ゴーレム戦
二週間の道程を経て、ようやく洞人族の国『ティータラース』の入り口が見えてくる。
普通は一週間程度で着くらしいけど、遭遇するオークの頻度が高すぎてね。対応していればその分遅れは出てしまった訳だ。
ありがたい事に賊には一度も遭遇していない。言い方は悪いけど、暇になったゴルトーさんも途中からオーク退治に動いてくれていたよ。
驚く事に、この国は山脈の中に出来ており、その入り口も獣人国側にある北口と、鬼人族の国『エストハレン』と巨人族の国『グランオルム』の境目にある西口の二つのみ。今いるのは北口だ。
ここは『アルシェーラの古代森』に挑む前の、休息日に連続転移して見つけた西側の山脈で、それら全てが『ティータラース』の国土なのだという。
違法採掘もときおり発生するけど、それらを行った者は例外なく発狂して亡くなっているらしい。偶然で処理するには多すぎる事例に、『ラーナスタ王国』としても原因究明に乗り出し、魔法学院協力の下判明したのは、採掘した鉱石に宿る魔力量が高く、それが人体に影響を及ぼしていたのではということらしい。
実際に魔力視に切り替えて見てみれば、山全体に魔力が渦巻いているのがよくわかる。言ってしまえば、この山脈そのものが秘境であるという事だ。
こんな場所、といってもいいのか分からないけれど、住んでいる洞人族は大丈夫なんだろうか。
「酒で中和しているらしいぞ」
「お酒にそんな効能無いよ!?」
ラーシャーさんのとんでも情報に驚くも、洞人族とドワーフをイコールで結んでいた僕としては、納得してしまう話でもあった。
開拓当時はやはりというか、亡くなるヒトは多かったらしく、優れた鉱石が採れるここに住みたいという情熱が洞人族を突き動かし、現地で酒を造っては飲み、開拓を進めていったという。気づけば魔力に対して耐性が付き、子に相伝され現在では何の苦も無く生活できているという。ヒト種の中で最強なんじゃないだろうかね。
「ねえねえクゥさん。洞人族が大丈夫なのは分かったけど……、行商に来る人たちはどうなの?」
「それがねー、この山に明確な意思をもって傷つけない限りは、魔力に侵されることは無いらしいよー」
アリーチェの問いは僕も気になっていてね。その回答になんだか親切な設計だなと思ってしまったよ。
害意のみを排除する。そんな意図を感じ取ってしまっていたよ。
山脈を削り、拓かれた道は整備されており、道幅は一般的な馬車二台が余裕ですれ違うことが出来そうなほど広い。まっすぐ道が続いていて、遠くに町が見えたよ。
鉱山都市として開拓されたここは、それぞれのヒト種と足並みを揃えるために国家としての体を取ってはいる。けれど、統治する存在は基本的にはいないらしく、何かあった時に他の国との対応をするため、便宜的な国王を最も優れた鍛冶師が務めている。洞人族たちが誰もやりたがらない要職と聞いて笑ってしまったよ。
都市に近づくにつれ、鋼を叩く音が重なり合って聞こえてくる。鍛冶の音というのを初めて聞いたけれど、なんだかわくわくしてしまうね。気が昂るというか、熱いものが込み上げてくるというか。僕は好きだな、こういうの。
「なあエルナー、早く行こうぜ! なんか楽しくなってきちまった!」
同類の言葉に頷いてしまいそうになったけれど。都市の方から近づいてきたソレを見た瞬間に、胸の内側で昂っていた熱がすっと冷めたよ。
よろめきながらも歩いてくる歪な人型の岩塊がね、いくつもこちらに向かってきていたよ。
直ちに戦闘態勢を取り、備えているとゴルトーさんが叫びだす。
「地下迷宮の土くれどもが溢れ出した……? まずいぞ、『ティータラース』がやばい!」
待ち受けるという選択肢は、すぐに捨てた。少しでも早く都市に辿り着けるよう駆け出してファーストアタックを叩き込む。
「『岩杭』」
地面を掬い取って打ち付ける。岩塊のように見えたけど、ゴルトーさんの言うようにこいつらは土くれのようでね。胴体部分が吹き飛んで後ろにいた土くれを巻き込んで倒せたよ。
地図魔法に表示された<ゴーレム>の文字にちょっと興奮したけどね。今はそれどころじゃあない。
