使徒を起こしに
本日2話目です。
「つまり、本当は簡単に説明できるところを敢えて難しい言い回しをすることで凄いアピールをしていたんですね……」
「そうなるわね」
レスター兄様も頷いてる。
「けれど、何もすべてが違うというわけでもないのですよ。例えば作った『場』が濃い状態のままですとその周囲の自然は取り込める魔力の量が減ってしまい、続けば枯れてしまいますから」
「あ、自然環境における魔力的エントロピーの一番重要なところですね」
呼吸に必要な酸素のほかに、実は魔力も重要なのだそう。そのため変質を起こしにくい濃い状態のままだと空気が薄い状態と変わりがないんだって。
「もしかして、これも教わったことより簡単に解消できたりするんですか?」
「エルナー、私たちが教えることで冒険心に水を差すことにはなりませんか?」
「教わっているのは今更ですよレスター兄様。それに、これは重要な事です。冒険に必要な知識はどんどん欲しいですしなにより、僕は自然を壊したいわけではありません」
「「いい子……」」
二人に存分に撫でられる。
「まぁ簡単な事なのよ。場を作ったのなら解けばいいの」
「解く?」
「えぇ、作った『場』の内側から外側に押しやるイメージね」
おぉ……なんてシンプルなんだろう。面積が広くなる分薄くなるのは至極真っ当だね。
「どうしてそんな簡単な事が分からなかったんだろう……」
「一度覚えた知識は時に枷になるんですよ。どうしてもその知識に寄ってしまうから簡単なことが遠くなるんです。応用を学んだが故に基本を疎かにするといった事と同じですね」
基本があるからこその応用なんですよ、というレスター兄様。ぐぅの音も出ないです……。
基本は大事。当たり前のことだけどその当たり前が見えていない。当たり前だからこそ見落とす。
だから人は失敗して、学んで成長できるんですよ、と優しく教えてくれたよ。
「もっとも、あの子は場を作ることを意識するあまりに解消法を疎かにして力尽きちゃったんだけどね」
えぇー……。
おはようございます。二人に教わったことを母さんには黙っておこうと思う。
なにも嫌がらせではない。この内容をどこから知ったのかが問題なのだし……。
ただ、僕がもう少し成長して魔法に関して磨きがかかったら教えてあげようと思う。
ある日のことだ。昼食後の食休み中地図を眺めていると気になるマーカーが現れた。
触れてみると現れたのはなんと『くーちゃん』の文字である!
この時僕は八歳を迎えている。体つきもしっかりしてきたはずである。
マーカーの位置はまだ真っ白だけど、位置的には近くの山だろう。
となれば、今日の予定は決まった。冒険の日だ!
川辺でアリーチェを待ちながら、なんでくーちゃんのマーカーが現れたのかを考えてみる。
有力な候補はエリカお姉様がなにかやらかしたという線かな。
『やらかしたってどういう意味よ!?』
え、なんでエリカお姉様の声が……というか覗きですか?
『人聞きの悪いこと言わないで! 偶々よ! 偶々!』
そんなことよりエリカお姉様、なにやらかしたんですか? くーちゃんの魂になにかやらかしたのであればいくらお姉様といえど許しませんよ?
『だからやらかしてないっての! はぁ、サプライズのつもりだったけどいいわ。あの子と私の利害が一致したのよ。あの子を使徒として、エルナーを護ってもらおうってね?』
つまり、くーちゃんはあのくーちゃんの魂のままってこと?
『えぇ、そうよ。使徒として送ったからソウドリではないけれどね?』
些細な事ですお姉様! ちなみにくーちゃんはどのような感じで?
『あの子は、聖鳥として顕現するわ。名前はクーデリカ。エルナーか、あの女の子の呼びかけで目覚めるわ』
「アリーチェ! 今日はあの山に行こう!」
「えっ、どうしたのエルナー?」
「今日、行かないといけない気がするんだ」
我ながら無茶苦茶だと思う。けど、けどね? 落ち着いてなんかいられないんだ。もう会えないと思っていた友達とまた会えるとして冷静でいられる訳がない。
「よく分からないけど、エルナーがそういうなら山に行こ?」
「ありがとう、それじゃあ行こうか!」
「あはは、なんだか張り切ってるね」
木刀を携えて山へと向かう。横並びに歩いてはいるんだけど僕の歩幅がいくらか狭いせいか競歩みたいになっている。
8歳になったアリーチェはなんと、僕より背が大きい。女の子の成長期って早いんだっけ?
