5、ヘラクレート洞窟とハルの実力
「ふふふ……聞いて驚け! トラップ付き宝箱は今後、私たちのものだ!!」
アカシさんはすっごいドヤ顔で高らかに宣言した。そして続けて先ほど出向いていた、王城での出来事を話してくれた。
実はあまりにもジェレミー王子の仕打ちが酷すぎて、国王陛下への報告の際に俺の事も話してくれたのだ。他のメンバーにも今回の出来事を俺から伝えたら、ものすごく怒ってくれて嬉しかった。
アカシさんが事実を報告すると、国王陛下はなんとジェレミーに代わってと謝罪したそうだ。その場が騒然となって、ハルにも見せたかったよとニカッと笑っていた。
俺の状況を汲んで王家の雇用は見合わせることになり、今後はユートピアを懇意にすることになったそうだ。
依頼内容もみなおされ、ジェレミーたちよりも先にダンジョンに潜り攻略しやすいようにトラップ解除をする。トラップ付き宝箱は危険なので持ち帰るという内容だった。
報酬はトラップ付き宝箱の中身だ。トラップ付き宝箱は危険なだけに、中身も目を見張るお宝や幻のような武器や防具が出てくる。こういう宝箱は必ずひとつはダンジョンにあるので、依頼内容の報酬としては十分だった。
アカシさんは即決したと胸を張っていた。
「マジで持ち帰りオーケーなの!? うわ! 国王陛下は神かよ!!」
レイさんは感激して天を仰いでいる。その隣でシェイドさんが眼鏡を中指で押し上げながら、ニヤリと笑っていた。
「それなら、ゆっくりトラップ解除を堪能できますね……フフフ」
マリナさんは宝箱の中身というか外側に強い興味を示していた。
「それでは、中身を回収した後の箱ももらえるのか!?」
そうなんだ……ギルドに入ってから知ったんだけど、ここのメンバーはもれなくトラップ付き宝箱が大好きな人たちだったんだ。
そのトラップを解除したり、宝箱をオープンすることに極大の喜びを感じる変人……もとい特殊な、いや、独特な趣味をもつ冒険者の集まりだった。
その熱意が半端なくて、ついて行けるか少し不安だ。
「よし、トラップ付き宝箱を開封するための専用部屋を作るぞ。お前ら手伝え!!」
「「「了解です!!!!」」」
アカシさんの号令で、全員テキパキと動き出す。いつものまったりした感じはまるでない。
まずは店舗兼寮の地下にレイさんが土魔法で巨大空間を作って行く。次にシェイドさんが結界を張り、肉体強化を全員にかけた。
そこから全員で壁を整え石板を張り、強化魔法をかけてを5回繰り返してようやく完成した。
白い壁の何もない巨大空間がたった1日で完成する。これだけ頑丈なら、ドラゴンが暴れても問題ないくらいだ。
こんなに好きなことに夢中になれるなんて……ちょっと羨ましい。でも、みんなすごくいい顔してる。俺もあんな風になれるかな……なりたいなと、思っていた。
***
ジェレミー王子が次に目指すダンジョンは、事前に国王陛下から通達が来ることになっていた。その指示書に従って準備を整える。
今回はヘラクレート洞窟だ。王都エスリンから南に30キロメートルのオリンパス山にある巨大洞窟で、地下5階層まである。洞窟というだけあって足元が悪く、魔物はそんなに強くないが剣や魔法の腕が問われるダンジョンだ。
それゆえ中堅クラスの冒険者へランクアップしたい時に挑戦するダンジョンだった。
ダンジョンの整備にあたって国王陛下から注意事項を伝えられていた。
ダンジョンの魔物は襲いかかってくる魔物以外倒してはいけない。ダンジョントラップはできる限り解除する。トラップ付宝箱は持ち帰り、中身は報酬として回収する。以上だ。これを踏まえてダンジョンのトラップ解除にあたる事になった。
「よし、じゃぁ、行くよー」
ちょっと気の抜けたアカシさんの掛け声で、ヘラクレート洞窟の中へと足を進める。
「うぃーす、じゃぁ、魔法で気配遮断かけるね」
「では僕は万が一の為に攻撃無効の結界を張っておきましょう」
「私はいつも通り最後について行くぞ」
「うん、じゃぁ、ハルは先頭ね」
