9、無限の宝箱
ベイラ遺跡のトラップをもれなく破壊したあと、俺たちを迎えにやってきていたレイさんと一緒にギルドの地下室へと戻ってきた。
「お待たせ―、さ、オープンしよう!」
俺たちが地下室へ降りる時には、すでに準備は万端だった。
「今度は誰が開けるー?」
「よろしければ私が」
「そうだな、この前順番飛ばしちゃったからシェイドでいいか?」
「うむ、問題ない」
どうやら、前回は俺に順番を譲ってくれたみたいだった。悪いことしたな。しばらくは勧められても遠慮しよう。見てるだけで楽しいし。
「では、僭越ながら……オープンします!」
紫の宝箱に鍵は掛かってなかったので、パカリとスムーズに開いた。
が、次の瞬間、宝箱の中から無数の魔物があふれ出して襲いかかってくる。瞬時に戦闘態勢にはいり、シェイドさんとレイさんはすでに俺たちにバフの魔法をかけていた。
「全員即座に殲滅だ! 気ぃ抜くなよ!!」
「任せるのだ」
アカシさんが先頭切って魔物に切り込んでいく。続いてマリナさんもバトルアックスを軽々と振り回し、側にいる魔物を倒していく。
「うわー、モンスタートラップか!」
「仕方ありませんね。補助は任せてください」
レイさんは攻撃魔法に切り替えていて、シェイドさんはシールド展開と回復を担っている。
「俺もガンガン倒します!」
俺は完全即死と敏捷を活かして、沸いてくる魔物を片っ端から片付けた。
低級の魔物のゴブリンに始まり、中級のオーガや骸骨戦士、最後には上級の魔物であるアークデーモンやキマイラなんかも出てきてくる。初めて倒す魔物もいたけど、すべて完全即死で一撃だった。
このスキルに進化してから、戦闘が格段にラクになったのだ。
「ハイヒール!」
攻撃を受けたら即座にシェイドさんが回復してくれる。
「ヘルファイア!!」
魔物に取り囲まれたら、レイさんが一掃してくれる。
「雷撃一閃!!」
マリナさんはバトルアックスで魔物をさばきながら俺の背中を守ってくれる。
「ロブショット!」
アカシさんは魔物からドロップ品を奪い取りながら、倒していく。確かに盗賊らしいけど、一撃が強力すぎる。あれはどう見ても盗賊の一撃ではない気がする。……頼もしいボスで何よりだし、さすが伝説の大盗賊だ。
「……ようやく終わったな」
アカシさんがふぅっと一息ついて、終わりを確認した。
「今日のはいつ終わんのかと思った」
「まさしくな。軽く500体は倒したのではないか?」
レイさんの気持ちはよくわかる。魔物が湧き出してから、かれこれ3時間はずっと戦っていた。シェイドさんの言う500体も大袈裟ではない。
「そのうちの半分はハルが倒しておったぞ」
「完全即死とあのスピードだもんな。広範囲魔法打つのと変わんないよ」
「ハルは攻撃もほぼ受けないので、ヘイスト二重掛けの方がいいかも知れませんね」
みんなは褒めてくれたけど、あのアカシさんの強力な一撃を見たあとではとても胸を張れないと思った。だって完全即死のスキルないのに一撃で倒してたんだよ? 一生敵わない気がする。
「いや……アカシさんには敵いません」
そこで、最終確認をしていたアカシさんが声を上げた。
「うん? 宝箱に何かあるぞ?」
その声に全員がカラになったと思っていた宝箱を覗き込む。そこには鮮やかな黄色の、湾曲した細長いものが置かれていた。100人見たら100人が同じ名称を思い浮かべるものだ。
「え……これは……」
「バナナ……ですね」
「バナナだな」
「でも、バナナに『希望』って書かれてますよ?」
色鮮やかな黄色の皮に黒い文字で書かれていた。そして小さくひとりで食べて下さいと補記までされている。一体いつからこの宝箱に入っていたのか、食べても問題ないのか、いろいろと疑問はあるが、このメンバーには杞憂だった。
「ここは平等にジャンケンだな。ハルも絶対参加だからな」
もはや食べることは大前提だ。そして、こっそり辞退しようとしていたのに、退路を絶たれてしまった。ボスの命令には逆らえない。
「よーし! 絶対勝つ!!」
「私も負けません」
「何を言う、譲る気はないぞ」
そうですよね、ユートピアの人たちだもんね。安定のガッツキでむしろ安心するわ。
「後出しは即失格だ! いくぞ! ジャン!ケン!ポン!!!!」
そして運命の瞬間が訪れる。全員パーで俺だけチョキだった。たった一回で決着がついてしまった。
「うわー、ハルか!」
「くっ、仕方ありません、ルールは守らねば……」
「ぬぅ……意外なところ強敵がいたな」
レイさんもシェイドさんもマリナさんも、ものすごく悔しそうだった。なんだか申し訳ない。無欲で挑んだのがよくなかったんだろうか?
「ハル、ほらお前の物だ。せめてここで食べてくれ。効果が知りたい」
ものすごく真剣な、ダンジョンに潜るときより数段真剣な表情でアカシさんが頼んでくる。
そこまで言うならと、みんなの前でバナナを剥いて食べてみた。
うぅ、視線が痛い……。
カプッ。もぐもぐもぐもぐ……ゴックン。
味は特段変わったものではなかった。イケると思ったので、そのまま勢いで一本を食べきる。
その時、頭の中にピロンと音が鳴って、世界の声が聞こえた。スキルの進化やレベルアップしたときに聞こえてくるヤツだ。
『幸運が9999に上昇しました』
「は!? マジか!!」
思わず叫んだ声に、「何だ! 何があった!?」と全員が固唾をのんで見守っている。
「……幸運が9999になりました」
「なぁーにぃー!?!?! そんだけ幸運あったらレアドロップ取り放題じゃないか! パーティーメンバーにも効果あるかな!? レアなヤツ、ガッポガッポ!! うはっ!!」
アカシさんが壊れた。
「まさか……もしかして数値が振り切れてませんか?」
シェイドさんは興奮しすぎて眼鏡が曇っている。
「えー、いいなぁ! そんだけあったら、オレ好みの熟女に出会い放題じゃん……むふ、むふふ」
レイさんは妄想を始めた。超絶イケメンなのに好みのタイプはどっしりした熟女だというのだから、人間ってわからない。
「なんと! 幸運が上がったのか……ではこの箱はハッピーと命名しよう!」
空になった宝箱は、すべてマリナさんが回収していた。今回の命名はすんなり決まったようだ。
宝箱の中身は変わったものだったけど、ユートピアのメンバーもなかなか個性的だなぁと思うハルだった。
しかし、それにすでに違和感を感じないほど馴染んでいるとは、ハル自身まだ気づいていない。






