衝撃の事実
……手の平の上で揺らめく火を見つめる。熱くはない……と思う。
それが魔法を扱っているからなのか、あるいは熱量が無いのか。
「火は扱えるようね。……どうしたの?」
「あ、うん。ちょっと感動してた」
魔法、魔法である。あの魔法だよ?感動しないわけがない。きっと日本、あるいは地球では誰もが一度は魔法を使いたいと願ったであろう魔法を使えた。
「そうね、私もそうだったわ。きっと皆同じ気持ちを味わってるのでしょう。けれどエルナー? あなたはまだたった一つしか確かめてないのよ?」
「そうだった! 次試すね!」
次はウィンドだ。風のイメージはどうだろう?とりあえず肌で感じた風をイメージしてみる。
「……ウィンド」
……反応、なし。イメージが全く分からないから、たぶん無理かな?残念……。
「風はだめだったみたいね。火と風でなにが違ったか分かる?」
「風がよくわからなかった、かな?」
「よくわからない? 外へ出れば風は感じるでしょう?」
「うーん、肌で感じるのと、想像するのとで全然違うというか……ぼんやりとしか想像できなかったよ」
気を取り直して、次はウォーターだ。イメージとしては水道、というか蛇口かな? そこから流れ出る様子を思い浮かべる。
「……ウォーター……つめたっ!?」
「ちょっ!? エルナー!? 出しすぎ、出しすぎよっ!」
……うん、確かに蛇口から水が出るところ想像したらそうだよね? 止まらないよね? あ、止まった。
「びっくりしたわ……水の魔力が尽きたようね。もし水の魔力的エントロピーが増大してたら酷い事になってたわね……」
「ごめんなさい……」
「いいのよ。でもそうね、横着しないで外でやりましょうか……」
「うん、そうだね。思えばトーチも危なかったよね?」
「そうね……」
そう。いつもの勉強ついでで実践したので家の中なんだよね。惨事にならなくてよかったよ……。
「今のところ火と水ね。これで土が使えたら凄い事よ?」
「そうなんだ? 母さんは風と火以外は使えないの?」
「使えなくはないけど、得意ではないわねぇ」
聞いておいてなんだけど、母さんが水と土も使いこなしていたら父さんきっと大変だっただろうね。凄すぎる魔法使いを有象無象から守らないとだもんね……。
さて、いよいよ最後の土だ。マッドって確か泥だよね? 泥って水気を含んだ土ってこと? それって水の魔力に適正ないとだめなんじゃ……? いやでも、魔法って前世の物理無視してること多いんだよね。
あまり気にしすぎていると沼にはまりそうだ。
「……マッド」
……凄いなぁ、なんで空中で泥が生成されるんだろう。どういう原理なんだ……あれ? 足元の土が抉れてる?
「凄いわエルナー! 3つも特性があるのね!」
「ねぇ母さん、魔法って無から有を作り出してるわけじゃないんだね?」
「え、どういうこと?」
「えっと、マッドを詠唱したら泥が出たでしょ? 同時に足元の土が抉れたんだ」
ジィ、と母さんが僕の足元を見つめている。驚いたように目を見開いたのち僕を見つめて喜色満面で抱きしめてきた。なんで?
「凄いわエルナー! 初めて使ったのにそんなことに気づいたのね! 土の魔法を使って足元の土が減るなんて聞いたことなかったのよ!?」
「え? じゃあどこから土が出てくるのさ?」
「魔法でしょ? 魔力が変質した結果じゃない? 水だって何もないところから出てるでしょう? 火もそうよね」
なんだかちぐはぐな印象だねぇ……。魔法の考察はかなり進んでいる一方で物理に関してはなんだか拙い気がする。
水は空気中にもあるし、火に関してはたぶん燃焼だ。決して無から有ではない。
空気の流れが風になるし、であるならば土もどこからか持ってきているはずなのだ。
(うーん、凄い理論があると思えばこの違和感がなんか気持ち悪いなぁ……)
だからと言ってそう指摘することも出来ない。なんせこの世界の常識が分からないのだから……。
その夜、エリカお姉様とレスター兄様に招かれた。
「お久しぶりです! レスター兄様、エリカお姉様!」
「久しぶりです、エルナー。今日も可愛いですね」
「いらっしゃい、エルナー。今日は楽しんでいってね」
最近エリカお姉様が優しいです。
「いつもよ」
「はい」
「そんなことよりエルナー、最近は一般の魔法の勉強を頑張っているようですね」
「はい! 初めて魔法を使えました!」
「地図魔法も魔法じゃないの」
……そうだった!? 僕魔法使ってたじゃん!
「エリカお姉様に感動を奪われました……」
「ちょっと!?」
「ふむ……」
「ちょっとぉ!?」
レスター兄様、手加減してあげてくださいね!
あ、ウインク。様になってるなぁ。
「エリカお姉様、聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「……なに?」
「勉強をしているときに母さんから教わったんですが、自然環境における魔力的エントロピーってなんであんなややこしい表現なんですか?」
ずっと思っていたのだ。なにもエントロピーなどという専門用語は過剰なのでは、と。
ちょうどいい機会だったので聞いてみた結果……。
「あぁ、それ? 昔世界線の事故でこの世界線に違う世界線の子が流れてきたのよ。で、その子魔法で優位に立とうとしてイキったのは良いんだけど、思ったように魔法が出なくて周りに馬鹿にされてね?」
それは聞くも涙の話だった。僕と違って転移してきたようで、異世界=魔法的に古い体質と思い込んでいたそうだ。ところが、この世界は無詠唱が基本だ。その結果特に優位に立てるわけでもなくちょっと優れた程度に落ち着いてしまった。
「やっぱりこの世界じゃそうなるんですね……魔法の考え方が妙に進んでますもんね」
「そのエントロピー云々は、その子が唱えたのよ?」
なんでも、魔法学院を開設し魔法発現の理論を提唱したのだそうだ。
難解ではあるが、その理論を基にすることで魔法使いが増えていった。
それまでは感覚の伝承でしかなかったため理論建てたその功績は大きかったそう。
「結果として言えば、その子は魔法使いの父と呼ばれるようになったわ。その理論を基に育った魔法使いたちが今は多いから」
「そうだったんですね。確かに凄い理論ですが、その他がちょっと稚拙な印象を受けました」
「そもそも、エントロピーと難しい言い回しをすることで優位に立ちたかったのよ」
衝撃の事実が発覚した。まさかの見栄であった。
「だから、エントロピー云々より簡潔に言うならば『場を作る』ということになるのよね」
「そうですね。そもそもエントロピーというのは私の管理する世界線で生まれた言葉ですし、細かい事を言えばこちらの世界線の理論は色々間違っていたりしますからね。私の世界線から流れてしまった子が迷惑をかけてしまったみたいで申し訳ありません、エルナー……」
さらに驚愕の事実。理論の生みの親は同郷でした……。
エリカお姉様の言う、場を作る。まさにその通りだと思う。というかたった四文字であらかた理解できそう。
名も知らない魔法使いの父様。あなたの提唱した理論は神様から実は間違ってるよと伝えられましたよ……。
「なんだか切ないです。あ、そうだエリカお姉様。魔法だからといって無から生み出されるわけではないですよね?」
「無からバンバン生み出されたら星の許容量超えるじゃないの。魔法の流れは大きく分けて四つよ。収束・成形・放出・還元。大まかにでもこれが成っていれば魔法として成り立つの」
「え……」
「必要な要素として、そこに場を作った状態の魔力が媒体となるのですよ」
この短い時間で今までの勉強より遥かに理解が進みました。神様ってすごいです。
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