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6、しゃべる宝箱

 



 洞窟を出るとちょうどジェレミーたちが到着したところだった。俺の心臓がドクンとうねり、嫌な汗が背中を伝う。


 今回の契約では宝箱の持ち出しがあるので、勇者に見つかっても問題ないことにはなっていた。

 だけどアカシさんはサッと俺を隠して、勇者たちに付け入る隙を与えない。


「これは勇者御一行様、トラップはすべて撤去してます! どうぞお進みください! では、我々はこれで失礼いたします!!」


 ジェレミーたちの返事を待たずに、レイさんの転移魔法で先日完成したばかりの地下室へ移動した。一瞬で景色が変わって、ジェレミーたちに気づかれずにすみホッとする。

 ジェレミーたちとすれ違っただけでよかった……まだ、心臓がおかしい感じがする。


「ハル、大丈夫か?」


「はい、平気です」


 強がりだったけど、アカシさんたちに心配をかけたくなかった。心配そうにのぞいてくるアカシさんに、ニカッと笑ってみせる。


「……そうか、じゃぁ、開封はハルに任せた」


「え……?」


「今日はハルのおかげで楽できたしなー」


「ええ、せっかくですから試してみてください」


「うむ、今日は譲ってやろう」


 レイさんもシェイドさんも、マリナさんまで俺に譲ってくれた。正直トラップ付き宝箱って分かった時点で敬遠してたから、開けるのは初めてだった。


「あ、ありがとうございます……」


 好意に甘えて宝箱を開けてみることにする。

 アカシさんの鑑定でも、どのようなトラップが仕掛けられているのかは、調べられないそうだ。まさにこのために俺が雇われたんだろうけど、念のために確認してみる。


「あ、これ先にトラップ破壊した方がいいですよね?」



 一瞬の沈黙の後に、みんなが一斉に吠えた。



「は!? 何を言っているのですか!? それだけは絶対にダメです!」


「トラップを破壊してしまったら、楽しみがなくなってしまうだろう!?」


 いつも沈着冷静で穏和なシェイドさんがマジ切れ寸前だ。そしてマリナさんまでもクワッと目を見開いて、俺の腕をギリギリと握りしめてくる。ちょ……本気で腕折れそうなんですが!?


「オレは開けば何でもいいけど、ちょっともったいないかもなぁ」


 レイさんはニコニコしてるけど、決して止めてはくれない。つまり、みんなの意見に同意という事だ。


「いいか、ハル。ここにいる全員はトラップの攻略も含めて、そういうのが好きな奴らばかりなんだ。だからこのままオープンだ」


 最後にアカシさんが俺の肩に手を置いて、グググと力を込める。


「わ、わかりました! 俺スキル使っちゃいけないんですね?」


「宝箱についてはトラップ破壊だけ禁止だ」


 ここまではっきり言われたんだ、致しかたない。みんなの楽しみを奪うのは本望じゃない。

 それならと、宝箱の蓋に手を伸ばした。




 ムニュッ。




 俺は固まった。

 ナニ今の感触!?!?


「どうした、ハ————」



『ちょっと! ここはどこなのよ!? アタシをどこに連れて来たのよ!?』



 声が聞こえるのは、宝箱からだ。その時宝箱の上蓋の境目にどデカい唇が現れた。

 やけにツヤツヤしていて、真っ赤な唇が気持ち悪い。しかし声が……声が野太いダミ声なんだ。この宝箱は男なのか? そもそも宝箱に性別なんてあるのか!?


「な、何ですか……? コレ」


「今回はしゃべる宝箱か……なかなか面白いな」


「だけど、コレどうやって開けるんだろな?」


 アカシさんとレイさんがワクワクした顔で覗き込んでくる。


「これは……この口をなんとかしないと宝箱が開けられませんね」


「口だけ切り落としたらダメなのか?」


 シェイドさんとマリナさんがボソボソと相談している。


『ちょっと! アタシの質問に答えなさいよ! しかも今切り落とすって言った!? ヤダァ、怖すぎるわ!!』


 いやいやいや、怖いのはこっちだから! しかも意外と地獄耳ですね! と言いたいのを我慢して、声をかけてみる。


「あの、どうしたら宝箱開けられるんですか?」


『あら、貴方カワイイ声ね。いいわ、貴方なら教えてあげる。アタシのこのフワッフワの唇に手を入れて』


「え!? イヤ……それはちょっと」


 正直な気持ちで答えてしまった。だってこの唇気持ち悪いんだもん。


『ちょっと、そこで引かれたら傷つくんですけど!? アタシの唇の中に宝箱を開けるスイッチがあるのよ!』


「は!? スイッチあるの!?」


 なんという衝撃の事実だ。この気持ち悪い唇の中にスイッチがあるだと!? なんていう所にスイッチ作ってくれたんだバカヤロー!!


「ハル、頑張れ」


 それを聞いたレイさんが無責任に応援してくる。超絶イケメンの笑顔がムダに眩しい。


「……他に方法はないんですか?」


『ないわ。それから、あなたじゃないとイヤよ。他の人間なら腕ごと噛み切るわ』


 もしかしたらと、一縷(いちる)の望みをかけて聞いてみるが、即答だった。


「ハル、宝箱のご指名だ。やるしかない」


「ご指名……なんて羨ましい」


「いいなぁ、オレもご指名されたい」


「うむ、名誉なことだ」


 いやいやいやいや、できることなら本当に心の底から代わってほしいですよ!! だが、そんなことを言っても、どうにもならなそうだ。

 俺は、覚悟を決めた。


「わかりました……いきます」


 意を決して巨大な唇の中に、勢いよく手を突っ込む。

 その瞬間、俺の手をジュルっと何かか舐めまわして、吸い上げる。



「うわあああああああああ!!!!」



 ゾワゾワと背中を駆け上がる悪寒に耐えきって、スイッチらしき物を押した。押した瞬間すぐに手を引き抜いたけど、鳥肌がおさまらない。

 俺は叫ばずにはいられなかった。アレが何だったのかは、きっと考えていけない。ダメージが……デカすぎる。


 そして、俺ひとりの尊い犠牲を払って宝箱が開いた。



「「「「開いた!!」」」」



 中から出て来たのは、『モリリンの接吻』というあの唇を模した燃えるような紅い宝石だった。俺だけ鳥肌がぶり返す。

 見たこともない大きさのそれは、アカシさんが鑑定したところ、売ると1億ゼルの価値がある宝石だった。それだけあれば立派な家が3軒は建てられる。


「よーし! ハル! よくやったな! おかげで当分の運営資金が稼げたよ!」


 誉められた……たしかに何かがゴッソリと持っていかれたけど。よくやったと誉められて、みんなも笑顔になったのはすごく嬉しかった。こんな風に認めてもらえて、ここにいてもいいと言われてるみたいで嬉しかった。


 アカシさんたちが興味があるのはトラップ付きの宝箱なので、宝石はすぐに売り払い、俺たちの給料やダンジョンの潜るための準備金にあてられる。



 ちょっと変わったギルドだけど……みんな笑顔になるのが嬉しくて、次の宝箱がどんなものなのか、楽しみに感じるようになっていた。




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