オークVS魔王パーティー
ゾーイの館に転移すると、イーリアさんが初転移で大いにはしゃいでいた。
こちらでの諸々の手配をゾーイに丸投げし、空がオレンジに染まりつつある時間になっていたから、僕とアリーチェは『王都ファウラ』の家に戻ることにした。
「明日の朝、改めて迎えに来るよ」
「わかりました、今日はありがとうございました」
イーリアさんとも別れを済ませて庭に転移すると、レイスの子たちが出迎えてくれた。どうやら魔法の練習をしていたらしく、黄金の羽ピンから僕の魔力を感じとり、帰ってくるとわかったらしい。
転移した瞬間魔法が飛んで来たら笑えないからね、『誓約』での繋がりに感謝することになるとは思わなかったよ。
僕はこのままレイスの子たちと一緒に魔法の訓練を、アリーチェはメローネたちに合流して、右手に『炎舞』を、左手に氷の剣を生み出して激しい模擬戦をしていたよ。
いよいよ出発の朝を迎え、さくっとゾーイを回収して西門へと向かう。
ゴルトーさんは既についていたらしく、僕たちを見つけると手を上げてくれた。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします!」
「ああ、よろしくな。無いとは思うが、賊が出てきたら牽制してくれると助かるわ。殺すのは傭兵である俺の役目だからな」
いきなり物騒な事を言うね。役割といったらそうなんだろうけど、僕たちだって戦えるのに。
「不満そうだな? いいかエルナー。魔物を殺すのとヒトを殺すのは、まるで違うぞ」
カッシュさんを除いた『雷牙』の三人が頷いている。当のカッシュさんは胡乱な目で僕を見て、アルシェーラの古代森では躊躇なく斬ったとかなんとか言っていた。あれは安全が確保されていたので無効です。
「無いとは思うって言うのは何故です?」
「武装した集団を襲う理由がないだろ。女子供が多いとは言ってもリスクが高すぎるし、なにより得るものが少なすぎる」
「あー、なるほど?」
門を出てから街道に沿って歩きつつ、周囲に気を配りながら話していると、隣を歩いていたアリーチェの肩が僅かに揺れた。
「盗賊たちも、こうまで魔物が発生していると活動が難しそうだね?」
「お、分かるか。まあ賊としてもオークは美味い獲物だから、わざわざヒトを襲う事も無いという理由もあるがな。けどそいつは適度な魔物の発生であればの話だ」
街道の北の、遠目に見える魔物の群れ。そう、群れなのだ。地図魔法にマーカーを入れて数を表示させると、三十を超えた数がいた。
ゴルトーさんは笑いながら、ここまで多いと、逆に賊の方が餌になっちまうな、と笑えない事を言う。
大量発生しているとは聞いていたけど、ここまで多いのは明らかに異常だ。周りに魔力が濃い場所は無く、それなのに発生する理由が分からない。
疑問は他にもあるけどね、今やるべきは思考じゃない。王都を出てまだそんな歩いていない距離にいるこの群れを、手早く倒さなければ周りに被害が出そうだ。
オークのシルエットがはっきりと見える距離となり、その微妙過ぎる姿に僕は内心がっかりとした。
「……二足歩行のトンガじゃん」
「気持ちは分かるが油断するなよ。あの見た目からは想像できないくらい動きが速い。力も相当にあるから気を付けろ」
『ブロロロオオオオオオオオオオッッ!』
ラーシャーさんが言い終わるのと同時に、オークたちから雄たけびが上がったよ。地響きを立てながら聞いた通り、想像以上の速さで突進してくる。とはいえ、さすがにウルフよりは遅いけどね。
それでも一般的な子どもならすぐに追いつかれる速度ではある。だいたい二メートルくらいの巨体でハンドフリーのため、個体によってはこん棒のような得物を持っている。
残り五十メートルほどまで引き寄せるよ。ラムダとタイミングを合わせて、オークの突撃を利用するのさ。
「「『ディグ』」」
