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31、勇者の末路




 勇者である私はついに魔王城へと到着していた。仲間はクララのみだが、エリーニスの遺跡もクリアできたので魔王の討伐については不安はない。勇者である私ができなければ誰が討伐するというのか。


「クララ、行くぞ」


「はい……」


 クララは不安そうにしているが、何をそんなに心配しているのだ。魔王を倒せば私の将来は安泰だ。なにも恐れる事はないのだ。


 魔王城では一匹も魔物が出てこなかった。豪奢な内装の通路を進んでいく。魔王はどうやらかなりぜいたくな暮らしをしているらしい。腐っても王子であるジェレミーはその価値を理解できた。


 どこから奪ってこの暮らしを維持しているのか……やはり魔王は私が倒さなければならない存在だ。

 魔王城の中を歩き回り、やがてひとつの扉の前にたどり着く。そっと扉を開けると何やら話し声が聞こえてきた。



「この私を誰だと思ってるの。ギルド長の命令なんだから黙って聞きな」


「ありがとう……ございます」



 一体誰が魔王城のしかも魔王の間に来ているというのだ!?

 勇者である私の功績を横から奪うつもりか!?


「そこいるのは誰だ!? 勇者である私が魔王を倒しに来たのだぞ! さがれ!!」


 視界に飛び込んできたのは、なんとハルたちトラップ解除のメンバーであった。これは何の真似なのだ? もしや魔王を倒して、私の顔に泥を塗るつもりではないのか!?

 そんなことはさせてなるものか!!


「貴様ら早々に立ち去れ! 私は魔王を討伐しに来たのだ!!」


「お待ちください、ジェレミー様。この魔王には敵意がありません。討伐しなくとも、もう魔物はダンジョンに復活しません」


「そうです、俺が責任もって面倒見るので、危険はありません! 話を聞いてください!」


 魔王の討伐だと告げているのに、訳のわからない事を言って、ハルたちは魔王を庇うようにしてその場にとどまっている。私の神経を逆なでするのに十分だった。


「もうよい! 貴様らごと切り捨ててくれる!!」


「ジェレミー様、待って下さい! 話くらいは聞いても————」


「クララ……貴様までっ!! それならお前から切り捨ててやる!!」


 我慢の限界だった。目の前にいる魔王を倒せば、私の未来は安泰なのだ。今までずっとずっと耐えてきたのは、ここが終わりだと思ったからだ。その私の苦労を終わりにするつもりはないのか!?

 どいつもこいつも、私の邪魔ばかりだ!!!!


 怒りに我を忘れ、剣を振り上げた。クララは驚き固まっている。まずはクララを片付けて、次はハルたちだ。私の邪魔をするなら、全員切り捨ててやる!!


 だが、私の切っ先がクララに振り下ろされる事はなかった。

 クララと私の間に、黒装束の男が入り込み剣撃を受け止めていた。



「ここまでです、ジェレミー様。続きは国王陛下の御前でお願い致します」


 黒装束の男はミハイルと名乗った。




     ***




 王都エスリンにそびえる王城に私とクララ、それからユートピアのメンバーも呼び出されていた。

 もちろんあの魔王もユートピアのメンバーとして父上の前に跪いている


 王の謁見室には、父上と正妃、側室である私の母、国の右腕の宰相、それから王太子の第1王子、第2王子が同様に集められていた。

 そして魔王城に現れた、ミハイルという黒装束の隠密も同席している。彼らは跪いている私たちの斜め前方に並んで立っていた。


 最初に口を開いたのは父上だった。



「まずはジェレミーのパーティーメンバーだった、クララ・ビスカルとハル・スプリングスに礼を言う。息子が世話になった。それからギルド・ユートピアにおいては安全な魔王討伐の旅のための尽力を感謝する」


 父上は国王としてたかが冒険者どもに礼を言ってた。そのような者たちに礼など必要ないというのに。


「ジェレミー、其方の行動や実績はここにいるミハイルからすべて聞いておる。申し開きはあるか?」


 その言葉に私は顔をあげた。ついに父上に認められる時が来たのだ。最後の魔王討伐は邪魔をされたが、それまでの功績は理解されているはずだ。あれだけ苦労したのだ、私の努力は無駄ではなかったのだ!


「あれだけの功績を立てた私なら、必ずこの国のお役にたつと存じます。これからは父上の元で腕をふるう所存でございます」



「…………功績と申すか」



 父上の声音が地を這うようなものに変化した。眉間には深いシワが刻まれている。何だというのだ? 私の功績が正しく伝わっていないのであろうか?


「はい、数々のダンジョンを攻略して、魔王城までたどり着いたのです。魔王に関しては邪魔が入りましたが————」



「大馬鹿者がっ!!!!」



 ビリビリと空気が震えるほどの覇気で、一喝された。

 私が訳が分からず、ただ父上を見上げていた。


「お前がしてきた事は、犯罪だ! ミハイルからの報告と、この黒耀の仮面で確認もしておる! 王子として国民の安全を守るべきなのに、お前がやってきたのは民を傷つける行為ではないか!!」


「そ、そんなはずは……民を傷つけてなど……」


 私が民を傷つける? 父上は何を言っているのだ? 私は王子として当然の振る舞いをしてきたのだ。


「今までどれ程の冒険者を辞めさせた? 辞めた者はどうなったのか知っているのか?」


「いえ……過酷な旅についてこれなかった脆弱な冒険者だったのです」


「辞めた者は……心を壊したり、怪我で冒険者ができなくなっておる。そこのハルが回復したのはユートピアのメンバーの献身的な介護があったからに他ならない」


 それはまるで私がハルを傷つけたような言い方ではないか。何故だ? 私は耐えたのだ!


「それから、お前は仲間をボスの前に置き去りにしたな」


「それは、確かにそうですが……そうしなければ勇者であり王子でもある私が、死んでいた可能性があります」


「では、民の命をかけるほどの価値がお前にあるのか?」


「そうです! 私は選ばれた勇者であり、この国の王子です!!」


 父上はますます眉間のシワを深くした。何故わかってもらえないのだろうか?


「王子である兄たちは、身を呈して民を守っておる。そして国を豊かにするために勤勉でもある」


 それは知っている。昔から兄上たちにも散々言われてきた。少し息抜きしたくらいで、叱られてウンザリしていたのだ。


「ジェレミーを勇者に選んだのは、怠け癖のあるお前が鍛えられ、魔王を倒す事ができれば軍部のトップ据えようと思っていたからだ。だが、実際は怠け癖も治らず、女性をたぶらかし民を虐げる報告ばかりであった。最後には仲間を自ら切り捨てようとしたな」


 ギロリと父上の双碧が私をにらんだ。そこには以前のような家族に対する親愛の情は感じられなかった。為政者の眼だったのだ。




「そのような者を私の息子とは認めない。ジェレミーはこの時を以って、廃嫡とする。今後はエストラーダの名を名乗ることも、この国の地を踏むことも許さない。制限魔法をかけ去勢したうえで国外追放とする」



「そんな……何故、ですか?」


 かすれた声で父上にすがりつく。何故だ? 母上はそれでいいと教えてくれたのだ! 煩い兄上と違って、優しく教えてくれたのだ!


「理由がわからぬ愚か者と話す事はない。連れてゆけ」



 そして私は薄汚い地下牢へと、放りこまれたのだった。


 その後、エストラーダの名を口にできないよう、また二度と女を抱けないように呪いのような制限魔法をかけられた。



 そしてほんのわずかな路銀だけ持たされて、私はエストラーダ王国から追放された。




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