27、勇者パーティーのダンジョン攻略⑦
ジェレミーとクララは次の目的地であるエリーニスの遺跡に到着し、ユートピアの、ハルの到着を待っていた。
あらかじめ到着する日時を遅く伝えていたので、ここで待っていれば必ずハルをつかまえられるはずだ。
そして今度こそ、私の命令をきかせるのだ!
待つこと2日。宿屋に戻っている間にハルたちが来ては、トラップ解除の前に接触できないので、この私が野宿をして待っていた。
食事はクララに用意させていたが、その他のことはひたすら耐えるしかなかった。第3王子でもあるこの私が、あれほどの屈辱に耐えたのだ。何としても命令を下さなければならない。
「ジェレミー様! ハルたちが来ました!」
クララの声かけで、エリーニス遺跡の入口に視線を向けた。転移魔法で現れたハルたちがすぐに遺跡に入ろうとしていたので、あわてて声をかけたのだ。
「ハル! やっと来たか! 遅いではないか!」
この勇者である私が2日も前から待っていたというのに、ハルの対応はそっけないものだった。
「何か用ですか?」
私に対する態度がなっていないと怒鳴りつけたかったが、グッとこらえた。後ろにいるメンバーたちが、揃いもそろってこちらを睨みつけているのだ。
まったく何という態度なのか! おそらくハルはあのメンバーに感化されて、先日から生意気な態度をとっておるのだな。
あのパーティーは父上に報告して解散させよう。
「それならば、以前のように魔物も倒して来るのだ!」
「は? いや、無理です。国王陛下から極力、魔物は倒すなと指示が出てるので」
「何だと!? 父上からそのような……構わぬ! 気にせず倒してくるのだ!!」
何故……父上がそのような命令を……? ダンジョンを周り切れば、魔王を倒す事など私には簡単な事だというのに……信じていないのか?
「王命ですから無理です。ていうか、あの程度の魔物で苦戦してたら、トラップ一つで30回は死にますよ?」
「なにっ!? そんなバカな話があるか!!」
「では、そろそろ行きますので、失礼します」
ハルたちはそのままダンジョンへと潜っていった。
私はその時ひらめいたのだ。
ハルたちの後ろをついて行けば、ある程度は魔物を倒すであろう。残った魔物を私が倒せば、クララとふたりでも安心して進めるはずだ。
「クララ、ハルたちの後を追うぞ! あの者たちがトラップの解除をして進むところをフォローするのだ!」
「え……? 私たちがフォロー……ですか?」
困惑したクララだったが、大人しく私についてきた。
だが、つい数分前にダンジョンに入って行ったハルたちの姿が見当たらない。近くで魔物と戦っている気配もない。
忽然とその姿を消していたのだ。
「どこに……行ったのだ……?」
「ジェレミー様、どうしますか? このまま進みますか?」
「……一旦街に戻る」
先日路銀を受け取ったばかりだ。今のところ資金に余裕はある。
王命でハルたちが魔物を倒さないのであれば、この近くの街でメンバーを調達するしかない。そして、このダンジョンをクリアして、次の魔王城に挑むのだ!
