浄魔の焔刃
グラディウスが振るわれるたびに黄金の焔がウルフ周辺の魔力を巻き込みながら燃え続ける。
熱を感じる事は無い。『浄魔の焔刃』がもたらす焔は淀んだ魔力にのみ感応しているけれど、燃え広がるということは無さそうだ。
限定範囲の魔力の浄化。『神々の寵愛の焔』との違いは攻性であるのもそうだけど、斬るたびに魔力に作用するため、対魔物には特に効果的なんだと思う。
「え、あれっ!?」
アリーチェの困惑した声が聞こえたから見てみれば、アリーチェの『炎舞』の色が黄金色になっていた。
「『浄魔の焔刃』!? え、どうして?」
よくよく見れば、アリーチェの羽ピンが輝いていた。お揃いのこの黄金の羽ピンは僕の『誓約』によって変質したものだ。
つまり僕の魂の欠片を通じて、アリーチェにも黄金の魔力が通っているのだろう。
「そのままウルフを殲滅しよう! 説明は後でするよッ!」
「わかった! はああああああッ!!」
次々と駆けあがってくるウルフを倒していく。浄化の焔があちこちで燃え続け、不注意にもその焔に触れたウルフまでもが燃え上がる。
もはや峡谷より先へは進めやしない。黄金の焔が出口を完全に囲ってしまっているからね。
「はああああああああああああッ!!」
「――ッ! あはっ、ハハハハッ!」
ゾーイがウルフを突き飛ばして、駆けあがってくるウルフたちの中に落としていたよ。黄金に包まれている最中のウルフをね。
そのアドリブを見て思わず笑ってしまったよ、よくもまあそんな悪辣な事を思いつくもんだね。
悲惨なものだったよ。一瞬にしてウルフを構成する淀んだ魔力を喰らい、燃え広がった黄金はその規模を徐々に増していく。『神経喰らい』同様に密集した魔物に対しては非常に有効な攻撃手段となりそうだね。
「エルナー、ゾーイさん! このまま皆の所まで押し込もう!」
「了解ッ!」
「わかりましたッ!」
炎の中を突っ切って、足踏み状態となっていたウルフを叩き斬る。そうしてウルフの被害を拡大させていき、ゾーイもまた燃えているウルフを槍先に引っ掛けてぶん投げている。
燃え広がる黄金の焔が、淀んだ魔力を浄化していくたびに、黄金の場が拡大していく。
「エルナー、ご機嫌だね?」
「……そうかも、しれないね」
隣でアリーチェがそう言った。僕から発生した魔力が急速に広がっているのを知覚して、どうやら笑っていたらしい。自分で放つよりも圧倒的に楽に場が作れているし、それに今もなお魔力を喰らって燃え続けているのを感じてしまえば、次の手を考えるまでもなく集中して殲滅に動けるというものだ。
「このまま皆と合流しよう。その後は……僕の、“魔王”としてのお仕事だ」
笑顔で頷いてくれるアリーチェとゾーイ。浮足立ったウルフたちを斬って燃やし、ぶん投げて更に焔の勢いを増していく。先の方から戦闘音が聞こえてくるまでに近づいた僕とアリーチェはほぼ同時に、『浄魔の焔刃』を宿した剣を振りかぶる。
『魔剣』を使う。戦場を一直線に突っ切る二つの黄金の焔が仲間たちを素通りし、広がりに広がった黄金の場に想いを込めるよ。
「『神々の寵愛の焔』」
これまでにないほどに超広範囲の魔法行使だ。けれども隔離場所で行ったときよりも負担は無い。
燃えて留まっていた焔は想いを受けて拡散していく。霧を伝うように広がっていき、淀みを祓って霧の世界は僅かに金に染まる。
「さすがに一度じゃ祓いきれないか。でも、気分が悪くなるほどの黒さじゃなくなったかな」
魔力視を切り替え影響の推移を確認してみれば、直後という事もあるんだろうけど、漂う淀んだ魔力は薄まっているように感じる。再び一帯が霧の魔力に満たされたときにどれだけ薄まるかは予想が付かないところだけれど、『無垢の寄せ櫃』での戦いとしては上々と言えるはず。
「……魔物の気配も臭いも感じ取れん。状況はクリアしたと思うが地図魔法ではどうだ?」
「近くには確認できませんね。ラーシャーさんの言う通り、クリアです」