アルトも同じく『岩杭』で攻め立てている。アリーチェとメローネは『風錬』をまとい、ゴーレムの集団に突っ込んで縦横無尽に奔って斬り裂いている。ルルゥさんとシューゲル、クゥナリアさんにラムダといった後衛は前線が混沌としているために、手が出しづらい状況になっているからね。背後や横にそびえる崖上を警戒する目になってくれている。
守りはラーシャーさんとゴルトーさんだ。普段はカッシュさんとジンがその役割だけど、今回は普段よりずっと硬い相手だからね。シールドバッシュの強打でゴーレムを粉砕していたよ。
僅かな硬直時間を補うように、ゾーイがゴーレムの脚を槍で突き崩し、バランスを奪い去る。
みるみる前線が進んでいく。そう、簡単すぎる。みんなが強いというのもあるんだろうけど、ゴルトーさんの叫びが耳に残っていてね。
嫌な予感がして魔力視で視てよかったよ。辺り一面に濃い魔力が漂っているのを確認した。
「みんな気を付けて! 魔力が濃い!」
『無垢の寄せ櫃』での身体強化の使い方は、普段使いの方法ではない。だから注意しなければ魔力にあてられ影響を及ぼすかもしれない。
なによりもだ。これだけの魔力が、秘境という場に集まって起こることと言えば一つしか思いつかなくてね。
ゴーレムが殲滅されたと同時に、魔力が一斉にうごめく。身体強化中の動体視力をもってしてもその動きは早く、発生したのは土くれゴーレムよりしっかりとした造りの、三メートルはありそうな巨大な鉄のゴーレムだった。
『マテリアルサーチ』で視てみれば、鉄の密度がかなり高く、剣で挑めば折れてしまいそうだ。
「チィッ! やっぱりでてきやがったか!」
「ゴルトーさん、知っているんですか!?」
「こいつが『鉄鬼』誕生の由来だよ!!」
アリーチェと同時に、反応していたよ。つまりあれか、父さんはこいつを倒したのか。
「ゴルトーさん。そのとき母さんはどうしてました?」
「ああッ!? それどころじゃないだろうがッ!」
「教えてください。僕とアリーチェにとって大事な事です」
鉄ゴーレムが動く音が聞こえてくる。それでもゴルトーさんに視線を向けたまま訊くのさ。
「ッ! ……別の所で土くれどもを吹き飛ばしてた」
「わかりました。ありがとうございます。……ねえ、アリーチェ?」
「……そうだね、エルナー」
魔法の支援なく、父さんは剣でこいつと戦い、そうして勝った。
僕の自慢の父で、アリーチェの師匠はそういう偉大な事を成し遂げて、『鉄鬼』という名を手にしたわけだ。ああ、熱い。血が沸騰しそうなくらい興奮している。
いつかは乗り越えたいと思っていた、僕とアリーチェにとっての剣の頂。その根源の一つが今目の前にいる。
そんな僕とアリーチェの雰囲気を、ラーシャーさんは感じ取ってくれたんだろうね。頷きと共に皆を下がらせてくれていたよ。
二人で存分に戦ってこい。そう言ってくれたのさ!
「「『炎舞』ッ!!」」
体を巡る熱量を剣に宿して踊る。剣を全力で魔力コーティングして鉄ゴーレムに斬り掛かるも、その硬さは尋常ではなくてね。
ギャリイイイイイイィィィィィィィッ!!
耳障りな音が響き渡る。
そんなことはお構いなしに、その巨体から拳が降ってくる!
左右に散開して何度も何度も斬りつけて感触を確かめていく。拳を躱し、ときどき蹴りも混ざるが遅すぎる。
アリーチェの眼が爛々としていてね。浮かべた笑みは心底楽しそうで。いつの間にかサイドテールが解けていて、綺麗な黒髪が宙を泳いでいたよ。
そんな余所見をしていたからか、ふと視線に入った部分があった。そうだよ、鉄ゴーレムとはいえ動くためには必要な部分があるじゃないか。
「アリーチェ! 関節を狙うよッ!!」
「ッ! わかったッ!」
密度がしっかりしているのに、なめらかすぎる動きでね。前世でお母さんが買ってきてくれた、戦隊ヒーローのおもちゃを思い出した。球体関節って言ってたかな、それらしいのが見えてね。
明確な弱点だ。そこを狙わないはずがないよねえ?
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