能動的な落とし穴さ。横に伸びるように、二十センチメートル程を掘り下げた。
先頭を走るオークは強制的に足を取られて転倒し、後続は転んだオークが障害となって転んだり止まったりしてしまう。
全力で走っていたからね、その巨体と重さが仇となって急に止まれるようにはできていないのさ。
さあ、害獣駆除だ。ゴルトーさんに実力を見せる丁度いい機会でもある。
ラーシャーさん、アルト、メローネが身体強化のみで駆け出して、後方から迂回してきたオークに狙いを定めている。加速した彼らの世界において、オーク程度の動きは止まって見えるものだ。接敵したオークの首を正確に斬りつけ、血を噴出させている。
ルルゥさんとシューゲルは、『ディグ』によって転倒したオークたちを射抜いている。
危なげなく三十ものオークの殲滅を果たしたのを確認し、ゴルトーさんは感嘆の溜め息を吐いていたよ。
「いや凄いな、『雷牙』が強いのは分かっていたがあの子らも強いな」
「『金の足跡』ですよ。全員が魔技を習得しています」
「とんでもねえな……。それで、エルナー達はなんで参加しなかったんだ?」
「南と西から反応がありましたので。状況によってはそっちの対処をしようと思っていました」
そう、すでに遠目に見える位置に別の群れが二つも近づいていたんだよ。今倒した群れよりは少ないけど、合流したらだいたい同じ規模になる。そうなると困るから、アリーチェとゾーイは認識した段階で、西の群れに対処しに行っていた。
「いつのまに……アリーチェの嬢ちゃんの剣の腕が相当なのは知っているが、あの小人族の青年はどうなんだ?」
「強いですよ。『リリックサンク』の秘境の猛威を防ぎ続けてきた、英雄ですから」
「お、おお。そうか、英雄か……。あー、それで南は全員で当たるのか?」
「え? 終わりましたよ?」
「は?」
南の群れには緑の『火精』を放っておいた。体内の酸素を奪いつくされたオークは為す術もなく倒れている。
ゴルトーさんは南の方を見たり、僕を見たりと忙しない。
ラーシャーさんが、戻ってくるなり西を見てニヤリと笑い、ゴルトーさんの肩を軽く叩きながら意味深に頷いている。
ゴルトーさんが復帰するまでに北と南で倒したオークを、『リリックサンク』の元牧場へと転送してしまおうか。西はどうかと地図魔法で確認してみれば、ちょうど終わった所だった。
アリーチェとゾーイが戻ってきて、ようやくゴルトーさんが復活したようだ。
「さて、それじゃ進みましょうか」
「まて、まってくれ。西はまあ分かる。だが南は何があったんだ?」
「『火精』という魔法を使いました。この緑の蝶をオークに纏わりつかせて、空気を奪っただけですよ」
「アクマかよ……いや魔王だったか」
アクマというのは強い怨念が形を成した魔物の事で、発生した段階では魔力体なんだそう。近い存在としてレイスがいるけど、アクマとレイスの違いは魂の有無だ。怨念が元となっているためアクマには自我が無く、命あるものを憎悪していると言われていて、アクマは例外なく残虐性を持つ。
つまりゴルトーさんはこう言いたい訳だ。
「僕の魔法はゴルトーさんにとって、残酷で残虐で非道であると……」
「すねるなよ……俺が悪かった」
肩を落としならが西へと進むなか、ゴルトーさんが必死に僕の機嫌を直そうとしていてね。隣を歩くアリーチェが僅かに肩を震わせながらも、僕と同じようにどうにか笑うのを耐えていたよ。
僕の前に回り込んだゴルトーさんが、表情を見て悟ったらしい。ぐりぐりと頭を撫でられながら溜め息を吐かれてしまった。
それから日が暮れるまでに群れとは遭遇しなかったけど、それなりの数のオークを倒したよ。
転送するとゴルトーさんは期待通り驚いてくれてね、野営の準備をしている間、質問攻めにあった。
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