25、エリーニスの遺跡
次に勇者たちが向かうダンジョンが決まった。
エリーニスの遺跡だ。ここはヒュプノスの地下牢から、さらに120キロメートル北上したところにある。前回から1ヵ月くらい経っていた。
無事に全員夢から覚めて、虹色の宝箱の報酬が『妖精の涙』という宝石だった。3億ゼルで売れたのも大きく、かなり余裕もできたのでその間は俺たちものんびりしていた。
いつものようにレイさんの転移魔法で、ダンジョンの入口までやってきた。そこでまたしても、ジェレミーたちが待っていたのだ。
「ハル! やっと来たか! 遅いではないか!」
いや、別に待ち合わせもしてなければ、知らせが来てすぐにこっちに来たんだけど。何が遅いというんだろう。
……ていうか、さらに一人減っている。仲間はクララだけなのか?
「何か用ですか?」
「うむ、これからトラップ解除をするのだな?」
「そうですけど」
「それならば、以前のように魔物も倒して来るのだ!」
えーと、このバカ王子はわかって言ってるのか? 俺はもう勇者パーティーから抜けてるから、俺が倒してもそっちには経験値なんて入らないんだけど? そもそも、魔物については国王陛下から指示が出てるし。
「は? いや、無理です。国王陛下から魔物は倒すなと指示が出てるので」
「何だと!? 父上からそのような……構わぬ! 気にせず倒してくるのだ!!」
もしかして……パーティーメンバーが減って倒せないから、俺にやらせようとしてるのか?
そう考えたら、冷たい感情が一気に心を支配する。
「王命ですから無理です。ていうか、あの程度の魔物で苦戦してたら、トラップ一つで30回は死にますよ?」
「なにっ!? そんなバカな話があるか!!」
誇張でも何でもないんだけどな。そろそろ面倒くさいから、ダンジョンに潜りたいんだけど。もう置いてっていいかな。
「では、そろそろ行きますので、失礼します」
いい加減話にならないので、多少強引だったけど切り上げてアカシさんたちの元へ戻り、さっさとダンジョンに潜ったのだった。
ジェレミーたちも付いてきたみたいだけど、俺たちは気配遮断の魔法をかけているので、追い掛けて来ることはなかった。
***
ダンジョンを少し入ったところで、アカシさんが『神の鑑定』でトラップを浮き彫りにしていく。
「うわ、今回はトラップ多いな。全部で53あるよ」
「そうですか、じゃぁ、アレ試してみます」
アカシさんがニヤリと笑って、全員の反応が観察できるポジションを確保していた。めちゃくちゃワクワクしているのがわかる。
「そうか、頼むよ、ハル。他のメンバーはフォローよろしく」
俺は膝をつき両手をダンジョンの床にしっかりとついた。前回よりもかなり多めに魔力を注ぎ込む。一度で53匹の黒蛇が操れるように。
「多重トラップ完全破壊」
俺の手のひらから一斉に放たれた黒蛇が、ダンジョン内を網羅していく。
「うっわ、コレって……!」
「む、まさか……!」
「これは……もしかして」
ハルは集中力を切らさないように、黒蛇たちの手応えを拾い上げていった。ひとつひとつ確実に、トラップを破壊していく。ダンジョンの奥からは、何かが落ちる音や崩れる音、やぶれる音など様々な音が響いてきた。
そして、全ての手応えを感じてそっと目を開けた。
「トラップ破壊は終わりました。アカシさんチェックお願いします」
「んー、オッケー! 全部処理できてる」
「ハル! また新しいスキル覚えたのか! これ、めっちゃイイじゃん!!」
レイさんが肩を組みながら、大袈裟なほど褒めてくれる。面倒くさがりなレイさんはとても喜んでくれた。
「たしかに、これでかなり効率的に動けますね」
「うむ、これならば早くトラップ付きにたどり着けるな」
「よっし、じゃぁ、二重で気配遮断して行こう。最短記録更新しようぜ」
「いいね! ほら、みんな早く行こう!」
そうしてアカシさんが先頭を切って歩き出した。
そこからは早かった。本当に過去最速で、ダンジョンの規模なんかも考慮して一番だったと思う。
「やったな! 1時間切った!!」
アカシさんが懐中時計を見て、ガッツポーズしてる。ダンジョンから出てきた時には、ジェレミーたちの姿はすでになかった。
「ジェレミー王子に捕まらなければ、もう少し早かったですよね」
「何を言ってる、アレもトラップのひとつだ」
「ブハッ!! マリナっ……その解釈いいな!」
レイさんは腹を抱えて笑っている。そうか、ジェレミー王子はトラップか……それなら対処するのも楽しくなるかも。
そしてシェイドさんもトラップ認識したようだ。
「では、54個のトラップがあるダンジョンの攻略が、1時間弱でできたということですね。上出来です」
「じゃぁ、早速地下室に行こう!」
こうして、おそらく史上最短でダンジョンの整備を終えた俺たちは、いつものギルド地下室に移動したのだった。
***
今回見つけたトラップ付き宝箱は、トゲがたくさんついた刺々しい宝箱だった。
この宝箱は持ってくるのに本当に苦労したんだ。トゲが……身体に刺さって痛かった。シェイドさんの身体強化魔法と、レイさんの風魔法の補助がなければ、現地で開封するところだ。
今回の担当はマリナさんだ。
ゆっくりと宝箱の前まで進んで、膝をつく。
「この洗練されたフォルム……たまらん。棘の大きさも均一でないところがまたそそられる……」
何やらうっとりしながらブツブツ言ってるけど、まぁ、気にしないでおこう。やがて、十分堪能したのか満足したマリナさんが宝箱の蓋に手をかけた。
「開けるぞ」
マリナさんが宝箱を開けた途端、眩い光が溢れ出した。瞼を閉じても尚光が差し込んでくる。あまりの眩しさに一瞬気が遠くなった。
気がついた時には、すでに光は消えていて見知らぬ場所に倒れていた。目の前には荒れ果てた荒野が広がっている。木々は枯れ果て、大地はひび割れていた。地平線まで続くその景色は、まったく生命の気配がなかった。
「ワープしたのか……あ、みんなは!?」
慌てて周りを確認すると、みんな近くに倒れ込んでいた。回復ができるシェイドさんから声をかけて起こしていく。
「シェイドさん! シェイドさん! 起きてください!」
「……うっ……ハル、ですか?」
「はい、またワープで飛ばされたみたいです。何にもない所みたいですけど……」
「ふむ……まずは他のメンバーも起こしましょう。これでは無防備すぎる」
そして俺とシェイドさんで、声をかけて全員を起こした。
すると、ピコンと機械音がする。何度か聞いたことのある、あの音だ。目の前にメッセージが展開される。
『クリア条件——この世界にいるデーモンを全て倒してね☆ 残り10000体』
「デーモンを全部……ていうか、どこにいるんですかね?」
あたりを見回してみても、何もない。ただ地平線まで荒野が広がっているだけのはずだった。
「……いるな。魔法で隠れてるだけだ。レイ頼む」
アカシさんが腕組みしながら、真っ直ぐに前を見据えている。
「スペル・リセット」
そう言ってレイさんが手をかざすと、目の前の景色がまるで石を投げた湖面のように波紋を広げていく。そして新しく現れたのは、俺たちを取り囲む10000体のデーモンだった。






