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29、アカシ・パウエルの決意




 私は走った。

 ダンジョンを駆け上がり、街のギルドまで全力で走った。


「誰か! 誰か助けてください!! アオイが! アオイが——」


 ギルドに飛び込んだ私は、受付のお姉さんやギルドにいた冒険者の人たちに助けを求めた。

 でもその先の声が続かない。今見た光景がウソだと信じたかった。


 私の様子がおかしい事に気付いた受付のお姉さんが、ギルド長にすぐ報告してくれた。ギルド長はすぐさま街の精鋭を連れて、さっき見つけたトラップ付き宝箱へと向かってくれたのだ。

 私も場所を案内するために一緒に向かった。




「ここです。この宝箱です」


 念のため鑑定のスキルを使って、先程の宝箱か確かめる。間違いなくトラップ付きだった。


「さっきは開けた瞬間に、紫色の蔓草が伸びて来たんです」


「わかった。俺が開けるから、みんなは準備しておいてくれ」


 そして街一番の剣士が宝箱に手を伸ばした。

 開けた宝箱から出てきたのは、このダンジョンでは見かけないマネーモンキーだった。



「モンスタートラップか!」

「だけど、コイツたしかマネーモンキーだよな!?」

「倒したら1億ゼル手に入るけど、めちゃくちゃ強い魔物じゃないか!?」

「どの道倒さないとクリアにならないだろ!」

「クリアしないと、取り込まれた少年が出てこないのかもしれない」

「とにかく全員で倒すぞ!!」



 金色に光る身体は素早く動き回り、なかなか攻撃が当たらない。子ザルのような見た目に反して防御力も高く、攻撃が当たっても一撃でしとめるのは困難だった。


 それでも、一番弱いくせに必死になって食らいつくアカシのためにも、取り込まれた少年を助けるためにも、みんな必死になって攻撃を仕掛けた。



 これを倒したら、アオイは戻ってくるの!? さっきとなんだか違うけど、本当に大丈夫なんだよね?



 私はなんとか不安を抑え込んで、魔物を攻撃した。

 少しずつ少しずつ、マネーモンキーの体力を削っていく。たった一匹の魔物に、駆け出しの冒険者がひとりと街の精鋭が7人がかりで苦戦している。


 いかにトラップ付き宝箱の魔物がけた違いの強さなのか理解できた。それなのに、私とアオイなら何とかなるなんて、どんなに傲慢な考えだったのだろう。


 自分の浅はかさにギリギリと奥歯をかみしめた。

 どうにかマネーモンキーを倒せた時には、みんな魔力も底をつき防具や武器も壊れる寸前だった。



「アオイ! アオイ! 出ておいでよ! ねぇ!!」


 私はマネーモンキーが飛び出してきた宝箱に、向かって声をかける。でも呼びかけに答える者はいなかった。宝箱の中には何も入っていない。空っぽだった。


「アカシ……アオイはここにはいないようだ……宝箱にも何も入ってない」


「ウソだ……ウソだ……アオイは!? アオイはどこに行ったの!?」


「それは……オレだってわからない。だけどトラップ付きはクリア条件を満たせば、ただの箱になるからな……」



 私は愕然とした。たったひとりの家族だったのに。

 去年、父さんと母さんが流行り病で死んで、私には、私の家族はアオイだけだったのに!!

 なんて事をしたんだろう。


 これは、私の判断ミスだ。私があの時、宝箱を開けるって決めたから! 全部全部、私のミスだ!


 ————見つける。絶対にアオイを探し出す。




 それから私は、アオイを探すためにトラップ付き宝箱ばかり開封するようになった。同じトラップが出てきたら、もしかしたらアオイを取り返せるかもしれない。そう思っていた。


 周りの人はもうとっくに死んでるとか、戻ってくるわけないって言うけど、私はアオイが死んだのを見てないし、戻らないのが事実かもわからない。



 それは私がアオイを諦める理由にならない。



 トラップ付き宝箱の魔物はけた違いの強さなのはわかっていた。でも、一度倒せば一気にレベルも上がるし、少しずつ楽にこなせるようになっていった。


 困ったのは訳のわからないトラップだ。想像を超えたトラップにハマって、仲間の腕が切り落とされたこともある。まぁ、あの時はシェイドがヒールひとつで治してくれたから、仲間も大丈夫だった。

 ちなみに私がシェイドに目を付けたのはこの時だ。


 そうして私はマネーモンスターの分け前を元手にして、ギルドをたち上げた。それがユートピアだった。


 トラップ付きの宝箱の攻略は命懸けだったから、真っ先にシェイドを誘ったんだ。おかげでかなり安全に攻略できるようになった。



 余裕が出てきたのでトラップの攻略の仕方によっては、何かあるのかもしれないと色々と試してみた。結局変わりはなかったけど、トラップ攻略のことばかり考える毎日だった。


 そのうちトラップを攻略するのも楽しくなっていて、ワープした時はスキルを最大限に使って調べつくした。



 いつの間にか、ただの鑑定スキルは『神の鑑定(オール・アレイザ)』に進化して、レベルもかなり上がっていて大盗賊と呼ばれていた。

 最初にシェイドを誘って、次にレイが私を訪ねてきて、そしてマリナと出会って、最後にハルを拾った。


 まだ目的は達成できてないけど、私は決して諦めない。




    ***




「だから、もし青い髪と目の男の子が出てきたら教えてくれる? 弟かもしれないから」


 アカシさんは揺るがない強い瞳で、そう言った。

 すごいなと思った。俺ならとっくに諦めてる。でも、そんな真っ直ぐな人だから力になりたい。


「もちろんです! 真っ先にアカシさんに報告します」


「あ、これでこっちのマッピングは終わったね。あっちは……もう少しかな。うん? トラップ付き見つけたみたいだ! 合流しよう」


「はい!」


 アカシさんの強さは、きっとその揺るがない強い心だ。それなら俺はこのユートピアのメンバーを信じる、それを強さに変えよう。そして返しきれない恩を、少しずつ返していこう。




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