の護衛程度としか思っちゃいなかったな。俺たち洞人族ってのは、実は喧嘩っ早い性格をしててな。あいつらとも何度か殴り合いをしたもんだ」
何してんですか父さん。
「喧嘩して酒を飲んで、あの頃は楽しかったもんだ。人族にしては性格的には俺たちによく似ていたからな。酔った勢いで売りもんだった剣で斬り合って、ボロボロにして怒られたっけな! ガハハハハッ!」
何してんですか父さんッ!!
「色街に繰り出してたのがバレて、『魔女』にこっぴどく怒られたりもしてたぞ」
「あの、身内の恥を聞きたい訳ではないんです……」
冗談だといって呵々と笑うのはいいんだけど、聞かされた僕としてはたまったものではない。
ただまあ、そういう事を経験して今みたいに、母さんの扱いが上手くなったんだと思うとなんだかやるせなくもある。
「お前たちが門の外で戦った土くれどもだが、地下大迷宮で定期的に間引きしてるのは聞いているか? 一定数を倒すと鉄ゴーレムが発生すると知ってから、その数を調整するのが習わしでな。慣例に従ってたわけだが、あの日土くれどもが異常発生しやがってな。溢れ出てきたあいつらを駆除したら、でかい鉄ゴーレムがでてきやがったんだ」
地下大迷宮内にも大量の土くれゴーレムが湧き出しており、母さんはそちらの対応に動いていたという。
初めは一メートル程度の鉄ゴーレムしか出てこなかったけど、いきなり三メートル級が出現した。洞人族の戦士たちは全力で挑んだけど、弾き飛ばされ怪我を負ってしまったらしい。
「そこで『鉄鬼』だ。あいつすげー怒った顔で突っ込んで行ってな。何本も剣を折りながら攻撃を続けてたんだよ。効いてる様子も無かったのに、急にあいつの剣が折れなくなって、鉄ゴーレムの動きがおかしくなってな。最後に折れた剣先をぶん投げたんだよ。向上! って叫びながらな」
あ、それを聞いてたのか。あのへんな掛け声はそれか。
投げた剣先は鉄ゴーレムの胸に深々と刺さったらしく、それが核に届いて活動が停止したようだ。
怪我をした洞人族の戦士たちというのが、先ほどの屈強さんたちらしく、父さんの戦闘を見ていたく感動したのだとか。だからって向上って掛け声はどうかと思う。
「ただまあ、『鉄鬼』もその戦闘で疲れててな。土くれだけなら俺たちでも充分に対応できるからひとまず放置してたんだ。怪我人と一緒に門に入れてな、土くれどもを潰しながら門を閉めて経過を見てたら、あいつら一か所に集まって、でかい鉄ゴーレムに変質しやがったんだ」
「倒しても放置してもっていうのは、そういう事だったんだ……」
まさしく災害だね。倒しすぎても放置しても厄介なやつが発生するのは、秘境のコンセプト故だろうか。
「それを見た『鉄鬼』がキレてなあ……。笑いながら門の見張り穴から飛び降りて、向上向上いいながら斬りまくってたんだ。その様子が鬼人族に伝わる悪鬼の話に似ていてな……。鉄ゴーレムをバラバラに斬り裂いた畏怖を込めて、俺たちは『鉄鬼』って呼んだんだ」
……父さんはあれを二体も? とてつもないな。それも二体目はバラバラにしたとか本当に人間だろうか。
笑いながらアレに斬り掛かって解体していく悪鬼……。うん、どう見てもヤバイ人だ。
「レックスさん……すごい……っ! 私も負けてられないな……!」
「あはは、程々にね? それでグラントへい……さん。当時の父さんたちは相当やんちゃだったと聞いているんですが、この時に丸くなったって教えられたんです。そのことは何かわかりますか?」
グラントさんの表情が僅かに曇った。痛みをこらえるようなその表情からは、強い後悔を感じ取れる。
「『鉄鬼』が倒した鉄ゴーレムで剣を打ちたいって職人が殺到してな。量があるのに独占したがるから、喧嘩が起きたんだ。それを仲裁しようとしてたんだが、止められなくてなあ……。怪我をした戦士の一人がそれに巻き込まれて、命を落とした。そいつは『鉄鬼』と特に仲が良くてな、最初に喧嘩して、酒飲み仲間になって、色街に一緒に繰り出した親友だって言ってくれてたな」
「え……」
懐かしむような口調と、その人を良く知るからこその言葉。親しいヒトだったことが窺い知れる、グラントさんの表情は悲しみに揺れていた。
「グラントさん……失礼かと思いますが、その人って……?」
「ああ、俺の息子だよ。俺もその喧嘩に参加しててな……俺を庇って、死んじまったのさ」
グラントさんはそのことに嘆き、父さんは怒りで吼えたのだという。
