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19/32

19、自分を信じる




「マジか!? ……エンシェント・ドラゴンじゃん!!」


 あまりの出来事に自分が何をしていたのか、一気に吹き飛んだ。

 しかも俺を見つけて、何故かこっちに向かってきてるんですが!?


 その時、目の前に文字が浮かび上がった。トラップの世界では何でもアリらしい。



『クリア条件——目の前の敵を倒してね☆』



 俺は、念のため周りを見渡してみた。もちろん、他に魔物がいないかどうかだ。だが残念なことに、この世界には俺とあのドラゴンしかいない。


 つまりエンシェント・ドラゴンをひとりで倒せってことか?

 マージーかーよー!!!!


 いくらイヤでも、ここから逃げる方法もわからない。どうやら()るしかないみたいだ。完全即死(パーフェクト・キル)が有効ならいいんだけど。

 アカシさんの神の鑑定(オール・アレイザ)もトラップ付き宝箱には、完全に有効ではなかったんだ。


 俺は覚悟を決めて、エンシェント・ドラゴンに向き合う。全身に魔力を巡らせて、身体能力を最大限にまで高めていく。


「影。闇の加護。二重ヘイスト。」


 効くかどうかはわからないけど、使えるスキルや魔法をすべて使った。気配を断ち、攻撃力と防御力を上げ、素早さの魔法を重ねがけする。とりあえず死なないように、攻撃が来たら避けるしかない。

 一撃でも喰らったら、アウトだ。


 意外にもスキルや魔法を使うと、エンシェント・ドラゴンはキョロキョロと辺りを探すような素振りを見せた。

 おお! これはスキルが有効なのか!? それなら、試すのはひとつだ!



完全即死(パーフェクト・キル)



 繰り出した双剣には、いつもの手応えがなかった。ダメージは与えたものの、エンシェント・ドラゴンはまだ生きている。

 ————コイツ、多分だけど即死無効のスキルをもってる!!



 俺のスキルが通用しないなら、地道に削るしかない。完全即死(パーフェクト・キル)が効かない相手は初めてだけど、進化前に戻った思えば対処法はある。


 魔力は充分残ってるし、ダメージは与えてるから完全即死(パーフェクト・キル)を打ちまくるしかない!

 俺は気合を入れ直して、攻撃しまくった。


完全即死(パーフェクト・キル)

完全即死(パーフェクト・キル)

完全即死(パーフェクト・キル)

完全即死(パーフェクト・キル)

完全即死(パーフェクト・キル)

  ・

  ・

  ・

  ・




 どれくらい攻撃したのか、どれくらい時間がだったのかわからない。

 でもエンシェント・ドラゴンの体力を削っているのは間違いなかった。あちこちから黒い血を垂れ流し、その痛みになのか俺の姿が見えないからなのか怒り狂っている。


 振り回した丸太のような腕をバックステップで躱し、叩きつけられる尾をヒラリと身を翻して避けた。相変わらず俺を視認できないから、相当イライラしてるみたいだ。


 でもな、こっちもひとりでドラゴン退治だから、必死なんだよ! 文句があるなら宝箱の妖精に言ってくれ!! あのメッセージは、絶対アイツからだから!!



 ————だけど、俺もヤバいな……魔力が残りわずかだ。



 自分へのバフと攻撃のスキル使用で、いつもより魔力の減りが早い。エンシェント・ドラゴンからの攻撃は、すでに精細に欠け避けるのは容易い。多分もうすぐ決着がつく。

 魔力が切れるのが先か、倒すのが先か。



 今の俺にできるのは……自分を信じることだけだった。

 確かに前みたいにひとりで敵と戦ってる。でも、孤独は少しも感じなかった。信じてくれる仲間がいるから、俺を必要だと言ってくれる大切な人たちがいるから。


 そして幸運が9999だというなら、きっとみんなも無事なはずだ。みんなが笑顔じゃないと、俺は幸せじゃない。それに、たとえ幸運が9999じゃなくても、ユートピアのみんなに会えたんだ。

 だから、自分を信じるんだ!! 俺なら()れる!!!!


 俺は、最後の魔力を双剣に流し込む。これで、どちらにしても最後だ。エンシェント・ドラゴンの背後から、振り回す尾を避けながら巨体を駆け上がっていく。


 エンシェント・ドラゴンの首元まで登り切った時に、あの世界の声が聞こえた。


『条件を満たしたので、特殊スキルを取得しました』


 っ! このタイミングで!? ほんの一瞬だけ考えて、発動するスキルを決める。もちろん、やるしかないだろう?



完全撃破(オーバー・キル)!!」



 双剣から放たれた十字の攻撃は、俺の魔力をまとってエンシェント・ドラゴンを、捕らえた。

 ピタリとエンシェント・ドラゴンの動きが止まる。



「ギョアァアァァアアア!!!!」



 空気を切り裂くような叫び声を上げて、エンシェント・ドラゴンは黒い血飛沫を上げながら倒れていった。

 岩山に沈む赤黒い巨体は、もう動かなかった。




「……た、倒した…………倒した————!!!!」




 思わず歓喜の雄叫びをあげる。今回は本気でギリギリまで追い詰められた。ひとつ違うステージに進んだ気がする。そこで、最初に見た文字が浮かび上がってくる。


『クリアおめでとう〜〜〜〜!! 報酬はさっき取得した特殊スキルだよ☆ これからも君の活躍に期待してるね!!』


 いや! 頼むから期待しないで!! もっと平和にトラップ解除したいから!!!!


