空中・地上の二面戦
翌日、早めに起きて軽い食事を済ませて体の調子を整える。誰も疲れが残っているという事もなく、意気も上場だ。
「うーん、やっぱり台地前まで転移は出来そうにないですね。ひどい抵抗を感じます」
「ならまたあそこまで降りるしかないね。また魔物の群れが来ても私とエルナーで『浄魔の焔刃』を使えば、消耗は少なくて済むよね?」
「二人で燃やして、群れに投げればいいからね。台地の異様な魔力からは嫌な感じしかしませんでしたから、万全で挑みたいところだ」
全員の消耗ができるだけ少ない状態で台地に踏み込むのをひとまずの目標として、峡谷を下る地点へと跳ぶ。
相変わらず酷い淀みの魔力が向えてくれる。気持ち程度薄まっているように感じるのは僕の願望が見せているだけではないと信じたいところだね。
道中何事もなく台地へとたどり着き、全員が頷き合って意志を固めて踏み込むよ。
「卵……? 凄い魔力が内包されてる……」
「ッ! 霧が集まってきているぞ!」
霧が寄り集まって徐々に形を成していく。止める間もなくシャルナスの幻霧が卵の傍に発生してしまった。
ほぼ同時に卵にも罅が入った。魔力が膨れ上がり殻を吹き飛ばして巨大な鳥の魔物までもが発生した!
『ガルルルオオオオオオオオオオッッ!!』
『ケケケケケケケケッッ!!』
巨大な漆黒の享楽鳥。碌なことにならないだろうとは思っていたけど、ここまで酷い状況は考えていなかった。
「想定外で最悪な状況だな。ルルゥとシューゲルは享楽鳥の変異体を! カッシュは二人を守れ!」
「アリーチェとゾーイはシャルナスの幻霧に対応して。くーちゃんはアリーチェのフォローを」
ラーシャーさんと僕が指示を出し、短く返答して動き出す。
「クゥナリアさんとラムダ以外は遊撃……はダメか。シャルナスの幻霧の動きを徹底的に阻害して!」
「エルナーはどうする」
「僕は享楽鳥に対応します」
言い終わると同時に、一帯の霧が一気に散っていく。僕の周辺は風の場が広がっているようだ。
木の板を転送して上に乗り、風を一気に放って上空に飛んだ享楽鳥を追うよ。
『浄魔の焔刃』を纏わせ、飛んできた僕に気づいて動揺を見せた変異体に斬り掛かるッ!
ザシュウウウウウウウウッ!!
『ケケケエエエエッ!!』
咄嗟に避けられ僕の斬撃は片足を斬り落とすだけに終わる。やはり空の上では分が悪いね。
「だからといって、諦めるわけにはいかないんでねッ!」
『ケケケケケケケッ!!』
風が吹き荒れバランスが崩れる! 逆らわずその向きに風を放って距離を取るよ。
霧に突っ込み魔法は制御を失った。このままだと僕は真っ逆さまだけど、そうはならないって言う確信がある。
仲間がいるんでね。僕の無茶を良く知る友達の魔力の方に飛び込むのさ。
「エルナー!」
「さっすが、ラムダ!」
風の場じゃないから木の板で跳べはしないけれど。ならばと転移して享楽鳥の真上に出る!