『この鉄塊がなんなんだ! てめえらの身勝手でダチを殺しやがって!』
『そもそもこの鉄塊はてめえらのじゃねえ! 俺が倒した、俺の獲物だろうが!』
『償えッ! てめえらが殺したダチに捧げる剣を、こいつで打ちやがれッ!』
その時の父さんの殺気は、洞人族の荒くれた性質をもってして恐怖のそれだったという。それ程の怒りを浴びせられ、喧嘩していた職人たちは頷く事しかできなかったという。
「そういやあ、あの時の『鉄鬼』を静かに宥めたのは、やたら顔の怖え兄ちゃんだったな。ハルトって言ったか、あいつなにしてんだ?」
「ハルトは『ファウラ』の冒険者ギルドのギルドマスターだぜ。あんたの次に出世してるな」
「はんっ、王が出世なものかよ。こいつはただの枷でしかねえ、俺は息子に、レジンに捧げる剣を打ち続けていたかったんだがな」
その想いから打たれた剣は、捧げるに相応しい名剣となっていった。皮肉なことにそれがグラントさんを一番の鍛冶師として名を上げてしまった。その結果、鍛冶が遠のいてしまう結果となっている。
それはどれほどの苦痛だろう。後悔を雪げないまま日々を過ごす痛みはいかほどだろう。
「話が逸れたな。そうして打たれた剣で、『鉄鬼』が納得したのはニ十本。そのうちの七本を『鉄鬼』が持ち、残りは当時の戦士たちが持っている。レジンのために打たれた剣で、仲間を守る為に振るわれるんだ」
別の心痛が僕を襲う。そんな大切な剣を、僕は台無しにしている。
アリーチェも提げている剣に手を添えて、大切そうに握りしめている。
「そう言えば、アリーチェのその剣は見覚えがあるな。『鉄鬼』が餞別に譲ったか。となると、エルナーにも与えていたのではないか?」
僕のグラディウスを見て、グラントさんは言う。僕も正直に、罪を伝えるべきだろう。
転送して手元に呼び寄せる。綺麗なままの鞘に納められたそれを見て、グラントさんは懐かしそうに笑う。その顔を見てしまうと、胸が張り裂けそうになってしまうよ。
「申し訳、ございません。僕の腕が至らないせいで、このようなことになってしまいました」
刃毀れでガタガタになった剣を見て、目を見開いている。それはそうだ。レジンさんへの悼みによって打たれた剣を、こうまでされてしまっては怒られてしまっても仕方ない。
甘んじて受け入れる覚悟をしていると、何故か笑い声が聞こえてくる。
「そうか、そうか! お前は随分と活躍したのだな! だがまだ足りないようだな。いいだろう、エルナーよ、その剣を俺に預けろ。より強く、生まれ変わらせてやる!」
「え、えっ!?」
「ついでだ、そのグラディウスを見せてみろ」
疑問のまま差し出すと、真剣な目で見ていたグラントさんが笑みを浮かべる。
「ふ、満足か。良い使い手に恵まれたようだ」
「あの、グラントさん? さっきから誰と?」
ニヤリと笑いながら僕を見る。みんなも不思議そうに見ているから、僕だけが分からない訳ではなさそうだ。
「俺たち『ティータラース』の洞人族はな。“声”が聞こえるんだ。魔力が持つ“声”をな」
そんなことが在り得るのか。いや、シャルナス様も感情が放つ魔力の色を見ていたか。
それならば、グラントさんに是非とも聞いておきたい。
「グラントさん、その剣は……僕を恨んでいますか?」
「ククッ! ああ、恨んでるぞ。使えずとも連れて行けと嘆いている。良いかエルナー。剣にとっての不幸とは、刃毀れする事ではない。折れる事でもない。必要とされなくなった時が、一番不幸なのだ。こいつには、エルナーの魔力がよく馴染んでいる。ついでだ、こいつに魔力を注いでやってくれ」
僕としても愛着があった、父さんから譲られた剣。『悪食の森』での負い目から大切に保管していたけれど、君はそれが悲しかったのか。
ごめんね、気づけなくて。生まれ変わったら、また一緒に冒険に行こう。あ、でもグラディウスと喧嘩はしないでね?
目を閉じて魔力を高める。毀れた刃に指を添え少し動かしただけで斬れてしまったが構わない。
血に宿る魔力と合わせて想いを込めていく。黄金に変わった魔力がゆっくりと浸透していくのが分かるよ。
意思があるならば経験を与えてあげよう。僕の切り札の一つを経験して、最高の君になって戻ってきておくれ。
「『浄魔の焔刃』」
祈るように捧げ持った剣が、黄金の焔を纏って歓喜に揺れているようだった。
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