『鉄鬼』の魔技
とはいえ、だ。関節を狙うにも曲げて開ききっていないとそれは露出しない。それでは攻撃が通らないからね。
あえて速度を落として攻寄るよ。高速で移動するアリーチェよりも、狙いやすい僕に対して左足で蹴りを放ってくる。
加速して回避する。鉄ゴーレムの脚は勢いよく浮き上がって、その付け根には球体関節が見えている。
目にした瞬間に、アリーチェが踏み込むために地面を強く蹴るタイミングで、『雷迅』を使っていたね。空気が爆ぜる音と共に跳んだアリーチェは、関節部分に斬り掛かるッ!
ガギャアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!
鋼がぶつかり合う音が反響している。球体関節も当然鉄だ、ならば弱点にはなり得ない? いいや、そんな事は無いのさ。『炎舞』で熱を放ち、摩擦でさらに温度が上がる。魔力でコーティングされていない鉄ならば、傷ぐらいはついてしまうものだよ。
その傷が弱点足りうる理由になる。再び空気を爆ぜさせながらアリーチェが退避し、その直後に鉄ゴーレムの足が元の位置も戻ろうとする。
アリーチェが付けた傷の外側は僅かに捲れあがっていてね。その部分が抵抗となってガリガリと音を立てながら直立の態勢に戻っていたよ。
動きを制限していくのさ。球体の滑らかさを奪ってやればいい。
関節をがたがたにされて、その巨体を正常に動かすのは無理があるだろう。遅くなる一方の巨大な鉄ゴーレムなど、警戒すべきはもはや大きさと重さだけでしかないのさ。
「それでも持久戦ではあるけどねえッ! 足を壊して、核を狙うよ!」
「わかった! 核はどこ!?」
「胸!」
横に倒さないと狙いづらい事この上ないからね。片足でも壊せれば、このデカブツは体勢を保てないと判断した。
思考があれば僕たちの狙いは妨害されるんだろうけど、幸いなことにこの鉄ゴーレムは単純な思考ルーチンをしているらしい。敵を見れば殴る蹴るの単純思考さ。前世のAIはずっと複雑で柔軟なのにねぇ!
先ほどと同じく左足でうろちょろしつつ『炎舞』を纏った剣で斬りつける。
それにしても父さんはどうやってこの鉄ゴーレムを倒したんだろう。熱を使ってどうにか押し込める感じなのに、『向上』と『硬化』だけで攻めきれるものだろうか。
そういえば、その二つの魔技の詳しい効果を聞いたことが無かった。
『硬化』は文字通り硬くするんだろう。では『向上』はどうだ、僕は勝手に身体強化と同じように考えていたけど、実際の所は違うのかもしれないね。
子どもの頃の剣の稽古で、アリーチェと挟み撃ちしたら同時に打ち払われたことがあったっけ。あれはきっと『向上』なんだろうけど、当時は驚いて固まっ――
鉄ゴーレムの蹴りを避け、アリーチェが斬りつける。それを何度か繰り返しながらも思考を巡らせる。
父さんの魔技の効果がそんな単純な物で、あそこまで化け物じみた強さになるだろうか。身体強化を使えるけれど、僕たちの誰もが父さん程の剣の使い手になり得ない。
魔法は想いだ。ならば魔技はどうだろう? 同じだ。同じ想いだ。
放出するか内包するかの違いでしかない。それはくーちゃんが言っていた事じゃないか、失敗したら爆散するリスクがあるだけで。
「……? エルナー?」
「……ははっ」
ああ、そうか。そういうことだったんだ。
つまり父さんは、自分のセンスで魔技を昇華させたんだね。知識としてなくても、父さんは既に『魔剣』の使い手でもあったわけだ。
鉄ゴーレムが蹴り上げたタイミング。ぎりぎりになるようにステップを踏んでそいつを避ける。
「『硬化』」
斬りつけながら魔技を解き放つのさ。力の動きが上方に向いている左足の関節を硬くする。
「『向上』」
ギギギギギギギッ! ガギャアアアアアアアアアアアッッ!!
蹴り上げた際の力を増やしてやれば。結果は御覧の通り限界値を軽く超えてしまうのさッ!
