20、勇者パーティーのダンジョン攻略⑤
ハルたちがギルドの地下室で、トラップ付き宝箱の攻略を堪能していたその頃、ジェレミーたちはアレス神殿に到着して、ダンジョンの攻略を進めていた。
「クララ! 私の回復が間にあっていないぞ!」
「すみません、先にソニアを回復しないとダメージが大き……」
「何を言っている! 何事も勇者である私が最優先だ! 間違えるな!!」
ジェレミーは前回のエレボスの塔で、手に入れた羅刹の剣を装備していた。防御力は少し落ちるが攻撃力が高いので、今のところ魔物を倒すのは問題ない。
だが、やはりダメージが大きく感じる。万が一私が倒れては先に進めないので、回復はまめにしなければならないだろう。
「クララ……私は大丈夫だから。先にジェレミー様を回復して」
「ソニア……すぐに戻るから!」
クララはジェレミーの指示に従い、勇者から優先的に回復魔法をかけていく。
途中の宝箱から、パーティーメンバーが使えそうな武器や防具もでてきたので、装備を整えながら進んでいった。
そして、トラップもないダンジョンを魔物を倒しながら進み、一気に5区画まで進んだのだった。
「よし、次はいよいよボス戦だ。準備はよいか?」
ジェレミーがメンバーたちに声をかける。このアレス神殿の宝箱からでた防具で、クララやロザリーは見の守りを固めていた。魔法使いや僧侶は勇者と違ってすぐにやられてしまうから、準備が整ってより万全な状態だった。
5区画の最奥に一本の細い通路が伸びている。ここを進めば、ボスのいる最終区画に進む事が出来るのだ。ジェレミーたちは一歩、また一歩と足を進めた。
やがて大きな半円のドーム型の建物の前に出た。木製の扉を押し開き、中へと入っていく。
そこにはアレス神殿のボス、デスナイトが待ち構えていた。騎士タイプの魔物は高い防御力を持ち、巧みに剣を使って攻撃を仕掛けてくる。
ジェレミーたちが身構える前に、デスナイトが襲いかかってきた。
「くっ!!」
最初の一撃をソニアが受け止める。デスナイトは腕を振り上げ、今度は横一閃した。ソニアはそれをバックステップで回避する。
「サンダーボルト!!」
ロザリーの雷魔法がデスナイトを直撃して、一瞬動きを止められた。そこへソニアが再度切り込む。
もろに攻撃を喰らったデスナイトは、体勢を崩して膝をついた。
「よし、今だ!!」
ジェレミーが勢いよく突っ込んで、羅刹の剣を振り上げていた。たが、ソニアはデスナイトの剣がピクリと動いたのが視界に入った。
(っ!! あの体勢から攻撃するつもりだ!!)
羅刹の剣を装備した事によって、ジェレミーの防御は落ちている。そこにさっきのような一撃を受けたら————ソニアの身体は勝手動いていた。
デスナイトとジェレミーの間に、ソニアは体を滑り込ませる。剣を構えようとして、一瞬早くデスナイトの剣先がソニアの鼻先をかすった。
「ソニアッ!!」
「っ……!!」
クララの悲鳴に近い叫びに、ソニアを見てロザリーは言葉を失った。
ソニアの右腕が、切り落とされていたのだ。
ジェレミーは目の前で起こった事に、茫然としていた。
ソニアはすでに大量の血を流し、その場に倒れている。クララは近づきたくても、デスナイトの距離も縮まるので動けないでいた。ロザリーはデスナイトにできる限りの攻撃魔法を放ちまくる。何とかデスナイトの隙を作るのに必死だ。
ロザリーの魔法攻撃でデスナイトの足が止まっている間に、ジェレミーは距離をとった。ソニアをそのまま置き去りにして、自分だけ逃げ出してきたのだ。
「ジェレミー様! ソニアは————」
「アイツはもうダメだ! これではデスナイトを倒せない! 私までやられてしまうではないか! 退却するぞ!!」
「……今度はソニア……」
「ロザリー! クララ! 退却だ!!」
ジェレミーたちは、今度はソニアを置き去りにしてアレス神殿を後にした。
***
街に戻ったジェレミーたちは、一言も言葉を交わさずに部屋に入った。宿屋の主人は、帰りの冒険者の人数が減ることなど日常茶飯事なので気にも留めない。
部屋にひとりになったジェレミーは今後のダンジョン攻略の事を考えていた。アレス神殿に置き去りにしたソニアの事は仕方のない事だったと、すでに割り切っている。
攻撃が一人減ってしまったな……これでは私の負担が大きすぎる。しかし父上に相談する訳にもいかない……私自ら補充するしかないのか?