 すると、ドラゴンから白い光が溢れ出し、この世界を覆っていく。俺もその光に飲み込まれていった。




     ***




 次に目を開けると、いつもの見慣れた地下室の景色が目の前にあった。


「戻って……きた?」


「おお、ハル! おかえり!!」


「よかったー、戻ってこないなと思ったわ」


 アカシさんがニッコニコで、レイさんはホッとしたように迎え入れてくれた。


「それで、ハルは何の特殊スキルを取得できましたか?」


「強いスキルであったか!?」


「……てことは、みんなもスキル取れたんですか?」


 この話ぶりだとそうだろう。俺よりみんなのスキルの方が、気なるんだけど。

 すると、レイさんが丁寧に教えてくれた。


「アカシさんは、強欲な掏摸(グリーディ・ハンド)でレアドロップがザックザク、シェイドは万物の叡智(マジック・バンドル)で魔力回復できて、マリナは破滅の雷神で強烈な一撃、俺が究極魔法の流星岩の暴雨(アルテマ)だよ」


「うわぁ、スゴいのばっかりですね。俺なんて大した事なくて、残りのHP分のダメージが与えられる完全撃破(オーバー・キル)です」


 本当にそれぞれ必要なスキルがもらえたみたいだ。今回のトラップ攻略の報酬は新しい特殊スキルって事か……まぁ、キツかったけど今後に役立ちそうでよかった。



「なんと……どの道一撃で敵を沈めるのか……」

「またエゲツないスキル取ったなー」

「なるほど、私のスキルと組み合わせれば、どんなダンジョン攻略もできそうですね」

「もうさ、あれだな、ハルが魔物担当って事でいいかな?」


 

ともかく、4個のトラップ付き宝箱を無事に開け終わった。今回はいろいろと魔道具も出たのでアカシさんは後日、国王陛下の元へ報告へと向かったのだった。




     ***




「————報告は以上です。買い取り金額はいつものようにギルドへお願いします」


「うむ、御苦労であった。……それで、アカシ。例の冒険者はどうだ?」


 いつもはさっさと買い取った魔道具のチェックをしに行く国王陛下が、めずらしく声をかけて来た。そんなに気にしてたのか……? それならここは正直に話してやろうじゃないの。


「はい、ハル・スプリングスのスキルトラップ完全破壊(ブレイク)によって、この国内のダンジョンは無くなりつつあります。また、先日新しいスキルも覚えたので魔物の撃破に関しては、国内最強ではないでしょうか」


「なんと……! やはり優秀な冒険者だったのだな……惜しい事をした」


 いや、そもそも第3王子の教育さえしっかりできてれば、何も問題なかったんだよ。とはさすがのアカシも言えなかった。国王陛下がとても悲しそうな眼をしていたからだ。

 この国王は決して愚王ではない。ただ、自分の末息子に甘かっただけだ。そのツケを今回収しているのだ。


「ハルは私が責任もって面倒見ますので、安心してください」


「うむ、彼の者が不自由ないように頼む」


「仰せのままに」




 そうして謁見室を出たところで、盗賊職仲間に待ち伏せされていた。


「よう、アカシ」


 そこにいたのは、私が前にいた大手ギルドで一緒に働いていた、同期の男だった。確か名前はジョアンだったっけ?


「ああ、久しぶりだな。何か用か?」


「いや、用ってほどでもないんだが……お前たちが入ったダンジョンのトラップが、綺麗に消えてるんだけど何か知ってるか?」


 ああ、そういうことか。そうだな、盗賊職にしてみたらトラップ解除の仕事がなくなるから、死活問題かもしれない。これは正直に話した方がよさそうだ。


「実は新人を入れたんだけど、そいつがトラップを破壊できるんだ」


「…………は? トラップを破壊?」


「うん、トラップを破壊すると二度と復活しないから、多分そのうちトラップ解除の仕事がなくなるぞ」


「ウソだろ!? そんな事できるのか!?」


「ウソじゃない。実際にヘラクレート洞窟とかベイラ遺跡、エレボスの塔、あとこの前アレス神殿も行ったから、そこにはトラップないよ」


 ジョアンはあまりの驚きで声が出ないらしい。それもそうか、今までトラップ破壊(ブレイク)なんてスキル持ってる奴いなかったもんな。


「一体……誰が……」


「ハルだよ。ハル・スプリングス。あー、ちなみにハルに何かしようとしたら、ユートピアとして相手するからな」


 念のため牽制しておかないとな。どこで逆恨みする奴らが現れるとも限らない……いや、現れたところでハルなら問題ないか。でも面倒事はないに越したことはない。


「ハル……スプリングス……。そうか、わかった。ありがとう」


 そう言ってジョアンはふら付きながらも、謁見室の前から去っていった。

 納得してくれたのか……? まぁ、それならいいか。ユートピアに手出しする奴なんていないから、心配ないな。

 そうしてアカシの記憶から、些細な出来事としてきれいさっぱり削除されたのだった。

   

  

   

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