「ははッ! アハハハハハッ!!」
「え、エルナー! 今の何!? なにしたのッ!?」
「『鉄鬼』の強さの秘密を暴いたんだッ!」
牙を剥いて笑う。憧れの強さを垣間見た。その一端を扱えた! その興奮が止められなくてね。
それでも優先順位は忘れてはいないのさ。まずはこの三メートル級の鉄ゴーレムの活動を止めるために、バランスを失って倒れたコイツの胴体に肉迫する。
僕の黄金の羽ピンを意識しながら『向上』を使う。『浄魔の焔刃』の時と同じように、アリーチェの剣にも魔技が乗るのさ。
「アリーチェ。全力で鉄ゴーレムの胸部を叩き斬るよ」
「斬るんだね?」
頷くことで応える。獰猛な笑みが移ったのかね、それでもアリーチェの魅力は欠片も落ちてはいないのさ。
高く跳び、落下の勢いを利用して斬撃を叩きこもうとしている僕たちを、鉄ゴーレムの腕が払おうと動き出したがね。それをさせてやるほど甘くはないつもりだよッ!
「動くな、『硬化』ッ!」
手刀で『魔剣』を放ち鉄ゴーレムの肩の部分にぶつけてやった。軋む甲高い音を聞きながら、二つの斬撃が降り注ぐぞッ!
ギギイイイイイイイイイイィィィィィィィッッッ!!
凄まじい抵抗があるけど、斬撃の威力が増している為か刃が通っている。その力の向きにさらに『向上』をかけて、腕力も使って剣を押す。
「「はああああああああああッッ!!」」
アリーチェは背中側、僕は正面を斬っている。だが悔しいことに、僕たちの筋力では断ち切れない。力も体重も足りなすぎるのだ。
「燃、や、せえええええええええッ!」
「うう、ああああああああああああッ!」
「「『炎舞』ッ!!」」
全力での『炎舞』だ。以前なら剣をも溶かしてしまう熱量も、『無垢の寄せ櫃』を経験した僕たちなら完璧に守れるさ。それでも足りないのならば、鉄ゴーレムに対する攻撃の全てを『向上』させるッ!
裂帛の叫びをあげて炎の威力を増していく。気のせいかもしれないけれど、剣と熱で斬る音が鉄ゴーレムの悲鳴となっているようだった。
気づけばひどい酸欠状態だった。震える手をどうにか抑え、肺腑に酸素を供給していく。
荒い呼吸が鉄ゴーレムの向こう側から聞こえて、顔を上げてみれば。
両断された鉄ゴーレムの胸部の間から、アリーチェの顔がのぞいていたよ。視線が合った。込み上げてくる感情のままに、苦しさも忘れて笑い合ったよ。
そうしている間に皆が近づいてきて、僕はアルトに、アリーチェはメローネに肩を借りて立ち上がる。
「さすが、レックスの子と弟子だな。鉄の塊を真っ二つかよ」
「あはは……相当に消耗しましたけどね……」
「疲れたぁー」
結構な無理をしたけど、やってよかったとも思える。父さんの戦い方を知れたし、魔技についての見方も変わった。
余裕があるときにそれを共有できれば、僕たちはまだまだ強くなれる。
「ひとまず、街に向かいましょう。この音、鍛冶の音じゃなくてたぶん戦闘音です」
「だろうな。けどまあ、大丈夫だと思うぞ?」
「ゴルトーさん、どういうこと?」
町の方を指さしているから、そっちを見る。知らないうちに結構近づいていたらしく、町とこの道を隔てるように、重厚な門が閉ざされていた。その門を土くれゴーレムが叩いていた音らしい。
クゥナリアさんはそこに誰も居ないことを見て取って、遠慮なしに圧縮した風を放っていく。ラムダも追撃とばかりに地面から押し固めた土の槍を生やして貫いていたよ。
それを見てクゥナリアさんの頬が引きつった。たぶんアルシェーラ様の所で僕がやった攻撃を思い出したんだろう。ごめんなさい。
それなりの土くれゴーレムが殲滅されると、やはりというか魔力がうごめいて鉄ゴーレムが発生していた。大きさは随分小さくなって一メートル弱で、それが二体だ。
カッシュさんとジンが動いて、同時にシールドバッシュを放つと、けたたましい爆発音とともに鉄ゴーレムがバラバラになって吹き飛んでいった。
「…………。え、瞬殺?」
「小さかったですからね。エルナーやアリーチェさんが戦ったようなサイズだと、こうはいかないと思いますよ」
ジンがそんな謙遜をしているけど、苦戦しそうなもんだよね。鉄の塊なんだし……。
まあでも、僕も今なら斬れそうな気はする。父さんの魔技が思ってたよりずっとヤバいやつだったからね。
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