傭兵ギルド
祝賀状態となった町を進み、ゾーイの館へ向かう途中。溢れるような人混みをゆっくりと歩いていると、あちこちから感謝の声がなげかけられてくる。
シャルナスの呪詛を受けた人たちの親族からの声が特に多かった。彼らの流す涙を胸の中に受け止めるよ。
次の日、ゾーイが登城し事の経緯を伝えに行った。夜になったら館に来てほしいという事なので僕たちは一度『ラーナスタ王国』の拠点にきている。
僕が疲れているという理由で登城は免れ……出来なくなって残念な限りだ。
拠点に来ているのには理由があるよ。今日は傭兵ギルドに寄って、グラディウスを買った武具店で出会った傭兵のおじさんに会うつもりだ。
まあ、居ない可能性もあるからその確認も含めてだ。
そうしてやってきた傭兵ギルド前にはちょっとした人だかりができていた。武装した人達がどこか固い表情で集まってきている。聞こえてくる声からすると、どうやらここの所魔物の発生率が増えているらしく、中には冒険者ギルドからも来ているらしい。
まあね、そういう話を聞けば嫌な予感というものもあるわけだ。
少し視線を動かしてみれば、見覚えのある強面のお姿が。気づかれないように静かに振り返って立ち去るとしよう。
「エルナー? ギルドに入らないの?」
アリーチェの声が嫌に響いた。恐る恐る強面のお方を見ると、嘘くさい笑みを張り付けて得物を見つけたような目をしていた。大股で歩いて近づいてきて、表情が獰猛な笑みへと変貌した!
「ぎゃああああああああああああ!!」
「おいこら、なんつー声出しやがる」
「あはは! ハルトギルマスさんこんにちわ!」
「おう、こんにちわ。黒姫は礼儀がなっているな」
痛い痛い、頭が、頭が物理的に割れるッ!
「いつ戻ったのかは知らんが、実にいい所に来たな。俺から『黄金の誓約』に指名依頼を出すぞ」
「それ断ったらどうなるんです?」
解放されてもまだ痛む頭をさすりながら、無駄と知りながらも聞いてみる。
「冒険者証のはく奪だな」
「職権の濫用だ!」
殴られる、躱す。そして捕まった。
「地位って言うのは使ってなんぼだ。ここの所魔物の数が増えているって言うのは聞いているか? 今は特にオークの報告が多くてな、腕のいい冒険者が対応に出ているんだが……西がどうしても足りなくてな。お前達なら俺も安心できるし頼みたいんだよ」
僕の頭をぽんぽんと叩きながら言われた内容自体は問題ない。というか次の目的地が西にあるから都合がいいともいえる。
「倒したオークはどうするんですか?」
「それが問題でな、オークは元々鬼人族の国『エストハレン』、森人族の国『エーレイル』に発生する傾向のある魔物だったんだ。その肉は美味くてな、近くで大量発生したせいで求める声が多くある」
「つまり、持って来いと……。ちなみに解体は任せることはできますか?」
ハルトギルマスさんはしばらく考え込んで、試算が出たのか一つ頷いた。
「うん、無理だな。どうしても手が足りない」
うーん、困った。『雷牙』に教わりながら解体をするのは別に構わないけれど、時間がなあ。
危機的状況ならともかく、そうでもなさそうだから優先度は低いんだけど……。倒した個体をアルシェーラ様の森で養分にしてもらう方が時間はかからないんだけど。ああ、そうだ。
「あちこちで倒しているのなら、数は相当になるはずですよね? 消費が間に合わないような気もしますし、僕たちが倒した分は小人族の国に寄付してもいいですか?」
国境を閉鎖してまで被害を拡大させないよう動いていた。食糧が不足するのは目に見えている。国境のバリケードもどかさないといけないし、それを待てるかと言えば疑問しかない。
「それは構わないが、そうなると依頼料が出ないぞ?」
「いりませんよ。小人族の国は秘境の暴走を封じ込めるため国境を封鎖していました。被害も大きかったですし食糧不足に陥っていると思うんです。ですので食糧支援ですね。お金より人命です」
「……耳が痛いな。さすが魔女の子だよ」
「抓ってませんよ?」
「そう言う意味じゃねえんだわ。まあ理由は分かった、西に関してはお前たちに任せていいんだな?」
アリーチェを見れば頷いて応えてくれる。『雷牙』と『金の足跡』はこの場にはいないけれど、説明すれば納得してくれるだろう。
「さすがに全域はカバーできませんが、街道周辺なら大丈夫です」
