17、一発勝負
『温泉』につかった翌日、俺も含めてだけどみんなの動きが違った。
肌がツヤツヤで、ワントーン明るく感じる。モヤモヤとした疲れはスッキリ取れて、いくらでも魔物を倒せそうな気がした。
昨日とはまるで違う動きに、ダンジョンのトラップ破壊もサクサク進んだ。
「ハル! ここだ! この通路と、右の柱にもトラップが仕掛けられてる!」
「わかりました! トラップ完全破壊!!」
左手を通路に、右手を柱に触れてスキルを発動する。黒蛇たちがトラップをもれなく捕らえていった。
ガガガガッと床下から音がして、ガコンッと柱の中から何かが落ちた音がする。そしてそのさきの扉が崩れ落ち、小さな小部屋が現れた。
『温泉』パワーが半端ない。これは、アカシさんが張り切るのもわかる。ぜひ定期的に通いたい。
「3つ目の宝箱ですね、先に運び出しますか?」
今はアルス神殿の4区画まで進んでいた。次の5区画で最後になる。かなり奥まで進んでいるので、運び出すと時間のロスが大きいのだ。
「いや、先に5区画までトラップ破壊してから、最後にまとめて持ち帰ろう。今日ならみんないけるでしょ?」
そうだ。今日ならいける気がする。
そして、俺たちはアルス神殿を2日間で周りきり、トラップ付き宝箱を計4個持ち帰った。
***
いつもの地下室に、宝箱が4つ鎮座してしている。
ここで非常に悩ましい問題がある。どの宝箱からオープンするかだ。
「誰がどの宝箱開けるか、くじ引きにする?」
レイさんがポツリと呟く。
「そうですね、それが一番平等でしょうか」
「じゃぁ、オレは前回開けたからマリナから順番かな」
「そうだね。オープンする順番は、マリナ、私、ハル、シェイドになるね」
レイさんが宝箱を開けないからと言って、張り切ってくじを作っていた。今並んでいるのは、飾り細工が綺麗な宝箱、ストライプ柄の宝箱、ツルツルした宝箱、スケルトンの宝箱だ。
「いいか、この紐の先にリボンが結ばれてる。赤なら飾り細工、青ならストライプ、黄色はツルツル、黒はスケルトンの宝箱だ」
そういうレイさんの手には布がかけられていて、4本の紐が垂れ下がっていた。片方にはさっき言ってたリボンが結ばれている。布が眼隠しになっていて、どの紐がどのリボンにつながっているのかは分からない。
「よし、じゃぁ、私はこれだな!」
「僕はこの紐で」
「私はこれがよい」
「俺は残ったのにしますね」
「それじゃぁ、結果発表でーす! じゃじゃん!!」
掛け声と主にレイさんの手が開かれて、紐がパラパラとほどけていく。
結果は、マリナさんが青でストライプの宝箱。アカシさんは黄色でツルツルの宝箱。シェイドさんが赤で飾り細工の宝箱。俺が黒でスケルトンの宝箱だった。
「うむ、それでは早速開けてもよいか?」
そう言いながらマリナさんは、ストライプの宝箱の前に仁王立ちした。もうすでに開ける気満々だよな。
「うん、まだまだあるから、ガンガン開けよう!」
アカシさんの許可を得て、マリナさんはそっと蓋を開ける。半分ほど開けところで、宝箱からぶっとい腕が伸びてマリナさんの首をつかんだ。次の瞬間、マリナさんのバトルアックスが容赦なくぶっとい腕を一撃で叩き斬る。さすがバトルアックスマスターだ。切れ味抜群すぎる。
「ギイヤヤヤァァァァァァ!!!!」
多分腕の持ち主は、ものすごい叫び声をあげて宝箱の中に戻っていった。振り返ったマリナさんの首には、ぶっとい腕がぶら下がったままだ。
「これを落としていったようだ」
マリナさんが拾い上げたのは、黒い木枠に白い砂が入った砂時計だった。
「それは、『時戻しの砂時計』ですね。使い勝手が悪いので売りでしょう」
「それってどんな効果なんですか?」
魔道具関してはさっぱりな俺はシェイドさんに尋ねる。
「これは時間を巻き戻せるのですが、記憶も一緒に元に戻るので使用感が全くない魔道具です」
「え、記憶がなかったら、きっと同じ事繰り返しますよね?」
使用感が全くないというか、すでに魔道具を使ったかどうかすらわからないじゃないか。
「そうなんです。だから売りでいいでしょう。次はアカシさんですね」
「よーし! 宝箱ちゃん、今開けるよー!」
