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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
鋼の子守唄を地の底へ
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氷室の惨状

「ダメだ」

「えー! なんでよー!」


 ひどく困った様子でなんでか僕の方を見てくる。ゾーイの考えていることは分からなくはないんだよ、ただそれを僕が言うのは違うと思う。

 笑顔浮かべながら目を細めてゾーイを見やるよ。僕が何も言わないと分かったようで、苦笑いを浮かべながら肩をすくめて見せた。


「むぅ……エルナー君といちゃついてる……」

「通じ合っているだけだ。イーリアの筋力も体力も、思っている以上に落ちているのは自覚しているね? その状態で共に来るのは危険なんだ」

「……足手まとい?」

「ああ」


 思ってた以上にばっさりと斬ったね。間違ってはいないんだけどちょっと厳しいんじゃないかな?

 ただ、イーリアさんはあまり気にしている様子はなく、むむむ、と唸りながら考え込んでいる。なんだか面白い女性(ひと)だなあ。

 愛用しているハーフコートの袖を引っ張られる感覚があり、アリーチェを見ると心配そうな表情。助け舟を出さないのか目で訴えかけられているからね、微笑みながら頷くことで応えるのさ。


「イーリアさん、僕たちとしては大歓迎ですが、挑む場所が秘境である以上慎重にならないといけないんです。今はまだ危険だと判断していますので、今回はごめんなさい。ただ、僕たちも全力で協力しますから、鍛錬してゾーイを見返してやりましょう!」

「おお、エルナー君の言うとおりだね! 待ってるんだよ、ゾーイ!」


 腰に手を当ててゾーイを指さしながら楽しそうにしている。そんな溌溂(はつらつ)としたイーリアさんにつられて僕とアリーチェも笑ってしまう。ゾーイも眉尻が下がってはいるけれど、口元は笑みを浮かべていてね。イーリアさんのそんなところが好きなんだという事が窺い知れたよ。


 鍛錬のプランを組み立てながら歩いてしばらく、ようやく元牧場に辿り着いた。


 元々は立派な柵があったであろう場所には、木片がところどころに散らばっていた。魔物の襲撃や家畜たちが暴れたであろう傷跡も多く残っている。

 建物も壁に穴が開いていたりと散々な状態ではある。幸いと言っていいのか判断に困るけど、ちょうどその穴の向こうには解体部屋らしき場所が見えていた。


「たしか、あちらの離れが氷室に繋がっていたかと。ただ、しばらく手入れをしていないはずなので、確認は必要かとは思いますが……」

「ならまずは氷室の確認をしようか」


 離れの奥まで来ると、僕たち人族としても大きく重厚な扉があった。その横には穴が開いており、そこからは冷気が感じられない。

 ゾーイとイーリアさんが難しい顔をしながら小声で何か相談しているらしく、扉を開けようとはしていない。二人が何らかの判断をするまで僕は勝手に見て回るかな。


 扉には取っ手が無く、押してもびくともしない。となれば何かの仕掛けがあるんだろうかね。

 普通は近くにスイッチになりそうなのがあると思うんだけど……あ、これかな? 壁の一部が色褪せていて、とりあえず押してみる。

 うん、何にも起きない。起きないけど少し沈んだような感触はあった。

 こうさ、平面を指で押してるとタブレット使ってた時の癖でね。スワイプしちゃうんだよ。こういう偶然っていざ経験するとテンションが上がるのはきっと僕だけじゃないはずだ。


 沈んだ壁の一部がね、横にスライドした。その奥には押しボタンらしき突起が左右に二つ。


 扉の右側の壁だから、たぶん右の突起を押せばいいんだろう。とりあえず押してみるも反応なし。左側も同様だった。

 一度押してダメなら押し続けてみるかな、っと、おお? キュラキュラと何かを巻き取るような音と共に扉が右にスライドしていく。


「やった!」

「エルナー凄い!」


 盛り上がった気分のまま開かれた扉の先を見て――盛大に(むせ)た。

 氷室と呼ぶには温かく、むしろ肌に感じる不快感は梅雨の時期をより酷くしたような、纏わりつくような湿度。その室内環境によって大発生したカビの匂いが、扉が開いて換気された結果僕たちに襲い掛かったようだ。


「ひどい目に遭った……」

「うー、気持ち悪いー」


 風を操作して匂いを飛ばしながら、咄嗟に左側の突起を押して扉を閉め、アリーチェと一緒に深い呼吸をする。視界の端に映ったゾーイたちは、額に手を当てていたのがやけに気になった……。


