共に背負うという事
アリーチェが慌てて指輪を中指に入れ替えたのを見て、僕も同じ指に指輪をはめる。
お互い照れ笑いしながら指輪を見せあっていると、なんだか胸の内側が温かくなってくるね。
「おや、嵌め直してしまうのですね。お似合いでしたのに」
からかうように言う商人の男性に羞恥が湧き上がるけど、我慢して目を見るよ。
「ええ。まだ僕たちには早いですからね」
「まだ、なんですね?」
しっかりと頷いて見せるよ。僕たちはまだ成人にもなっていないし、秘境を巡る冒険を全うするつもりでいるけど何があるかは分からない。この冒険の目途が付いたとき、改めてアリーチェに告白をしようと考えているんだ。
その時までこの想いが続いていることが前提ではあるけど、僕としてはアリーチェ以上の女性には巡り会えないと思っている。むしろ愛想尽かされそうになるかもしれない恐怖の方が高い。
「ふふ、でしたらその指輪を贈ったことは間違いではなさそうですね」
「素晴らしい慧眼でした。さすが商人ともなればヒトを見る目も鍛えられるんですね」
「君たちは特に分かりやすかったけどね」
堪えきれなかったのか、最後の方は素になって笑っていたよ。
気のいい商人の男性と別れ、ゾーイを迎えに行くにはまだ少しばかり早いという、そんな隙間時間。
「…………」
「…………」
川のそばのベンチに座ってとても気まずいというか、気恥ずかしい時間が流れております。
何か言おうと思っていても感情が付いて来ない、そんな感覚だ。
「……アリーチェは、さ」
「ッ! う、うん」
「僕の過去を……僕がエルナーとして生まれる前の事を知っていると言ったら、気味悪く思う?」
いくら気恥ずかしいからと言って、今聞くべきことだろうか。緊張している、きっとそのせいで思考がうまくまとまっていないんだ。
「前世の記憶がある。とても苦しかったけど、幸せだった記憶。その時からずっと望んでいた、冒険したいっていう気持ち。僕はきっと、その気持ちにアリーチェを巻き込んだ」
後悔があった。もしかしたらアリーチェは剣を取ることがなく、女の子として普通の幸せを手にしていたかもしれない。それを僕しか同年代の子どもがいなかったから、歪めてしまったかもしれない。
「私さ、ずっと不思議に思ってた。エルナーは小さい頃からいろんなことを知っていて、普段は無邪気なのに時々大人びていて」
「……うん」
「やっとわかったよ。エリカ様との繋がりはきっとそのことが関係していて、ゾーイさんもきっと同じ。くーちゃんもきっと、全部じゃないけど知っていたんだよね」
『……ですの』
にへらと笑って僕を見る。色々な感情が行き来してどうしていいか分からない、そんな表情だった。
「寂しかったんだ。私だけが何も知らない。それがどうにも悲しかった。けど、エルナーも悩んでたんだよね、それでまだ何か隠してる」
いつも明るくて、天真爛漫がよく似合う女の子。そんなアリーチェはかなり鋭い感性を持っている。
だからこうして、一番怖い別れの可能性という隠し事があることまで見抜かれてしまうのさ。
「私をあまり見くびらないでほしいな。エルナーが前世の記憶があると知って気味悪がるわけがないよ。むしろ絶対何かあるって思ってたんだから!」
「そっかぁ……」
安心した。安堵した。アリーチェは僕の秘密を訝しむ程度には感づいていて、僕はと言えば彼女の不安に気づけてなどいなかった。なんて体たらくだろうね。
「ねえエルナー。教えて? 私にエルナーの重荷を一緒に背負わせて?」
アリーチェの優しさに寄りかかって、全てを話したよ。僕の前世の生涯や、今やっていることの意味まで。
ゾーイとの関係や、エリカお姉様がかつての魔王であったこと。管理者の役割なんかも話したよ。思いつくままに話したから、時系列はメチャクチャになってしまったけど、それでも静かに聞いてくれている。