レイさん、シェイドさん、マリナさんに続いて、最後にアカシさんがサラッと言い放つ。
「え! 俺が先頭ですか!?」
「そう、ちょっとハルの実力を直接見ておきたいし今回は頼むね。国王陛下の許可ももらってるから」
「そういう理由なら、わかりました」
俺だけ気配遮断はあえてせずに、洞窟を進んでいく。実力が見たいということは、どの程度実戦で使えるのか確認したいんだろうと思う。
洞窟の中は薄暗いので、魔法使いや白魔道士が周囲を照らす魔法を使うのが通常だ。今回はシェイドさんがその役目を担ってくれている。
足元が悪くても暗殺者にはあまり影響がない。もともと足場のないようなところを歩くスキルや、人が登れないような場所もスルスルと登っていくスキルが身に付く職業だ。
「完全即死」
いつものように襲いかかってくる魔物を愛用の双剣で瞬殺する。このスキルを使えば、敵の弱点を付けるので一撃で倒すことができる。
そして、アカシさんの神の鑑定で見つけたトラップに手を添えた。スキルの発動と共に、魔力を注ぎ込む。
「トラップ完全破壊」
俺の手から放たれた魔力は黒い蛇の形をなして、意志を持ったかのようにトラップへ向けて伸びていく。そしてその口を大きく開けて、鋭い牙でトラップを破壊していった。
破壊したトラップは二度と復活しないから、帰り道も安心なんだ。
こんなに軽い気持ちでダンジョンに入れるのが、すごく嬉しかった。久しぶりの戦闘だけど、全く問題ない。むしろ調子がいいくらいだった。
「これは……想像以上にヤバいな」
アカシはハルに聞こえないように小声でつぶやく。
「えぇ、もはや結界をかける意味がわかりません」
シェイドもアカシに同意のようだ。先ほどから目の前で起きている事実に、感嘆している。ハルは一匹も撃ち漏らすことなく魔物を片付けている。しかも、すべて一撃だ。
「マジすげぇ……完全即死って最強じゃん」
完全即死のスキルは一撃で敵の急所をつくので、無駄がない。ある程度の敏捷があれば多数の魔物も瞬殺できるのだ。
「トラップが破壊されるから復活の心配もないな」
そしてハルのもうひとつの強みである、『トラップ完全破壊』はただのトラップ解除と違い、トラップそのものを破壊するので復活したトラップにとらわれることがない。
「アカシさん、すごいもん拾いましたね……」
レイはハルの無駄のない、洗練した動きに目を奪われていた。どれ程の経験を積めばこんなにスキルを磨きあげ、進化できるのか。
「いやぁ、我ながらいい仕事したと思うわ」
そしてアカシは腕組みしながら自画自賛していた。
***
そして、あっという間にスルスルと最下層へ到着してしまう。気配遮断をかけずに魔物を倒しながら、なおかつトラップを破壊しながら来てこのスピードはありえなかった。
「後ろの護衛を気にしなくていいなんて、すごくラクできました。さすが伝説級の冒険者の皆さんです」
さらにはこんなことまで、爽やかな笑顔でのたまったのだ。自分の価値にまるで気づいていない。
「えーと、ボスの部屋はノータッチでいいんですよね?」
「あぁ、勇者があとで倒すから放置でいいよ」
ハルの問いにアカシは簡潔に答える。ここまでお膳立てしたのだから、あとは勇者の問題だ。これ以上は何もやってやる気にはならない。
ほんの少しアカシの胸に渦巻いた黒い感情が、レイののん気な声に霧散していく。
「アカシさん、トラップ付きはどの辺ー?」
「それはこっちだ」
アカシさんについて行くと、小部屋の中に赤い宝箱が置かれていた。
見た目は変わらないのになとハルは思う。
「これがトラップ付き宝箱なんですか?」
「そうだ、私の鑑定で視たから間違いない」
確かにそれなら間違いない。ダンジョンの中では転移魔法が使えないので、とりあえず外まで運び出す。レイさんの転移魔法で持って帰って、あの宝箱専用の地下室で開封することになった。
一体、どんなトラップが仕掛けられているのか、それはアカシの『神の鑑定』でも鑑定できないものだった。