めちゃくちゃウキウキしながら、勢いよくオープンする。他のよりも大きめの宝箱はパカーンと勢いよく開いた。
そこで出て来たのは、ところどころ穴があいた板だ。宝箱の上蓋の内側には、何故かピコピコハンマーが括りつけられている。
何だこれは? と思っていたら、ひとつの穴から、手のひらサイズの羽のついた生き物が出て来た。
『こんにちは~☆ 私は宝箱の妖精だよ! 今回は、カメカメたたきゲームをクリアしてね! ルールは簡単、穴から出てくる亀を蓋についてるハンマーで叩くだけ! 全部叩くまでゲームは終わらないから頑張ってね! ちなみにリタイアしたら、超凶悪モンスターが出てくるよ! では、スタート☆』
「え、ちょ、わわわ!」
突然始まるゲームに、アカシさんは慌ててハンマーを握りしめ亀の頭を叩いていく。叩くたびにピコピコ鳴る音に緊張がまるで感じられない。
ピコッ。ピコッ。ピコピコッ。ピコピコピコッ。ピコピコピコピコピコピコピコッ。ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコッ。ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ————
俺の前ではアカシさんが、一心不乱に亀の頭を叩いている。ものすごい集中力だ。そしてものすごいスピードだ。でも、全部っていつ終わるんだ?
「これ……あとどれくらいあるんですかね?」
「トラップ付き宝箱だからなぁ……簡単には終わらないだろうな」
「む、蓋に何か書いておるぞ」
「あと5…48……446回ですね」
シェイドさんが読み上げてくれたけど、ものすごいスピードで残り回数が減っていく。亀のスピードもどんどん速くなっている。亀がこんなに早く動くのは、何か納得がいかない。
そして残りが100を切った時だった。
『あー、ザンネーン☆ 今ひとつ取りこぼしちゃったね! はい、最初からやり直し!』
「ええ! やり直し!? くっ……ダメだ、集中力が切れた。ハル、ちょっとやってみて」
アカシさんのを見てる限りでは、このゲームは敏捷が肝だ。あの高速で出てくる亀の頭をもれなく打つには、素早さがないと追いつかない。そういう意味では、次の適任者は俺で間違いない。
「わかりました、やってみます」
俺は深呼吸して、気合を入れる。集中力だ。挑戦回数が増えるほど、クリアが遠のく。ここは、一発で決める!!
身体中に魔力を巡らせ、どんどん集中力を高めていく。アカシさんからピコピコハンマーを受け取り、宝箱の前で構えた。
もう、周りの音は聞こえない。俺の世界には目の前のカメカメ叩きゲームがあるだけだ。カウンターはリセットされて、残り1000回となっていた。
『それでは、2回戦目始めるよ〜☆』
妖精の声を皮切りに、ゲームがスタートする。
ピコッ。ピコッ。ピコピコッ。ピコピコピコッ。ピコピコピコピコピコピコピコッ。ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコッ。ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコッ。ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ————
俺は一心不乱に、ただ目の前の亀の頭を叩き続けた。
終わりなんて考えない。余計なことは考えてはいけない。考えるのは、ただ亀の頭を素早く叩くこと。そのひとつひとつの積み重ねが、やがて俺をゴールへ導いてくれるのだ。
ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ————ピコン!!
『うわー!! おめでとー!! 見事クリアだよ☆ ご褒美あるから受け取ってね〜!!』
妖精の甲高い声が聞こえてきた。ふっと顔を上げると、カウンターは0になっている。
後ろでアカシさんたちが何やら騒いでいた。はぁー、役に立てたみたいでよかった。さすがに腕と肩が痛いから、シェイドさんにヒール頼もう。いやぁ、ダンジョン攻略より頑張ったわ。
俺はトラップをクリアした達成感に包まれていた。






