22、虹色の宝箱
ギルドの地下室に戻り、イラつく気持ちを吐き出すように溜息をついた。
顔をあげるとみんなの視線が俺に集まっていて、心配を掛けてしまったと気づく。本当に優しい人たちだ。こうやっていつも俺を気遣ってくれるんだ。
「あ、大丈夫です! 本当にビックリするくらいどうでもよくて……それより早く宝箱を開けましょう!」
「そうか、なら早速オープンしようか!」
今回の宝箱は、虹色の宝箱だ。
マリナさんがすごく気に入った様子で、すでに名前を考えている。今回はレイさんが宝箱の開封だ。どんなトラップが来てもいいように、心構えはしておく。
「じゃぁ、開けるよ~!」
開けた瞬間、レイさんが身体の力が抜けたように宝箱にもたれかかった。何事かと思って駆け寄ろうとするも、クラリとして視界が暗くなる。他のみんなも膝をついたり、床に倒れたりしていた。そして俺もあらがえない程の眠気に、意識は暗転した。
***
気がついたら俺はユートピアの寮の自分の部屋にいた。
あれ? 今何してたっけ? えーと……あ、そうだ、宝箱をオープンしようと思ってたんだ。何で自分の部屋に戻ってきちゃったんだろう……地下室に行かないと。
そうして、いつも宝箱を開封している地下室へ向かう。
扉を開けると、そこには虹色の宝箱が山のように積んであった。
「うわ! すごいたくさんあるなー! これ全部開けていいのかな。順番どうしよう……順番?」
いや、今ここにいるのは俺ひとりだ。順番とか気にしなくて大丈夫……のはずだ。
でも、何かが違う。俺は本当にひとりなのか? いや……ひとりじゃない。絶対に忘れたらいけない人たちがいる。でもそれがどんな人たちだったのか、モヤがかかってるみたいで思い出せない。
今度は建物の中を歩き回ってみた。俺の部屋があったフロアには、他にも個室がたくさんある。俺の他にも4人が暮らしてるみたいだ。やっぱり俺はひとりじゃない。
その人たちを思い出さないと、前へ進めない気がした。
勝手に申し訳ないと思ったけど部屋をのぞかせてもらった。でもやっぱり、モヤがかかって思い出せない。
他に何かないか、ひとつ下のフロアに降りてみた。
俺は何気なく食堂に入った。なんていうか、身体が勝手にそこへ向かっていた。降りてきたらここに来るのが当然みたいに、体に染みついている。
食堂に入って大きな円卓のテーブルに目をやると、一瞬だけど忘れている何かが浮かび上がった。
それはとても楽しくて、温かなもので。何故、今思い出せないのかわからない程だ。
身体が動くままにそのテーブルへ向かい椅子にかけた。
そう、いつもこの席で笑ってた。
その時コツンとつま先に硬いものが当たる。何だろうと思ってテーブルの下をのぞいてみると、ここにも虹色の宝箱があった。
「こんなところに……怪しいな」
こんな食堂のテーブルの下に、宝箱なんて置くわけない。誰かが意図して置いたものだ。これを開けるか迷ったが、まずはテーブルの下から引きずり出してみた。
そして、どうするか考える。
最悪モンスタートラップだとしても、まぁ、問題ないだろう。スキルが使えれば倒せるはずだ。もし違うトラップだとしたら……その時はその時で何とかするしかない。
ジッとしてても、大切なものを思い出せる気がしない。
俺は意を決して、宝箱の蓋に手を伸ばした。
蓋を開けたとたんに流れ込んできたのは、忘れていたと思っていた大切な人たちの記憶。
何故ユートピアのみんなを忘れてしまっていたのか、最後に理解した。
これが、虹色の宝箱のトラップだ。
ここは夢の世界で欲しいものを与えていると見せかけて、本当に大切なものを奪うんだ。そして夢から抜け出せなくなり、やがて身体は朽ち果て精神は宝箱に取り込まれてしまう。
多分、虹色の宝箱を開けたから正気に戻ったんだ。それなら、他のみんなも同じかもしれない。
でも、どうやって他の人の夢に行けばいいんだろう。
そこでピコンと音がして目の前に文字が浮かび上がる。エンシェント・ドラゴンの時と同じだ。
『クリアおめでとう~~~!! 夢の中で開封した虹色の宝箱の個数によって報酬が変わるよ☆ 次の夢に進みますか? YES NO 好きな方をタッチしてね!』
「そんなの決まってる。みんなも正気に戻すんだ」
俺は迷わず『YES』をタッチした。
***
オレはずっと欲しくてたまらないものがあった。だけど、もう二度とオレには得られないものだと理解していた。そのはずだった。
目の前に広がる景色は幼い頃住んでいた家と、その前に立って手を広げている女性。
「レイ……さぁ、いらっしゃい」
「————母さん……?」
目の前に母さんがいる。
あんなに求め焦がれた母さんが。その途端、今まで明確にあった記憶に自信がなくなった。
あれ? オレが9歳の時に母さんは死んだはずじゃ……いや、目の前にいるんだ。オレのせいで死んだのは……夢、だったのか?
そうだよな、そっちが夢か。よかった……ずっとずっと母さんに会いたくて、会いたくてたまらなかったんだ。
そして、ごめんって謝りたかった。
「母さん、ごめん……ごめんね」
母さんはオレを優しく抱きしめてくれた。こぼれ落ちる涙を拭きもせず、ただ謝り続けていた。気づいたら記憶の中と同じように、オレは母さんの腕の中にスッポリとおさまっている。
「ふふ、そんなに謝らなくてもいいわよ。母さんは何も怒ってないわ」
優しくオレの頭を撫ででくれる手は、記憶の中と何一つ変わらない。
あれ? おかしいな。記憶ってなんだ? まるで母さんとずっと会ってなかったみたいだ。そんなはずないのに。オレは今9歳で、そんなに長く離れたことあったっけ?
それにオレは何に対して、泣きながら謝ってたんだっけ?
母さんはずっとオレのそばにいたのに————
その時、カチャリとどこかの扉が開く音がした。
誰だ? オレと母さんの邪魔するやつは排除する。視線を向けると、どこか見覚えのある黒髪の青年が立っていた。
「レイ……さん?」
「何だよ、お前は誰だ? でも、どうでもいいか。邪魔する奴らは消すだけだ」
オレは母さんの腕の中から、右手を出して魔法を放った。
「ファイアボール」
「うわっ! この威力! やっぱりレイさんだ! 俺です、ハルです! 思い出してください!!」
何言ってんだコイツ。オレはこんなやつ知らない。こんな頭のおかしいやつを近づけたらダメだ。母さんにまた何かあったら困るんだ!
「うるさい。お前は邪魔だから殺す」
そしてオレは魔力を両手に込めて思いっきり、魔法を放った。