まぁすぐに追い抜くよね、そうだよね? そうだといいな……。
そんな不安はさておいて、いよいよ山に差し掛かると父さんたちが狩りをしに山へ入るところに出くわした。
「二人とも、なんでここに?」
「ちょっと山に入ろうかと」
「駄目だ」
「えっと……」
「駄目だ」
「エルナー……」
困った。どうしようか……。
「父さん、山の東側の中腹辺りに何かある?」
「うん? なんでそんなことを聞くんだ?」
「えっと、不思議な夢を見たんだ。そこに行きなさいって金髪の綺麗な女の人に言われて、って痛ひゃひゃひゃ!?」
えっと、アリーチェはどうして僕の頬を抓ってるの?
そんな僕たちのやり取りをよそに、狩猟隊の面々が騒めき立っていた。
「あのあたり、確か古い祠があったって話だよな?魔物が増えてから放棄したっていう」
「あぁ、そんなこと爺さんが言ってたな」
「そうなのか? 行くなとは言われてたがそんな話は聞いてないな」
「そりゃあ、レックスはここじゃ新参だからなぁ!」
あっはっはと豪快に笑う面々。これはチャンスかな?
「ただの夢じゃなさそうだったんだ、お願い。僕たちだけで駄目なら一緒に連れてって欲しい……」
レスター兄様に喜ばれる上目遣いも追加してみる。
隣のアリーチェがにっこにこしているのが気になるところだけど今はそれどころじゃない。
ここはもう一押し、投下してみようか。
「使徒を起こしてって、頼まれたんだ、お願い!」
「使徒? おいエルナー。今使徒って言ったか?」
「え、うん。言ったけど……どうしたの父さん、怒ってる?」
「いや、怒ってないが……そうか、使徒か……夢の女性は、使徒について何か言っていたか?」
「えっと、聖鳥って言ってたよ。くーちゃんと繋がりがあるから僕にお願いしたんだって……あっ」
「くーちゃん!? エルナー、どういうこと?」
父さんの様子に動揺して余計なことまで言っちゃった。アリーチェなら当然食いつくよね。
「くーちゃんの魂が使徒になったそうだよ。だから絆がある僕とアリーチェじゃないと使徒を起こせないんだって」
「エルナー! 行こう!」
「えっと、アリーチェは信じてくれるの?」
「エルナーは私に嘘つかないもん!」
わぁ。凄い信頼。ちょっと泣きそう。
気づいたら抱き着いていた。アリーチェはわたわたしている。ぼくはこんらんした!
「わぁ、ごめんアリーチェ! 信頼が嬉しくてつい……」
「う、うん。いいよ、その……えっと」
ちょっとおじさんたちなにニヤニヤしてんのさ!
「よし、皆聞いてくれ。今日の狩りは中止してエルナー達の護衛をしようと思う。聞くほど冗談とは思えなくなった。構わないか?」
「いいぜー、微笑ましいもん見せて貰ったしな!」
「だな!」
うわぁぁ恥ずかしいぃぃぃ! アリーチェもごめん! 巻き込んだ!
そうだよね、恥ずかしいよね! 分かるよ、顔真っ赤だもん! ごめんね!
だからね、アリーチェ。僕の服を摘まみながら恥ずかしがるのやめよう? それ事態が悪化するだけの奴だから!
見なよ、おじさん達にっこにこしてる。あ、なんか腹立ってきた。
「え、えっと、よろしくお願いします。あと、次笑ったりしたら母さんに言いつけます……」
「「「「「やめろっ!?」」」」」
おじさん達の表情が一斉に引き攣った。その様子を見てアリーチェと顔を見合わせて思わず笑ったよ。
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