***
ジェレミーたちは街の宿屋をひと部屋だけとって、冒険者たちに声をかけた。だが、やはりここでも仲間になる冒険者は見つからず、ただ部屋に引きこもるだけだった。
そして、宿屋の主人に文句をつけては宿代を値引かせていた。そんな宿屋の夫婦の愚痴を、ミハイルが聞いていた。少し考えた後、ミハイルは一通の書簡を伝令係りに託す。
(これで少しは動くだろうか……魔王城まで進ませて、さっさと仕事を終らせたい)
書簡を出してから5日後、ジェレミーが滞在する宿屋に3人の冒険者が訪れた。
「ご主人、この宿に勇者様が滞在していると聞いて来たのだが、間違いはないだろうか?」
宿屋の主人に声をかけたのは、フードを目深にかぶった青年だった。顔立ちははっきり見えないが着ている物は上質そうだ。
ちらりと見えた瞳は、晴れた日に見る海のような碧眼だった。
「え、ええ。間違いございません。確かに当宿屋に宿泊されています」
「仲間を募集していると聞いたので、お供させていただきたいのだ。取り次いでもらえるだろうか?」
とても丁寧な物腰の青年を、宿屋の主人は「もちろんでございます!」と張り切ってジェレミーの部屋へ案内した。もし仲間になりたい者が来たら、部屋に通すようにジェレミー本人に頼まれていたのだ。
「勇者様、仲間になりたいという冒険者の方がお見えです」
「本当か!? よし、通してよいぞ!」
「失礼します」
宿屋の主人が開けた扉から、主人に礼を言って青年が部屋へと入る。その後ろを同じようにフードをかぶった冒険者たちがついて来た。
宿屋の主人が最後に一礼して扉を閉める。その途端、後に入ってきた冒険者がジェレミーのいる部屋全体に結界を張った。
「なっ、何者だ! 貴様らは!?」
「へぇ、いつから僕にそんな口をきくようになったのかな?」
青年は穏やかな声でジェレミーの問いかける。同じ部屋にいるクララは、だんだんと顔が青ざめていく。どうやら青年が誰なのか気がついたようだ。
「貴様! 私にそのような態度をとって無礼だぞ! 名を名乗れ!!」
その言葉に、青年は目深にかぶったフードをとった。
「ユリウス・ヴェルト・エストラーダ。君の兄だよ。忘れてしまったのか?」
ジェレミーと同じ輝く金髪に、碧眼の美青年がそこにいた。ジェレミーは固まって動けない。
「兄上も来たいと言ったんだけどね、政務が滞ってしまうから僕だけ来たんだ。ジェレミー、困ってるみたいだね?」
何故……よりによってユリウス兄上が!? 第2王子は外務担当で1ヵ月前から南国へ行っていたのではないか!? 戻るのはまだ先だと聞いていたのに……!!
ジェレミーにとってユリウスは天敵だった。幼いころから何をやっても敵わない。駄々をこねていれば、ユリウスがやってきて強烈なお仕置きをされてきた。
第1王子のフェリスは年が離れていたせいか、まだ優しさを感じたがユリウスに甘えは一切通用しなかった。
「どうしたんだ? ジェレミーが困っていると聞いて、僕が直々に助けにしたんだよ」
そう言って微笑むユリウスにクララは思わず見惚れてしまった。だがこの後、激しく後悔することになる。
***
「ほら、前から来ているよ、ジェレミー休んでないで攻撃しなさい。クララは回復のタイミングが遅い。下手したらジェレミーが死んでしまうよ。そうなると君は牢獄行きだね」
ユリウスの護衛で付いて来たふたりも気の毒に感じるほど、ジェレミーたちは追い込まれギリギリでエリーニス遺跡を進んでいた。
ユリウスはジェレミーとクララを前に立たせ、後ろから戦闘の助言をしているだけだった。後ろのふたりもユリウスの護衛なので、ユリウスに危険が及ばない限りは、手出し無用と命令されている。
それはまるで、いつかジェレミーが仲間たちにした仕打ちそのものだった。
「わかっています! 今倒します!!」
「ハイヒール!!」
「あぁ、今度は早すぎるし、ハイヒールでは魔力の無駄使いだね。ジェレミー、今のは避けてカウンターだろう? 君たちよくこれでここまで来れたね?」
ふたりの護衛は主人の鬼っぷりが気の毒すぎて、自分の仕事に集中することにした。
だが、護衛たちはユリウスがミハイルからの書簡をもらって、本当は悲しんでいるのを知っている。頭の回転の早いユリウスはその書簡を見て、ジェレミーの処分が決定的だと察したからだ。
兄としてできるのは、魔王を倒せるように協力するくらいだった。
「兄上っ……少し休憩を……」
「ジェレミー、何を言っているんだ? 君はダンジョンの攻略中に、メンバーに休憩を与えた事があるのか? それならば僕も考えよう。そうでないなら、先に進むんだ」
こうして第2王子の協力により、ジェレミーたちは死に物狂いでダンジョンの攻略をこなしたのだった。
「何だ、やればできるじゃないか。これなら魔王も倒せるかな……? あぁ、逃げても無駄だからね。わかっているよね? では、僕は王城で報告を待っているよ」
そう言って第2王子ユリウスは王都へと戻っていった。さらにボロボロになったジェレミーとクララを残して。






