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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
鋼の子守唄を地の底へ
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化け物、空を飛ぶ

 久々の野営はつつがなく進み、特に問題もなく朝を迎えたよ。

 問題が無かった訳ではないんだ、野営地から百メートルほど離れた場所にはいくつものオークの死体が転がっている。あらかじめ火の場を円を描くように作って、黒い『火精(イフリタ)』を夜に溶けさせて舞わせていたんだ。場の維持はくーちゃんが担ってくれたから、僕たちは安心して眠ることが出来たんだけどね。

 ゴルトーさんは普段の僕たちを知らないから、落ち着かなかったみたいでね。すっきり目覚めた僕たちをゴルトーさんが恨めしそうに見ていて、なんだか申し訳ない気持ちになった。


「お前ら、いつも野営ってこんな感じなのかよ?」

「いえ、いつもは家に帰ってますね」

「は?」


 なぜか威圧されました。


「そういや銀髪の小人族はどこに行ったんだ? 昨夜から姿を見ていないんだが」

「ゾーイは『リリックサンク』にいますよ。そろそろ迎えに行きますか」

「は?」


 ゾーイの館に転移すると、準備はすでに整えていたのか、ゾーイは武装した状態で待っていてくれていた。

 イーリアさんも手を振って見送ってくれたので、僕からも手を振り返しながら野営地に戻ったよ。


「見ての通り、エルナーは転移っつーとんでもないことができてな。夜に関しては安全安心の旅が出来るんだよ」

「カッシュさんよぉ……そういうのは早く言ってくれん? え、なに、この野営ってしなくてもよかったのかよ?」

「エルナーは化け物だからなあ……この程度で驚いてちゃ持たないぜ?」

「はー、さすがあいつらの子どもってところか。魔王って言うのもあながち誇張じゃねえのかもなあ」


 あっはっは、と笑い合う二人の背後に転移できたのは偶然だろうかね? 笑みが深くなるのを自覚しながら、二人にゆっくりと近づいていくのさ。

 みんなも意地の悪い笑みを浮かべていてね。楽しそうに笑い合う二人の反応を楽しみにしてるのがよく分かるんだ。


 二人に比べて僕は小さいから、肩に手を置くことはしない。代わりに背中に手を当てて、なるべく低い声になるように意識する。


「楽しそうですねぇ? 化け物の話はそんなに面白かったですか?」

「――ッ!? エ、エルナーいつ戻ってきたッ!?」

「うっそだろ、匂いも気配も無かったぞ!?」


 クゥナリアさんがにこやかに手を振っていてね。それを見たカッシュさんは虎の獣人だからだろうか、瞳孔がまん丸になっていた。クゥナリアさんの魔力で風の場が作られていて、匂いは散らされ気配は彼女の魔力でごまかされていたのさ。

 振り返って僕の笑みを見ていたゴルトーさんは、なぜか遠い目をして頬を引きつらせていたよ。


「あー、この笑顔知ってるやつだわ。レックスとレナが碌なことしない時の表情だな……」

「二人の子どもですからね。それに化け物らしいので、それらしい振る舞いをしたいと思います。『転移』」


 言葉にして情報を伝えてね、景色が切り替わるのをあらかじめ教えておいた。どこに、どういった状況かというのは知らせないままにしてね。

 転移先はとても見晴らしがよくてね。何の障害物もなく遠くまで見通せるステキな場所を選んだよ。


 まあ、足元もとても見晴らしがいいんだけどね?


「は? はあああああああああああああああああああッ!?」

「お、落ちッ!? エルナーこれは洒落にならんぞ!?」


 二人の絶叫が空に響く。地図魔法に生えた高度固定の能力を使っているから、この五十メートル上空から落ちる事は無いけれどね。伝えていないから知るはずも無いのさ。落下の感覚を偽装するために下から強風を起こしていたりもするよ。

 魔法の無駄使いだって? ははっ、知りません。


 地上に転移すると、両手と両膝を地面について荒い呼吸をするカッシュさんとゴルトーさん。その様子に僕も満足だ。

 するとカッシュさんがおもむろに顔を上げて、未だ瞳孔が丸くなったまま口を開いた。


「アクマ! 魔王! エルナー!!」

「…………」


 アクマや魔王が罵倒としての言葉なら、まあ納得はしよう。けどなんで僕の名前も入っているんでしょうかねえ? エルナーって悪口に入るの?


