洞人族のイメージ
崖と同じ高さで設置されていた鉄の壁には、門のほかに五メートルほど高い場所に穴が開いていた。
その穴から赤褐色の肌をしたヒトが、身を乗り出しながらこちらを睨んでいたよ。なにごとか叫びながら引っ込んで行ってしまった。
何かしらのリアクションがあると信じて、改めて『ティータラース』の門周辺を見回していると、右側に道が続いているのが分かった。向かう時には気づかず、出ていくときに見えるようになっているその道に興味を持っていると、僕の視線に気づいたゴルトーさんが口を開いた。
「そっちは地下大迷宮に繋がってる。さっきの土くれどもはそこから湧いて出てきたんだろう」
「大迷宮ですか。入り口は外にあったんですね」
「当たり前だろう? 今の戦闘を街中でやる訳にはいかんだろう」
ごもっとも。
土くれゴーレムが湧き出てくるのはそれなりにあるらしく、強さはさほどでもないから脅威度は低く、定期的に倒しているそうだ。地下大迷宮でも間引きというか、調整をしているらしい。
「でもゴルトーさん? さっき『ティータラース』がやばいって叫んでたじゃないですか。土くれゴーレムがそれほど脅威ではないのに、国が落ちるような危機があったんですか?」
「なんとなくわかってると思うが、土くれどもを倒していると、鉄のゴーレムが発生する。で、その鉄のゴーレムを倒して鉄塊を得たりもするんだ。小さいやつなら、洞人たちが使う鉄槌で対処できるからな。問題は土くれどもが集まりすぎた場合だ。倒しても倒さなくても、あのでかさの鉄のゴーレムが発生しちまう」
以前はそれで門が破壊されかけたのだとか。確かにそれなら危険かもしれない。
キュラキュラと音を立てながら、門が上がっていく。それなりの高さで止まり、その向こう側には屈強な肉体を持った洞人族の男性たちが、大きいバールのような物を持って佇んでいた。
「「「「うおおおおおおおおおおおッ!!」」」」
一斉に雄たけびを上げ、駆け寄ってくる! 殺気を帯びた目で睨みながら、脇目も振らず一直線に走る彼らは、勢いそのままに僕たちを素通りしていくッ!
呆気に取られて後ろ姿を見ていれば、どうやら僕とアリーチェが倒した鉄ゴーレムが目当てだったらしい。取り囲んでバールのようなものを引っ掛け、また叫びながら持ち上げる。
「「「「向上ッ! 向上ッ! 向上ッ! 向上ッ!」」」」
…………は?
「ぶっ、クククッ! ああ、ここには『鉄鬼』のファンが多いからな。あいつらにとっての、力の出る掛け声になってるんだろうよ」
僕が洞人族に持っていたイメージは、無口で頑固な職人気質のお酒好き。
向上という掛け声を上げながら横を通り過ぎていく彼らに、その要素を見つけることはできなかった。
その筋肉たちの一人が、僕の視線に気づいて、空いた手でサムズアップをしながら歯を見せるように笑っている。赤褐色の肌に白い歯がとても映えるね、ってそうじゃない。
「……戦利品」
ぼそりと呟いた、その言葉。屈強な体格の洞人たちは、全員が肩を跳ね上げて立ち止まった。
ゆっくりと僕の方に振り向いて、睨むような表情から一転し、満面の笑みを浮かべる。
「「「「向上ッ!」」」」
「意味が分からないッ!」
僕の渾身の叫びは、両側にそびえる崖に反射して消えていった。
門を潜り、ゴルトーさんの案内についていく。すれ違うヒトや店から顔をのぞかせた店主などから、サムズアップを頂戴している。
この国ではこれが挨拶なのだろうか。僕も返した方がいいのかな?