「ゾーイ、もしかして……」

「ええ、穴が開いていた為可能性は考えていました。ただ、まさかエルナー様がこの扉を開けるとは思いませんでしたから……」

「ギミックが楽しくてつい……」


 ゾーイたちは国境を封鎖した際、どこかから運ばれてきた食材について話し合っていたらしく、この人為的に開けられた穴をみてもしかしたらと、イーリアさんと可能性を検討していたという。

 下方に開けられた穴から冷気が逃げ、氷室はだめだろうなと話している所に、扉が開く音が聞こえ慌てて見てみれば、僕たちが盛大に咽ている所だったのだとか。


「聞いて納得した。それならカビだらけになっていてもおかしくないよね」

「ですがこうなっては、氷室は使い物にはならないでしょうね……」


 諦めたようなゾーイの言葉にアリーチェとイーリアさんが頷いているんだけど、僕は前世の事を思い出していた。まだ動けていた頃にお母さんが、お風呂場にカビが生えていたのを見つけてね。いつも優しいお母さんが、その時だけは冷たい雰囲気を見せてちょっと怖かった。

 だから覚えているという事もあるんだけど、そのときは確か熱湯をカビにかけていたんだよね。


 今にして思えば、カビの多くは有害だから、奇病を患っていた僕を守る為に徹底してくれたんだろうな。


 そんな風に昔を思い出して、その優しさを理解できたことが凄く嬉しくてね。口の端が上がるのが止められなかったよ。


「またエルナーが悪い顔……じゃないね? なんだか嬉しそう?」

「うん、凄く嬉しい事。“昔”を思い出していたんだよ」


 意味を理解したアリーチェがふわりと笑ってくれたのに対し、ゾーイは少しばかりばつが悪そうにしていた。

 気にしなくてもいいのに、と思いはするけどね。まあ罪悪感はすぐには消えないだろうから無理強いはしないよ。


 優しい記憶を頼りに動くよ。まずは空いた穴を土の魔法で簡単に埋めて、地図魔法で氷室を映す。食糧は全部運びだしたようで、がらんとした部屋の中にはカビと湿気以外は無い。湿度百パーセントと表示されたことに驚いたけど、氷が溶けてできた水が残ってることに納得もしたよ。


 丁度いい、この湿度も使ってしまおうか。


 氷室の中に火の場を作り、空気中の水蒸気を熱していく。室温も上がっていくため床の水もみるみる蒸発し、蒸し風呂状態となっている。現在の室温はおよそ七〇度だ。

 カビを対象にマーカーを付け、確認しながら室温を上げていく。マーカーは減ってはいるけど、その動きは非常にゆっくりだ。ならばと、ひとつ思い付きを実行してみることにしたよ。


「『火精(イフリタ)』」


 青い『火精(イフリタ)』を三匹氷室に発現させ、カビを対象にその熱を際限なく与えていく。地図魔法のマーカーと連動させ、根絶するまで青い『火精(イフリタ)』は氷室の中を優雅に舞う。


 氷室が石づくりでよかった。もし木を使ってたら燃えていただろうなあ、と考えてる間にマーカーは綺麗になった。

 続いて黒い『火精(イフリタ)』を呼び出し、部屋の温度を一気に下げていく。丁度いい室温になったら『火精(イフリタ)』を消して、地図魔法で氷室と外をつないで強制的に換気をするよ。そうして、扉を開けて確認すればそこに不快感は無かった。


「あとは掃除して、穴の補修をしっかりすれば使えるようになるね。それは小人族の皆さんにお願いしても大丈夫?」

「ええ。その程度ならお任せください」

「あ、その指揮は私が執るよー! というか、ここでの作業は私が受け持つよ! エルナー君のご指名ってことなら、誰も反対しないと思うしっ!」


 それなら僕も安心してここにオークを転送できるというものだね。毎晩ゾーイを返す約束をして、イーリアさんにここの管理を任せたよ。進捗をゾーイに伝えてくれれば、僕が氷を用意すると伝えると、アリーチェを巻き込みながらイーリアさんが飛び跳ねて喜びを表現していたよ。

 アリーチェも楽しそうにしているからね。僕がその様子を見て微笑むのは当然のことだ。それはゾーイも同じらしく、イーリアさんの元気な姿を見て目端に浮かんだ涙が、彼の喜びを表していたよ。

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