盾の研鑽
「……お前ら、何をしているんだ?」
引きつった笑みを浮かべながらのその言葉に、いくらかの怒気を感じる。
その向きが僕とアリーチェではなく、揉みくちゃになった集団に対してだ。少し離れただけで馬鹿な事になっているのが気に障ったらしい。
僕たちを囲んだ傭兵と、それを見ていた傭兵との違いは年齢層にあると思う。後者は父さんと似たような年齢で、たぶん当時から知っている人たちなんだろう。
比べて明らかに若い人たちがハルトギルマスさんを中心に押し合い圧し合いといった状況となっている。あ、ハルトギルマスさんの表情が消えてる。近くの傭兵がそれに気づいて震えてるね。
「襲われたので逃げただけです。それでゴルトーさんは何をしてたんですか?」
「はぁ……ったく。当時『ティータラース』に行ったメンツの、今やってる仕事をな。待機だったり居なかったりするからその確認をしてきたんだよ」
「ちゃんと組織してる……」
「……傭兵を何だと思ってるんだ?」
後ろから肩をぽんぽんと叩かれる。妖精さんたちが逃げてと必死に伝えてきているんだよね、僕も出来る事なら逃げ出したい。
「あー、なあハルト。お前さんはなんでここに居るんだ? うちのギルマスとの話は済んだんだろう?」
「こいつらが何の用があって傭兵ギルドに出向いたのか気になってな。まさかゴルトーと知り合いだったとは思わなかったが」
「まあ縁があってな。そうだエルナー、当時一緒だった連中で今王都に居るのは俺ともう一人だけみたいだ。ひと月もあれば全員戻るが、それまで待てはしないだろ?」
「そうですね。ちょっと事情があって急ぎたいですから」
ゴルトーさんの視線はまっすぐハルトギルマスさんに向いている。振り向いて見上げてみれば、なにやら難しい顔をしていらっしゃる。
はて、どうしてハルトギルマスさんが考え込んでいるのだろう。
「ククッ! 不思議そうだな。もう一人っていうのは、ハルトの事なんだよ」
「ええっと……?」
「『鉄鬼』と『魔女』、その二人とパーティーを組んでいたのがハルトだ」
「「ええっ!?」」
アリーチェと一緒になってハルトギルマスさんを見上げると、ものすっごく苦々しい表情をしていた。
王都の拠点で父さんと母さんに遭遇した時の様子から、どこか怯えてるというか苦手意識みたいなものを感じてはいたけど、同じパーティーだったならそうはならないような……? はっ、まさか!?
「ハルトギルマスさん、もしかして父さんと母さんにイジメられてたり……?」
「いや、そういうんじゃねえんだわ。まあそうだな、はっきり言えば俺はあの二人が苦手だよ。いつもいつもいつもいつも、無茶苦茶しやがって……。巻き込まれるこっちの身にもなってみやがれ……だいたい何で俺が謝らねえといけないんだ……」
頭を抱えてぶつぶつと言い始めた。ゴルトーさんはそれを見て笑ってるし。
二人の息子として僕はどうしたらいいのか……とりあえず声をかけておこう。
「えっと、ドンマイ?」
「うるせぇよ!?」
余談だけど、ドンマイという言葉はその昔、魔法使いの父がもたらしたと記録が残っている。気にするなという意味で使われるのは同じだけど、この世界線ではニヤニヤしながら言うのが主流である。つまりは煽り文句。
そのことを知らなかった僕は、教えられた後に必死にハルトギルマスさんに謝ったよ。
ハルトギルマスさんが過剰に反応したのは、当時父さんと母さんに同じように言われていたことが原因らしい。あとで説教しようと心に誓ったよ。
「二人が滅茶苦茶やらかして、ハルトが収拾を付けるのが流れみたいなもんだったからな。嵐が来たと言えばこのパーティーを指していたくらいだ」
討伐依頼を受ければ対象はズタズタに斬られているか、消し炭になっているかで素材が取れず。調査依頼を受けて異常があってもウルフやゴブリンの大発生なら、母さんがその時の気分で風なり火なりで消し飛ばし。
聞けば聞くほどにやんちゃが過ぎるよね、なにやってんのさ二人とも。