だが、第3王子で勇者の私からその辺の冒険者に声をかけるなど……そんなことは私のする事ではないな。そうか、クララとロザリーに冒険者を連れてこさせて、私が面談をすればよいのだ!
うむ、そうしよう!
こうして、1週間に及び冒険者たちのスカウトと面談が行われた。
「ダメだな……勇者パーティーに相応しい者がおらんな」
クララとロザリーが連れてくる冒険者は、攻撃タイプの者だったが田舎くさかったり、レベルが低かったりで中々決まらなかった。1週間何もせずに宿屋に滞在していると、路銀も尽きてくる。そろそろ答えを出さなければならなかった。
「これでは、どうにもならんではないか! 本当に冒険者を見てきているのか!?」
「はい……物理攻撃タイプで探してきてます」
「いいなぁ~って思う人は、もうパーティー組んじゃってるのよぉ」
「もうよい、私が見てくる!!」
ジェレミーは仕方なく宿屋に併設されている酒場に向かう。他の街でもこういった場所に、冒険者が集まっているのを見かけた事があった。
そこで思わぬ話を耳にする。
「何だって!? アレス神殿もトラップなかったのか!?」
「そうなんだよ! それでな、やっぱり鍵屋がやってたんだってよ!」
「ジョアンさんから聞いたけど、ハルっていう暗殺者なんだって」
「あ、それならオレも聞いた! あれだろ、トラップ完全破壊だろ!」
「何だよそれ!?」
「トラップを破壊するから、もう復活しないんだってよ」
「ジョアンさんが、【完全無欠の鍵屋】だって言ってたぜ」
「完全無欠……そうだな、わかるわ!」
「へぇ、ハルねぇ。すごい暗殺者だなぁ。何で今まで無名だったんだ?」
「それがな————」
「おい! 今の話は何だ!? 事実なのか!!」
ジェレミーはハルがまるで生きているような話しぶりに、声を掛けずにはいられなかった。
「え? 何だよ、お前は……?」
「私は第3王子で勇者でもある! そんなこともわからんのか!? それより、ハルというのは、暗殺者のハルのことか!?」
「し、失礼しました! ハルは、そうです。勇者様のパーティーにいたハルと聞いております」
何ということだ……ハルは死んでなかったのか!? でも、それならよい方法があるではないか!
また、私のパーティーに戻せばよいのだ! 以前の事は水に流してやると言えば、喜んで戻ってくるであろう!
やはり、私には運まで味方しているようだ!!
***
時間は少し遡り、ジェレミーたちがデスナイトのボス部屋から去った後の事だ。
ひとりの男が、デスナイトの前に立った。
黒装束で身を包み、細長い片刃の武器を手にしている。その男が放つ殺気に、デスナイトは身動きできなくなっていた。
彼は隠密のミハイル。国王の命を受け、密かにジェレミーたちの動向を監視し、報告をしていたのだ。もしもパーティーメンバーに危機が迫るようなら、フォローするようにとも言われている。
女剣士はまだ息があるが、早く治療しなければ間に合わない。
ミハイルはソニアを抱え、次の瞬間には姿を消した。