背を斬りつけるも黄金の焔は表面を燃やすにとどまっている。魔力視で見えたのは体表を覆うように淀んだ魔力が溢れている様子。昨日の戦闘から対応されてしまったようだね。
まあ、構わない。これで倒せるのが一番だけど無理ならば拘る理由は無いからね。
風を纏った矢が享楽鳥の腹に突き刺さる。痛みで暴れる背中から退避して再び転送した板に乗る。
『ケケケケケケケッッ!!』
「もっと習熟しておきたいところだったけどね。空中機動できればもっと戦いやすいけど……まあ空のアドバンテージを取る手段があるだけましかな?」
憎しみが込められた享楽鳥の鳴き声に挑発で返す。魔力の高ぶりを感じるね、魔法でも使うつもりだろうけど……ベテランの魔法使いがそれを許す事は無いよ。
『ケケッ!?』
羽ばたくこともなく飛べていたのは風を起こしているからだろう。不思議と享楽鳥の周りは風の場が強いからね。そいつを火の場で埋め尽くされれば……当然墜落するさ。
動揺したね。落下する際に生まれる風を掴めればまだ立て直せただろうに、回転してしまっている。
「『火精』」
五体の蝶が落下の直線状に発現。次の瞬間には激しい爆発音が響き、享楽鳥が今度は打ちあがってくる。
濃い魔力を宿しているその体躯は異様に硬い。けれど衝撃は浸透するからさぞ効いたことだろうさ。視線が定まっていないから、脳でも揺れてしまったかね? これ以上にないほどにチャンスだよ。
「すぅ……――、はああああああああああああッ!!」
突きの形で『魔剣』を放つ。瞬間的にでも意識が飛んだ影響か、開いた口がこっちに向いていたからね。そこを狙ったよ。
澱んだ魔力を喰らう黄金の焔が享楽鳥の内部から猛り狂う。
体表と内部の両方から炙られた享楽鳥は、力なく墜落していくよ。
空は制した。地上に転移し、乗っていた板を拠点に転送しておく。
「享楽鳥の変異体はクリア! 応援行きます!」
「はやいな!?」
頑張りましたから。墜落した享楽鳥をちらと見やれば、お腹にはいくつもの矢が深々と刺さっている。ルルゥさんとシューゲルが全力で気を散らしてくれていたお陰で僕も楽ができたわけだ。
ゾーイが教えておいた『風錬』を使って応戦している。本来は動きの加速と補助なんだけど、『炎舞』同様に剣に纏わせることが出来ると分かってからは戦闘のバリエーションが増えた。
結果として今シャルナスの幻霧相手に有効打を与えられているようだね。
いや、様子がおかしい。
霧の体を吹き飛ばしたそばから復元されているみたいだ。
「クゥナリアさん、ラムダ! シャルナスの幻霧周辺の霧を吹き飛ばすよ!」
「「わかった!」」
それぞれ魔力を浸透させていく。二人と被らないようにシャルナスの幻霧上方の霧を吹き飛ばすつもりだよ。
十分に行き渡った魔力を意識して場を膨らませようとした瞬間、霧が動いた!
『ガルルルルルルオオオオオオオオオオオオッ!!』
霧がうねり僕達の魔力が拡散していくのを視認した。これも対策を取られているのか……ッ!
「流れが止まらない? ……ッ、まずい!」
淀みを多分に含んだ魔力と霧が一か所に集中していく。模られていくのは狼型、二体目のシャルナスの幻霧だ!
台地に踏み込んだ際に発生した白い個体と異なり、黒みを帯びている。二体の巨狼をこの霧の中相手をするとか、厳しいなんてもんじゃない。速攻で倒さなければ危ういだろう。
『雷迅』を使う。最大まで加速して一気に黒シャルナスの幻霧に迫り、『浄魔の焔刃』を叩き込む!
『グルルアアアアアアアアッ!』
「ぐうッ! 合わ、された!?」
黒い爪で剣を弾かれてしまった。噛みつき、体当たりと連続して攻め立ててくる巨体を躱して、距離を取ろうにも絶えず攻めてくる。
これが秘境の主か。アルシェーラ様は樹木だったから直接戦う術は無かったけれど、世界線の保持機構を守る為にはこれだけの強さが要るのか。
ああ、強い。僕が持ちうる最速は簡単に止められてしまった。攻撃の手段が一つ潰された。
それでもまだ取れる手段はあってね、魔法使いであり魔王としての力を見せてはいない。体内で練り上げた魔力を視たんだろう、身を低くして警戒したね?
『グルルル……ッ!?』
剣を防がれたならば僕が持ちうる最高のパフォーマンスを使うまでだ。最速でも最強でもなく、高次の存在からの贈り物たる地図魔法。
霧を散らさなければ転移も転送も出来ないけれど、地図魔法で出来ることはそれだけじゃあないのさ。
<シャルナスの幻霧・黒>に意識を向け、直接黄金の魔力を注ぎ込む!
「『神々の寵愛の焔』!」
『ガルルオオオオオオオオオオッ!?』
黄金の奔流が内部で暴れまわる。のた打ち回り、開いた口から溢れた魔法が周りの霧をも浄化する!
それでも巨狼の淀みが祓いきれないのなら、追加を加えてやればいい! 『浄魔の焔刃』を纏ったグラディウスが金色の線を空中に描いて踊る!
横に薙ぐ勢いのまま回転して下から斬り上げる。胴を、腹を、脚を、首を。斬り裂くたびに浄化の焔が勢いを増していくよ。全身を覆うまで攻撃の手を止めはしない!
『グルルル……オオオオオンン――』
消滅した黒いシャルナスの幻霧がいた場所には、未だ黄金の焔が燃え盛っている。そこから放たれる魔力を操って霧を喰らい、台地の広範囲を支配下に置いた。
「終わりですよ、シャルナス様。もはやここにはあなたが動かせる霧は無いでしょう。大人しく救われてください」
残る白き巨狼。地図魔法に記された名は<シャルナス>だった。
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