全てを聞いてなお、アリーチェは笑ってくれていた。涙の線を残したまま、僕が大好きな笑顔で居てくれた。
「そっかぁ、重いね。その重さに負けないようにしないとだね!」
「そうだねぇ、負けるつもりは無いけど、アリーチェも背負ってくれるなら心強いかな?」
「背負うよ。背負わせてよ。秘境を巡って世界を守って、私たちも幸せを掴もうね、魔王様?」
「……そうだね、そうだよね。あはは、黒姫様ってば男らしいね!」
「女の子だよっ!」
じゃれあって笑い合って、そうして僕は安心を手に入れた。
ゾーイを迎えに行く時間となって、気持ちを新たに転移を実行。その先で待っていたのはゾーイにイーリアさん、そしてなにやら高そうな服を着た老齢の小人族。良くない流れだ。ハルトギルマスさんにしてやられた二年前を思い出したよ。
「お待ちしておりました。エルナー様、こちら我々小人族の国『リリックサンク』を治める国王のシャーグ陛下にございます」
色々言いたいことはある。なんでここに居るのかとかどうして連れてきたとか。
新たにした気持ちが折れそうです。
「お初にお目にかかります。人族の国『ラーナスタ王国』所属の冒険者、エルナーと申します。この度の災害につきましては、心よりお見舞い申し上げます」
僕の言葉と共に、アリーチェも頭を下げる。
「痛み入ります。ゾーイから聞きました、あなたが今代の魔王様であらせられると」
「陛下、敬語はおやめくださいませ。私はただの冒険者エルナーでございます」
「……承知した。此度のそなたたちの食糧支援の件、感謝する」
秘境を踏破したのは魔王であって冒険者エルナーではない。それをシャーグ陛下はしっかりと理解してくれたようだ。
食料の件について礼を贈るという話だったけど、それは丁寧に固辞したよ。オークは寄付という形だから見返りはいらないと伝えると、嬉しそうにしていたのが印象的だった。演技ではないのは妖精たちが教えてくれたよ。
魔王様に伝言を、と言って熱心にお礼を言われてしまい、顔に熱がこもるのがわかった。ゾーイは正面から見ているから、その様子がしっかりと見て取れたらしく肩が揺れていた。
忙しい中わざわざ時間を作って来てくれていたらしく、外に待機していた護衛たちと共にお城へ帰っていくのを、アリーチェと並んで頭を下げて送った。
「疲れた……」
「陛下がどうしてもということでしたので。ありがとうございました」
聞けばシャーグ陛下は熱心な魔王信奉者らしく、秘境の異変を解決したのが今代の魔王だと知ると勲章だとか報酬を贈ろうとしたらしい。そこをゾーイが何とか止めると、ならばと会うことを決定したとのこと。
「ゾーイ、ありがとう、ありがとう……」
ゾーイの手を取ってお礼を言っていると、近くに居たイーリアさんが僕とアリーチェの指輪に気づいたようで、目を輝かせてアリーチェに迫っていく。
「ねえアリーチェちゃん! その指輪って夫婦の指輪よね!?」
「あ、う、うん! でもね、私たちはまだ未成人だし、まだそうはならないから!?」
「ゾーイ聞いた!? まだ、だって!」
「では、私達も夫婦となるのは二人に合わせてみようか」
「「へっ!?」」
一切動じていないゾーイと激しく動揺する二人。凄いな、これが大人の余裕……!
ゾーイの耳が赤いのなんて些細な事だよね、うん。
「あー、それじゃゾーイ、元牧場の場所に案内して?」
恋愛脳から修正して本来の目的へと移るよ。流れ弾が怖かったとかではない。
東とは聞いていたけど実際には東南東に位置するらしく、その道すがら雑談をしながら歩く。途中でイーリアさんが、そうだ、と前置きをして僕たちの前に小走りで回って振り返った。
「私も、皆と一緒に行くことにしたから! よろしくね!」
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