試しに一度返してみたら、何故か筋肉を強調するポージングをされた。なんとなく違うポーズをしてみたら、ニヤリと笑ってまたポーズを返される。
「……なにやってんだお前ら」
「……楽しくなって、つい」
アルトに呆れ顔で言われてしまった。
巨大鉄ゴーレムを運んでいる屈強さんたちがいい笑顔を向けてきている。
そう、彼らと同じルートを進んでいてね。このまま進むと辿り着くのは、目立つ高い建物になるんだろう。
ゴルトーさんが言うには、そこに知り合いがいるとのことだけど。
洞人族の背恰好は人族とそう変わりは無いけど、肌の色や筋肉質なところは洞人族の特徴なんだと思う。
とはいえ、隣の屈強さんたちよりは控えめではあるけど。これでもかってくらいに盛り上がってる筋肉を見ていると、少し欲しくなってくる。
『ダメよ』
エリカお姉様に止められてしまったので諦めよう。
屈強さん達から目を逸らし、とうとう辿り着いた建物の前に、黒々とした髭を携えた洞人族の男性が立っていた。
屈強さんたちは軽く頭を下げて、ドアが開け放たれている大きい建物に運び込んでいった。
「ゴルトー、よく来た。アレを倒すとは、『鉄鬼』殿の再来かと皆が沸き立っているぞ」
「おう、久しぶり。残念だがレックスは来ていないぞ? 代わりに、話を聞きたいって言うあいつらの倅が来てるぜ」
視線を寄こされたから、お辞儀をしてから目を合わせて口を開く。
「初めまして。父レックスと母レナの子、エルナーと申します」
「あの二人の子とは思えんくらい丁寧だな。俺はグラント、嫌々王をやっている」
やっぱり王様嫌なんだね。生粋の鍛冶師なんだろう、おそらく右利き。
筋肉の付き方が左右で違うんだ。槌を振るうほうの腕の方が太いんだと思う。
「話は中でしよう。ここはじきに騒がしくなりそうだ」
そう言って屈強さんたちが入っていったところを見やると、野太い歓声が上がった。腹をすかせた獣の目の前に極上の獲物が目の前にあるような、そんな獰猛な感情のこもった歓声にグラント陛下が羨ましそうな表情を見せる。
なんどか首を振って、僕たちを通した先の部屋はとても広く、死んだような表情の洞人族が四名、書類と相対していた。
「……お前ら、休憩してこい。噂のが運び込まれたぞ」
「よっしゃー!」
「さすがグラント、話が分かるッ!」
「おい、酒も持っていこうぜ!」
「お前の分も楽しんでくるからなッ!」
勢いよく部屋を出ていく四人。死にそうな顔から一変、活き活きとしていたね。
深いため息をついたグラント陛下に、全員が自己紹介を済ませると興味深げな視線を僕に寄こしてくる。
「エルナーと言ったか。あの鉄ゴーレムはどのように倒した? あれほど巨大になると、生半可な攻撃は通用しないだろう」
「父の魔技を模倣しました。『硬化』で関節を硬くし、『向上』で力の大きさを増幅させました。ただ、魔技でそれを行うには無理があるので、『魔剣』の技巧を使っています」
グラント陛下だけじゃなく、みんなが驚いた表情を見せていたね。
「なるほど、『魔剣』か……。それで、それはどういった魔技なのだ?」
「えっと、魔技を外へ放つ技巧を『魔剣』と呼ぶそうです」
「ふむ、技巧はどのような物でもその身を助ける。鍛冶であれ武力であれ、研鑽した者の辿り着く極地は理想の具現か」
そう言って深い思考にはいるグラント陛下。だけど、これは何というか違和感しかない。
出会って短い時間でも、分かることはあるんだよ。僕とグラント陛下は同類だ。好きな事に邁進したいタイプだろう。
「その、グラント陛下。ここは僕たちしかいないので、今は王の衣を脱ぎ去ってください」
「……分かるか?」
頷くよ。『魔剣』と聞いて右腕がピクリと動いた。僕が魔法に対して、アリーチェが剣に対してする反応と同じ、好きな事に対しての興味の表れさ。きっとグラント陛下は、魔剣という武器と勘違いしたけど、話の前後から魔技だと判断した。
王としての経験値がその判断を下せたんだ。けれど慣れない王としての振る舞いが、先ほどの発言へと至ってしまったわけだ。
「王様って、難しい事言いたがる印象がありますから……」
「そうなんだよなァ……、ああ、そうだ。俺に対して陛下はつけんでいいぞ」
努力します、とだけ答えておいた。拗ねた表情を浮かべるグラントさんに、父さんが昔やったことを尋ねてみたよ。
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