完全には警戒を解除せずに、戦闘態勢を解いていく。くーちゃんもこっちに飛んできて小鳥の姿でアリーチェの肩に止まった。
「それで、さっきの金色の炎はなんなんだ? あっという間にウルフが燃えていたから警戒していれば、俺たちは素通りしていくし。色合いからしてエルナーの魔法か?」
「ついさっき偶然できた魔技です。『浄魔の焔刃』といって、淀んだ魔力に感応して燃えます。最後に放ったのは『魔剣』となった『浄魔の焔刃』ですね」
そこからはもう、ラーシャーさんとカッシュさんに訊かれに訊かれまくった。『魔剣』の使い方とか『浄魔の焔刃』は自分達も使えるのかとか。
好奇心を満たしながらも周囲の警戒を怠らないのはさすがと言いたいところだけど、アルト達が率先して周囲を固めていてくれたのを見て、苦笑いもしようというものだ。
さきほどよりも小規模な襲撃が何度かあったけど、『浄魔の焔刃』を主体にした戦術で撃退していき、進んだ先で台地となった場所に出た。
「……あの台地に、なんだか強い魔力が視えます。ここを通らないといけないみたいですが……一度退きましょうか」
魔法使い組とアリーチェ、ゾーイはまだ余裕がありそうだったけど、他の皆は汗が滴っていた。『身体強化』を維持し続けたために体内の魔力が底を覗かせているんだろう。この状態で向かうのは無理があるだろうということで、クゥナリアさんに魔力の空白地帯を作ってもらい、地図魔法でゾーイの館へと帰還する。
「悪い、迷惑かけた……」
戻るなり、アルトに謝られてしまった。
「気にする事は無いよ。魔力の枯渇は結構キツいから、今日は早めに休んでね」
「体験者は語る、ってやつか」
どういう……いや、墓穴を掘りそう。笑ってごまかして僕も早めに休むために部屋へと逃げるよ。
途中でジン、ラムダ、シューゲルの三人を見つけた。難しい顔をしてなにやら話し合っているみたい。声をかけるかどうか迷ったけれど、僕という人間は好奇心に勝てるように出来てはいないようだった。
「三人ともどうしたの?」
体がこちらに向いていたジンは別として、ラムダとシューゲルの肩が跳ねた。
「あ、ああエルナーか。いやまあ、ちょうどエルナーの事を話してたんだよね」
「アルトとメローネを除け者にして?」
「ふふっ、エルナー、あの二人はそっとしておいてください」
ジンが優し気な笑みを浮かべている。ははぁ……、なるほどね。
「秘境でさ、エルナー叫んでいたでしょ。“魔王”とか世界とか。きっと俺達の知らないことをエルナーは抱えていて、巻き込まないように伝えていないんだと思うんだけどさ。いつかは話してくれるのかなあ、ってね」
「あー、うん。シューゲルの考え通りだよ。いつかは話すけど……そのいつかはまだ待っていてほしい」
頭を下げるよ。友人たちに隠し事をするのは……まあ、ままある事だけど。大ごとだからね、なるべく余計な心労はかけたくないんだ。
「まあ、それはいいよ。エルナーだしね」
「僕だからってどういう意味さ」
「そんなことよりも、エルナーは“魔王”と呼ばれることを受け入れたんだね?」
納得いかない。
どう思われているのかは後でゆっくりとラムダとお話しするとして、今後の活動に関わる事なので周知させるいい機会かな。
「うん。普段の冒険はエルナーとして。秘境関連は魔王として活動することにしたよ。これも隠し事に関係することだから詳しくは言えないけれど、そういうことになった」
「ではこれからは、私も魔王様と呼びますね」
「待ってジン、お願いだから普段は名前で呼んで! 普段使いされると結構困ることになる……」
「ええ、もちろん冗談です」
ジンの冗談など初めて聞いた。ともあれこれで少しばかり肩は軽くなったかな。
「妹ともども、これからもよろしくお願いしますね。“魔王様”」
…………。本当に冗談だよね?
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