父さんと母さんが好き放題暴れているのに対し、ハルトギルマスさんは討伐対象を可能な限りの解体をし、二人によって混乱した状況を収拾したりと大変だったらしい。
毎回僕の両親に文句を言っていたそうだけど、そのときにドンマイと言われるのが常だったのだとか。そりゃ怒るよねえ……。
「不幸にもな、あの二人にさんざん振り回されたせいで対応力が身についてな。こうしてギルドマスターとしてやって行く下地はできたんだよ。あいつら以上の問題児は幸いにして出ていないから楽なもんだ」
「私の知ってるレックスさんとレナさんと、全然違うね……」
「そうだなあ、そういやあいつらが丸くなったのは『ティータラース』に行ってからか」
ゴルトーさんも何か思い当たったのか、あーあれかー、と言いながら難しい顔になった。
「何かあったんですか?」
「『鉄鬼』誕生の話だ。これは向こうで聞くんだろ?」
確かにそのつもりでいたんだけど。面白そうだからという理由だっただけに予想外の流れは少しばかり戸惑う。
僕やアリーチェが知ってる父さんと母さん。『ティータラース』であった何かによってやりたい放題だった二人が変わった。その何かを是非とも知りたい。
「そうですね、早く向かいたい理由が増えました。ゴルトーさんはすぐに出られますか?」
「ああ。とはいっても準備を急いでも明日、余裕をもって明後日くらいにはなりそうだが」
「では明後日の朝に出発したいと思います」
明後日の朝に西門で、と決めてから傭兵ギルドを出る。ハルトギルマスさんは仕事があるからと冒険者ギルドへ向かった。
家に着くと鋼のぶつかり合う音が響いてくる。カッシュさんとジンがお互いのタワーシールドをぶつけ合い、力比べのような感じになっていたよ。
「うん? なんだろう、不思議な魔力だ」
「どうしたの?」
「二つの魔力が混じってる……? いや、同時に使ってる……?」
「エルナー?」
ジンが飛び退り再びカッシュさんにシールドバッシュを仕掛けると、ぶつかり合う音の質が変わっていた。ジンの盾には火の魔力、足に地の魔力が渦巻いている。
インパクトの際にジンの足元の地面が盛り上がり、前傾の姿勢が取りやすい形になっていた。
「盾でぶつかった一瞬後に小さな爆発があったね……。剣を防がれた後にあれをやられると体勢崩れそうだね」
「足元の地面は、それで自分が仰け反らないようにするためかな。……それにしても器用なことするなあ」
今度はカッシュさんが飛び退り、ジンに向かっていく。どうやら交互に感触を確かめているらしい。
小爆発が起きたタイミングでジンが僅かに顔を顰めた。
「ああ、そうか。振動を与える目的もあるんだ」
「振動を与えるとどうなるの?」
「盾を透過して支える手や腕にダメージが行くんだよ。硬い相手とかだと内部にダメージを与えたりとかね。たぶん今はその調整を試してるんだと思う」
「二人がもっと頼もしくなるんだね!」
見学しながらアリーチェと考察していると、二人が苦笑いしながらこっちに向かってくる。
「あっさり見抜かれてしまいました。エルナーはやっぱりすごいですね」
「まあそんな気はしてたけどな。考えついたのも、エルナーが『悪食の森』で骨の化け物を『火精』で封じてたって聞いたからだしな」
初めは相手の態勢を崩す事を目的としていたらしい。
ところがいざ試してみると持ち手に違和感が起こり、僕が爆発の指向性を与えたのを参考にして色々試していたら手がしびれ始めたという。そこから攻撃に転じれるのでは、と思い至ってあの攻防とのこと。
「防ぐだけじゃだめなんだよ。メイスで殴るのもいいが、こいつがメインだからな。守れて攻撃に転じる手段がなけりゃ、この先は足手まといになっちまう」
「置いて行かれたくはありませんからね。シャルナス様との戦いのような、歯がゆい思いはもう懲り懲りです」
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