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28、魔王城




 ついに魔王城へ向かうとの連絡がユートピアに届いたのは、エリーニス遺跡のトラップ解除が済んでから1週間後の事だった。


「これで、トラップ破壊の仕事も最後ですね……」


「そうだなぁ、まぁ、しばらくは暇になるだろうな」


「じゃぁ、この仕事が終わったら違う国にでも行くってのはどう?」


「外国かぁ……いいかもしれないな」



 そこからアカシさんとレイさんは次の国はどこがいいのか議論を始めた。

 魔王はこれまで勇者が討伐してきた。だが、ある程度の時間が経つと復活してしまうのだ。そしてまたダンジョンに魔物がはびこる。いつダンジョンから出てくるかもしれない魔物におびえて暮らすのだ。


 だから魔王が復活すると王家から勇者を選定して、魔王討伐の旅に出るようになっていた。


「レイ、準備が整ったぞ。頼む」


「さぁ、魔王城のトラップもきっちり破壊してきましょう」


「はい! 全部俺が破壊します!」


「よーし、じゃぁ、転移するよー」



 俺たちは最後のダンジョンである、魔王城へと向かった。




     ***




 薄暗い空は今にも雨が降り出しそうだった。雲の隙間が光ってゴロゴロと雷鳴がとどろいている。

 魔王城は壁も屋根もすべてが黒く塗りつぶされて、その不気味さをより強くしていた。


 正門はすでに跳ね橋が下されている。そしてその先にある両開きの扉は、やはり漆黒の木材で作られていた。扉を押すとギィィと音を立てて開いた。


 中に入るとそこは深紅のカーペットで埋め尽くされ、豪華なシャンデリアが天井に飾られていた。目の前には2階へつづく階段が、弧を描いて設置されている。

 外の雷鳴が少し聞こえてくるくらいで、他に音はなかった。とても静かだ。


「魔王城は初めてだなぁ。ちょっとマッピングするから付き合ってくれる?」


「いいよー」

「承知しました」

「うむ、問題ない」

「わかりました」



 ぶっちゃけ、俺も魔王城の中に興味があった。こんなところまで一般の冒険者が来る事はない。

 まずは最初の広間で、トラップを一気に破壊する。



「多重トラップ完全破壊(ブレイク)



 1時間ほど進んでみたが、魔物が出てくる気配がない。アカシさんの『盗賊の耳』も使ったけど、生き物の音は聞こえてこなかった。



「うーん、魔王城って広いし魔物いないし、マッピングするのに二手に分かれる?」


「そうですね……それなら、ハルとマリナは別のチームにしましょう。万が一に備えて攻撃できるメンバーは欲しいです」


 シェイドさんの意見には賛成だ。あとはレベルとスキルの兼ね合いでチーム分けされる。

 俺はアカシさんとふたりで周ることになった。


「何かあったら呼んで。『盗賊の耳』は常時起動しておくから」


「こちらに知らせたい時はこれを。壊せば結界が破れるので、僕がわかるようになってます。結界が壊れた場所はわかりますが追いかけられないので、動かないで待っていてくださいね」


 そう言ってシェイドさんが渡してきたのは、小さな箱型の飾りだった。

 アカシさんが受け取って腰にくくりつけていた。

 そして俺たちはそれぞれ反対方向に足を進めていく。




「そういえば、ハルとふたりで周るのは久しぶりだね」


「そうですね、大体みんなと一緒ですもんね」


「ウチのメンバーなら、ひとりでもクリア出来そうだけどな」


「ホントですよ。何なんですか、あの強さ。反則です」


 そんなどうでもいい話をしながら、マッピングをしていく。同じパーティーなら別々に歩いても、アカシさんに情報が届くらしい。便利なもんだ。



「そう言えばアカシさん前に弟さんがいるって、言ってましたよね? 弟さんはユートピアに入らないんですか?」


 ほんの軽い気持ちで聞いただけだった。前にみんなで兄弟で何番目かって話をしていた時に、弟がいるって話していた。


「そうだな……入ってほしいけど、今は無理かな」


「あ、もしかして病気か何かなんですか?」


「うーん、そうじゃないけど……ハルなら話してもいいかなぁ」


 アカシさんがどこか遠くを見つめながら、弟さんの話を聞かせてくれた。



「弟はトラップ付き宝箱に飲み込まれて、行方不明なんだ」




     ***




 あれは私が17歳で弟のアオイが15歳の時だった。ふたりとも駆け出しの冒険者で、右も左もわからない状態だった。地元の近くのダンジョンは割と低レベルだったから、よく弟と潜ってレベル上げしたり、素材を持ち帰って売ったりして生活していた。



「姉ちゃん、今日も行くだろ、ダンジョン!」


「当然だよ! そろそろトラップ付き宝箱とか開けてもいけるんじゃない?」


「俺もそう思ってた! 見つけたら開けてみようぜ」


 いつもそう言ってダンジョンに潜っていたんだ。でもその日は本当にトラップ付き宝箱を見つけてしまった。



「本当にあったんだ……姉ちゃん、どうする?」




 アオイはそう言って私に振り返った。

 冒険者登録をする時に、ギルドの受付のお姉さんから言われていた事がある。


『いいですか、トラップ付き宝箱は手を出しちゃダメですよ。ダンジョンに見合わないレベルの魔物が出てきたりするので危険なんです。貴方達は当分の間、見つけても触っちゃダメですよ』


 私は盗賊職だったから、鑑定のスキルでトラップ付きかどうかは調べられたんだ。だからこそお姉さんは忠告してくれたんだと思う。

 盗賊職のいないパーティーでは、宝箱には触れないのが一般常識だったから。


 私は考えた。

 このダンジョンでは、ボスも倒した事があるし、それもかなり余裕だった。その辺の魔物なら全然余裕で倒せる。私は盗賊で、弟は魔法使いだから、物理攻撃も魔法攻撃もできる。回復薬は? 3日前に買い込んで、まだ大量に道具袋の中にある。



「アオイ……いってみる?」


「おぉ! いっちゃう?」


「よし、開いてみよう! もし出てきた魔物が強かったら、すぐに逃げよう!」


「さすが姉ちゃん! 男前!」


「私は女だっての」


 持ち上げ方がおかしかったけど、私は気分よく宝箱に手をかけた。

 そしてパカリと開いた瞬間、紫色の蔓草のようなものが何十本と伸びてきた。そしてそれは、私とアオイに巻き付いて宝箱の中に引きずり込もうとしていた。


「アオイ!! 今っ……助け……!!」


「姉ちゃ……! 逃げっ、て!」


 盗賊職の武器は基本的に短刀だ。私はアオイを助けるために、まずは自分に絡みつく蔓草を断ち切った。

 すぐにアオイに絡まりついてる蔓草に短刀を入れるが、何度目かの攻撃で刃が折れてしまった。


「アオイ! ファイアストームで焼き払って!」


「……っ、ね……ちゃ……」


 アオイの身体どころか、首も顔も手も足もほとんどが紫色の蔓草に絡め取られていた。

 左目だけはまだ隠れていなくて、最後に笑ったのが理解できた。


 アオイはそのまま宝箱の中に引きずり込まれていった。




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