治癒の権能
守ることに特化した二人だけど、シャルナス様との戦いで思うところがあったのかもしれない。
盾で防ぐだけではなくシールドバッシュによる攻撃もあるけど、魔技も加えることでさらに手段を増やそうとしている。『無垢の寄せ櫃』で霧の魔力に対応するための継続した身体強化が、なにかしらのヒントになったんだろう。
訓練を再開した二人を魔力視で見てみれば、その流れはかなりスムーズになっている。
「二人がまた強くなったら私達も安心だね」
「だね。この先どんな相手がいるか分からないし、僕たちももっと頑張らないとね」
しばらくの間アリーチェと訓練の様子を見学しながら雑談していると、小鳥の姿になって肩に止まってるくーちゃんがそわそわしだした。
『その、二人とも。よかったら相談に乗ってほしいですの』
「え? もちろんいいけど、くーちゃんが相談って珍しいね?」
基本的には僕たちを見守るスタンスであるくーちゃんが頼ってくれるのは素直に嬉しい。
部屋に向かいタナカさんに淹れてもらったバウ茶を飲みながら、テーブルの中心で佇むくーちゃんの言葉を待つ。アリーチェもどことなく緊張しているようだったから、バウ茶を飲んで落ち着くように伝えたよ。
『私は使徒として二人の元に降り立ったですの。エルナーはアルシェーラ様の権能を覚えている、ですの?』
「『反転』だよね? あ、もしかしてくーちゃんの権能の事?」
『ですの』
そういえばくーちゃんの権能の事は聞いたことが無かったね。火の権化ともいえる体を持っているから、それに関連する権能なんだとは予想してはいたんだけど。
「どんな権能なの?」
『それが……わからないんですの。ごめんなさいアリーチェ』
使徒様は全員が権能を持っていると、以前ルルゥさんとクゥナリアさんが教えてくれた。星詠みの塔に保管されているキアラ様の言葉をまとめた資料に、そういう記述が載っていたそうだ。
だからくーちゃんにも何かしらの権能があるのは間違いなくて、使徒様の権能とは魂に根付くものであり、奇しくも僕の固有魔法である『地図魔法』と同じ性質を持っているようだ。
その点を考えるに、地図魔法も言ってみれば権能に近いのではと思わなくもない。レスター兄様に贈られたという点で僕も使徒様に近い存在なのだろうか、とそこまで考えてやめた。
僕は僕だ。与えられた役割は無く、あったとしても人生を楽しんでほしいと願われた。健康で自由に動けるこの体で、心のままにこの世界を楽しむことがレスター兄様とエリカお姉様に対する返礼になるよね。
『アルシェーラ様の助言で、私には治癒に関する権能があるのではと言われたですの。でも私にはいまいち理解が及ばなかったですの……。それでエルナーに相談してみるよう言われたですの』
「治癒かー。そういえばそういった魔法って聞かないよね、ポーションとか定番のものもないし……」
「ぽーしょん? ってなに?」
「えーっと、怪我を一瞬で治したり、治りやすくする液体のことかな?」
「うーん?」
薬草なんかは存在しているけれど、それは怪我の化膿を抑制したり解熱作用の成分が確認されていたりしていて、バウ爺さんのような、国に認可を受けているお医者様たちが所属する医学会に、薬草ごとの成分や調合方法なんかがまとめて保管されているらしい。
薬効を抽出してすぐに使えるように研究もされているらしいけれど、どうにも時間経過による劣化を止めることが出来ないために、研究は研究として続けて薬草の調合は現場で行うのが現状のようだ。
「説明が難しいや、ごめんねアリーチェ。それで治癒だけど、怪我したり骨が折れたりするとそこが熱を持つよね。それって体が治してるからだって何かで見たような気がするよ」
「稽古で打ったところも熱く感じることあるもんね。そっか、それも体が治してくれてるってことなんだ」
「自然治癒力っていうんだけど、くーちゃんの権能はそれに働きかけるのかな?」
詳しい原理は分からないけど、おおまかには外れていないと思いたい。漫画にだって詳しく描いてある訳じゃなかったし、魔法で治してるのを見てそういうものなんだとしか思わなかったもん。
現実に治癒とはなんだと言われても、にわか知識しかない僕にはかなり難しい。魔法は想いによって象られ、発現して影響を与える。治れと想いを込めればいいのではと、いささか力業に頼る方法が真っ先に浮かんだ。魔法使いなのに力業とはこれいかに。
「エルナーが霧に、シャルナスの呪詛だったっけ、あれに使った魔法みたいな感じ?」
『ッ! 患部に私の魔力を通して魔法を使う……? でもそれだとどんな影響があるか分からないですの……』
テーブルを見つめて考えに耽るくーちゃん。初めて地図魔法を使ったときはどうだったかと思い出し、行き当たった答えは実にシンプルなものだったよ。
左手の親指の腹を噛み切った。当然赤い血がぷくりと膨らんで滴っていく。
迷いなく行った僕の所業を見たアリーチェも同様に親指の腹を噛み切った。
『ふ、二人ともなにしてるですのッ!?』
とっさに翼で僕たちの親指に触れ、流れ込んでくる優しい魔力を受け入れる。
くーちゃんはいつだって僕たちに癒しをくれていた。それはくーちゃんが僕たちを温かく受け入れてくれて、僕たちもまたくーちゃんの優しさを信じきっていたから。
傷口が持つ熱とは違う、優しい温かさが痛みを奪う。いつの間にか発現していた白い炎に包まれた僕とアリーチェの親指は、その炎が消えた後にはすっかりと綺麗になっていたよ。ぽかんと嘴を開いてそれを見届けていたくーちゃんが可愛い。
『ど、どういうことですの……ッ!?』
「僕の地図魔法もそうなんだけど、固有魔法であれ権能であれ魂に根付いた魔法ってさ、こうしたいっていう想いがそのまま発現するんじゃないかな。難しい理屈とか理論とか無視して、“そういう魔法”なんだとおもう」
例えばアルシェーラ様。あの方の権能である『反転』の理屈はまったくわからないし、『半反転』なんていう応用まで可能という破格の権能だ。それでもあれほど的確に使いこなせているのは、そういう魔法だからなんだろう。
例えば僕の地図魔法。レスター兄様からのプレゼントだからというのもあるだろうけど、僕のこうできたらいいな、が反映されて徐々に便利な魔法へとカスタマイズされている。
空を飛びたいとか思ったら飛べるんじゃ……いやまあ地図で出来る事じゃないか。視界に映る地図魔法が上空から王都を俯瞰する視点に切り替わった。高度固定? ああ飛べるんだ……。
とまあ、色々規格外なことが出来るのが魂に根付く魔法の本質なんだと思う。
「一辺倒の魔法とは違い、“こうしたい”ができるまさに自分自身を反映させた魔法。それが固有魔法であり権能なんじゃないかな」
アリーチェとお互いに治った親指を見せて笑い合うよ。お互いに親指を立てているもんだから何だか可笑しくなってしまった。
『私自身の“こうしたい”を反映させた魔法……。私は、私の大切を守りたいですの……』
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