「それでいい。助かる」
後でゾーイに連絡して、解体の手配を頼まないといけないね。
ハルトギルマスさんと握手を交わし、僕たちは傭兵ギルドへと向かう。なぜだかギルマスさんもついて来ているんだけど、打ち合わせでもあるんだろうか。
中に入ると刺すような視線が集まってくる。冒険者ギルドでは和やかな感じだったけど、ここではどうやら歓迎されていないらしい。
「オークが増えて余計な仕事が増えてるからな。対魔物は俺たちの領分だから歓迎はされないんだよ」
「そうなんですか、大変ですねハルトギルマスさんも」
「お前らもだからな?」
「えっ」
見回してみれば、確かに僕たちにも訝し気な視線を向けている人がちらほらと。
「おいおい、『鉄鬼』の倅じゃねえか。なんだってここに居るんだよ」
「あ、お久しぶりです」
「お久しぶりです!」
父さんの二つ名が呼ばれた瞬間周囲が騒めいた。冒険者だけでなく傭兵にも知れ渡っているらしい、今度教えてあげよう。
「改めまして、父レックスと母レナの子で、エルナーと申します」
「レックスさんの弟子のアリーチェと言います」
おお、母さんの二つ名も聞こえてくるようになった。なんか面白いなあ、とか考えているといつの間にか好奇の視線に切り替わっている。
「そういや自己紹介してなかったな。俺はゴルトーって言う。よろしくな」
「よろしくお願いします、ゴルトーさん。会えてよかった、探してたんです」
「お? という事は『ティータラース』に向かうのか?」
「はい。行くときは声かけてくれって言ってくれましたので、お声がけに。でも時期が悪かったですかね?」
ちょっと待っててくれ、と言ってゴルトーさんが奥に行ってしまう。
周りの傭兵たちが一斉に動いて僕たちを囲み、僕とアリーチェはその動きを見てすぐにでも戦えるよう意識を研いだ。
ハルトギルマスさんは面白そうにニヤニヤしている。周りの傭兵たちも同じような笑み。何を企んでいるのかは知らないけれど、威圧するようなこの動きは非常に不愉快だ。
伝わってくる感情も、侮るようなものばかり。僕たちが子どもだから? 見た目にも強そうに見えないから?
なるほど、僕たちは『雷牙』の名前に守られていた訳か。僕たちそのものはさしたる存在ではないという事なんだろう。確かに名は上げてはいないけれど、これでも王様に認められている冒険者なんだけどなあ。
アリーチェを見やれば、同じように僕を見ている。考える事は同じなんだろう、威嚇のために魔技を使う。
「「『雷迅』」」
バチリと空気が爆ぜる。演出のために僕とアリーチェを覆うように、見える濃度の黄金の魔力を揺らめかせるよ。
魔技はベテランの証という意識が浸透していてね、それを使う上に魔力操作の技量も見せているんだ。
対人主体の傭兵ならば、判断材料には十分でしょう?
アリーチェと共に牙を剥く。なるべく不敵になるように意識してね。
囲いが見るからに甘くなる。気圧されてくれたのならそれでいい。
けれど僕に宿っている優秀な妖精さんたちはね、傭兵たちの感情を絶えず僕に伝えてくれているんだよ。
侮られている。気圧されていても子どものくせにと下に見ている。
『アルシェーラの古代森』を経験して、『無垢の寄せ櫃』を経験して。ここで対人の経験を積むのも、いいのかもしれないね?
「うーん、『悪食の森』のほうがまだ怖いね?」
「あはは、そうだね。終わりが見えてるから気が楽だよね」
言葉を使うよ。煽るのさ、彼らの感情を。
父さんと母さんの二つ名を呟いたとき、確かに恐れの感情が伝わっていてね。二人の子である僕をどうにかして、優越に浸ろうと考えている下種がこうして囲んでいるんだよ。その外側には呆れた様子で眺めている傭兵も居るんだけど……、彼らも止めないんだからどうしようもない。
さあ怒れ。侮った子どもに馬鹿にされているんだぞ。表情をゆがめて一気に囲いを狭めてくる。
手が届こうかというその瞬間、僕とアリーチェはその場から転移して掻き消えるのさ。
まず驚愕した感情が伝わってきた。次いで焦りだね。その表情も見てやろうと囲いの外側から見やれば、引き攣った笑みを浮かべたハルトギルマスさんがいた。
……あー、うん。ごめんなさい忘れてましたッ!
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