「もう一度転移――」

「悪かったッ!」


 周囲から笑い声が上がったところで、二人はどうやらしてやられたことを知ったらしい。不満気な表情を僕に向けてきたけれどね、僕にだって言い分はあるんだ。

 化け物と呼ばれて傷ついたと伝えるんだ。少し落ち込んだように演技するのがポイントでね、表情も作って少し眉尻を下げるのさ。なんなら水の魔法で涙を作ってみようかと考えたところで、妖精の祝福が二人の罪悪感を感じ取ったからやめておいた。


 二人が本格的に謝り始めたから僕も耐え切れなくなってね。笑ってしまったけど、それが怒ってはいないと受け取ってもらえたらしい。安心したという感情が伝わってきたよ。


「ねぇエルナー君。空飛んでたけど、新しい魔法? ボクとルルゥも飛べるかな?」

「飛ぶというよりは、空中で止まるって表現が正しいですね。風を使って臨場感は出せますけど。地図魔法で出来る事なので二人を連れて行くことはできますよ」


 カッシュさんとゴルトーさんは、空での状況を理解したらしく大きく溜め息を吐いていた。

 対してクゥナリアさんとルルゥさんは、そわそわした様子で僕ににじり寄ってくる。二人だけじゃなく、カッシュさんとゴルトーさんを除いた全員が距離を詰めてきたから、たじろいでしまうのも無理は無いと思うんだよね。


「ボクとルルゥは、ほら。フクロウとタカの獣人だからね。空にはちょっとした憧れがあるんだ」


 そういうことならと、みんな連れて空に転移する。今度は百メートル上空にしてみたよ。

 カッシュさんとゴルトーさんは少し青ざめていたけど、それ以外にはおおむね好評のようだった。かくいう僕もテンションは凄く上がっていたりする。

 朝の涼やかな風が吹く大空で、しばらく空中観覧を楽しんだよ。


 地上に戻ってから周囲の惨状を思い出すというのも、なかなか間の抜けた話だと思うけどね。オークの死体が囲んでる状況を目の当たりにして、思い出したというのも事実ではある。

 夜のうちに死んだオークたちだけど、傷んだりしてないか不安はあった。けれどクゥナリアさんの話では、魔物は体内の魔力が一定量減らないと腐ったりはしないらしい。その代わり魔力が尽きると一気に崩れるというのだから不思議に思うけど、獣人国では魔物の肉には魔力を注いで鮮度を保つという。ファンタジーだね。


 周囲のオークの死体はまだ魔力量は充分にあることを、妖精の祝福が教えてくれた。それらを『リリックサンク』の元牧場に転送しようとしたところで、ゾーイから待ったがかかったよ。


「エルナー様、申し訳ありません。その、解体が追い付いていないそうでして……」

「……いきなり五十体は多すぎた?」

「その、はい。それで王より遣いが来まして、各町や村に直接送ってくれないかと打診を受けました。こちらに地図も預かっています」


 地図を受け取ると、一緒に手紙も添えてあった。確認してみれば、便利使いをしていることを申し訳なく思っている、という折の謝罪の文章が書き連ねられており、魔王様に伝言を、と書かれた部分からはひたすら僕に感謝する言葉が(つづ)られていた。最後の一文に安定した供給のため協力いただけることを願う、とだけ書かれている。

 シャーグ陛下、申し訳ないけど魔王信奉が強すぎると思います。


 とりあえず手に取った地図を見て町や村の位置を確認していく。軍事の際の要衝とか書き込まれてるけど見ないことにする。見る度に冷や汗が伝うけどきっと気のせいだ。ゾーイの苦笑いも幻覚だろう。


 新手の精神攻撃を耐えきった僕は、改めて地図魔法を確認するとちゃんと反映されていた。要衝の表示非表示が提示されていたから迷わず非表示にしておく。見る度に精神攻撃されるのは嫌だ。


 『リリックサンク』内の全ての町村を指定して、全てのオークを転送する。地図魔法が勝手に仕分けしてくれるから楽でいいね。

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